ダメだダメだと思っているのに、慣れた体は弟の指をあっさりと受け入れて、それどころか気持ちが良くてたまらないと訴えてくる。弟が相手だというのに、否応なく感じてしまうのが辛い。弟が相手だからだと、頭のどこかではわかっているから尚更だ。
嫌だと逃げかけるたびに力で押さえつけられてしまえば、逃げ出せないのだと思い知っていくばかりだけれど、だからってこのまま抱かれてしまってもいいとは思えない。なのに、血の繋がりなんかクソくらえと言い切った相手に、どう引いて貰えばいいのかなんてわからない。
「なぁ、なぁ、やめよって」
それでも繰り返し、止めようと訴えかける。どうしていいかわからなくても、弟の手に感じていても、この行為を受け入れているのだと思われたくない。
「こんな感じてて、まだ言うのかよ」
「だって俺じゃなきゃダメな理由、ある? だいたいお前、彼女いた事あるだろ。まだ、引き返せるから。だから」
「ふーん。じゃ、兄貴じゃなきゃダメな理由があればいいって事?」
「だからっ、ないだろ、そんなのっ」
「あるけど」
「嘘だっ」
「言っていいの? 兄貴が俺を好きだから、って」
それを聞いて胸の中に広がったのは絶望だ。ぶわっと涙が盛り上がってしまうのを止められないし、言わんこっちゃないと嫌そうに舌打ちされればさらなる涙を誘う。
「酷い……」
「どっちがだ。つか泣くなら言わすなよ」
「わかってんなら、引けって。てかお前が俺を好きなの、俺のせいだろ。俺が、無意識にだったにしろ、お前を誘惑してたせいでお前までその気になったとか、親に合わす顔がない」
「あー……なるほど。で、逃げたのかよ。アホらし」
「なんでだよっ。だってお前、彼女が」
「あーはいはい。女抱けるから何なの。男でも兄貴なら抱けるし問題ないって、今から証明してやるけど?」
「ちがうっ。俺がお前を好きだからって、俺なんか相手にする必要ないって、言ってんの」
「無理」
「だから、なんでっ」
聞いても答えは返ってこなくて、アナルを弄りまわしていた指が抜けていく。続いてコンドームを取り出すのを見て、この隙に逃げられないかと体を起こした。こんな格好で外には出れないけれど、トイレに閉じこもるくらいは出来るだろう。
「おいこらっ。まだ諦めてなかったのか」
しかしベッドを降りる事すら叶わないまま、弟に腕を掴まれて引き倒される。
「バカなの? 逃げれるわけ無いだろ」
「だとしても、お前にこのまま抱かれるわけに行かないの」
「へぇ? ゴムなしでしてって、わかりにくくお願いされてんのかとも思ったんだけど」
「は?」
「逃げられないのも、逃げたら酷い目に合うのもわかっててやってんなら、これもう、ゴム着けるの待てなかったってことでいいかなって」
挿れるねと宣言されて確かめてしまった弟のペニスは剥き出しだ。
「ダメ、だ、ぁ、ぁああっっ」
もちろん静止の声なんて聞いてもらえず、挿入の快感に甘く声を上げてしまう。ヤダヤダ言ってたってこんなに気持ちよさそうにして、とでも思ったんだろう。満足気に笑われた気がするから、いっそ消えてなくなりたい。
「だめだって、も、お前、ナマでとか、信じられない……」
「ゴム無しでしたことは?」
「あるわけないだろ」
「じゃあ初めては俺が貰ったってことで。てか丁度いいから、俺に種付けされて、俺のものになるんだって思い知れば?」
「いや何言ってんの」
「本気だけど」
「お前とはこれっきり。二回目なんかないから」
「それに大人しく頷くわけ無いだろ。あんたこそ、二度と他の男に足開くなんてないから」
ああそうだと何かを思い出したようにベッドの上を探った相手が手に取ったのは携帯で、カメラをこちらに向けてくる。嘘だろと思いながらも、嘘だろと声に出すことは出来ず、呆然と見つめてしまうしかない。
「これ、動画な。てわけで、俺の声も入ったし、兄弟でセックスしてる証拠とったから。これでも諦められないなら、このまま撮影し続けて、弟相手にアンアン善がってる姿も撮ってあげるけどどうする?」
無言のままブンブンと首を横に振れば、取り敢えずは気が済んだのか携帯は手放したけれど、ますます追い詰められてしまった事実を前に途方に暮れる。そんな自分に、仕方がないと言いたげに、大きくため息を吐かれた。
「言っとくけど、兄貴が俺を好きなのかもって思ったのは今日だし、俺に似た男とラブホ入るとこ見るまで、本気で、俺が気持ち悪くて逃げたんだと思ってたから」
「見るまで……って、え、見てた?」
またしても、嘘だろと思いながらも口には出せない。信じたく、ない。でも嘘じゃないんだってのは、その顔を見ればわかってしまう。
「たまたまだけど、その偶然に感謝してるよ。連絡もなく押しかけたのは、帰宅直後に捕まえて、あの男に抱かれたのか、抱いたのか、確かめたかったから」
「もし俺が、抱く側だったら、諦めてた?」
「男有りってわかって諦めるかよ。まぁ即抱いて俺のものにするのは無理だった、ってだけだな」
「自分が抱かれる側になる発想はないのか」
「ぜってー抱いてくれないくせに何言ってんだ。俺が抱かれる側になるとして、押さえつけて勃たせて経験もない穴に突っ込ませるって、無理がありすぎんだろ」
確かにそれは無理そうだ。黙ってしまえば、またしても小さくため息を吐かれてしまった。
「ついでにいうと、あの男と恋人だって言われても、奪う気満々で来てるから。あんたが無意識に俺を誘ったせいで好きになったかなんて正直どうでもいいけど、もしそうだとしてもそれを気に病む必要なんかないし、なんで好きになったかより、今、どうしようもなく兄貴が好きだってことのがよっぽど重要なんだよ」
俺が好きだから逃げる、なんてのは許さないと、強い視線に射抜かれてとうとう白旗を上げた。
<終>
同じお題で書いた別のお話はこちら → それはまるで洗脳
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