セフレは幼馴染で節操なしのクソ男

 幼馴染といわゆるセフレになって数年。最初は好奇心からだった抱かれるセックスも慣れきって、ついでに言えば相手もあちこちで経験を積みまくっているおかげで、やってる最中の満足感だけはかなりいい。
 問題はやり終わったあとなんだよなと、どんよりベッドに沈む相手を見下ろしながら、呆れを隠さない溜息を一つ。
 まぁこうなるのがわかってて抱かれたのも事実ではある。ついでに言うと、この落ち込みまくった幼馴染を慰めるつもりで訪れていたりもする。
 素直に抱かれたせいで余計に落ち込ませる結果になったのもわかっているが、そこはまぁ、慰め料の前払いというやつだ。
 ただ、慰めるにしたってもう少し落ち着く時間が必要だろう。
「シャワー使いたいんだけど。ついでに喉も乾いてんだけど」
「ふたりとも出張中だし好きにしろ」
「りょ」
 短く了承を告げて、落ち込む幼馴染を部屋に残し、勝手知ったると風呂場へ向かった。
 軽くシャワーを浴びて当然タオルも勝手に使い、冷蔵庫の中から未開封の500ミリペットボトルを2本取り出し、1本はその場で半分ほど飲んで一息ついたあとで相手の部屋へと戻る。
「なんだ。まだ回復してねぇの」
 相手は部屋を出たときとほぼ同じ状態で、ベッドにうつ伏せていた。
「うっせ」
「スポドリ持ってきたけど」
「いる」
 いい加減起き上がれ、という気持ちが強かったのか、ベッドの上に投げた未開封ペットボトルは相手の腕にしっかりぶつかってしまう。ちょっと鈍い音がした。
「痛っ」
「こっち見もしないお前が悪い。つか何もかもお前が悪い」
 本気でこいつが悪いと思っているので、謝罪なんて絶対に口にしない。
 相手は陰鬱な溜息を一つ吐いてから、ようやく体を起こしてベッドに腰掛ける。
 隣に座る気にはなれなかったから、勝手に椅子を拝借してそっちに座り、相手がペットボトルに口をつけるのを眺めて待った。
 口を離して、今度は大きな溜息が一つ。
 それもジッと眺めていれば、さすがに視線が気になったらしい。
「怒ってんの?」
「まぁ、それなりに?」
 怒ってるとはちょっと違う気もするが、人の忠告をさんざん無視しやがった結果だぞ、という憤りはある。
「気持ちよかったくせに」
「否定はしないけど。でも今日のお前はいつにも増して最低だったなって思ってる」
 なんせ他の女を抱いた直後の呼び出しだった。しかも別れ話でもしたのかと思ったらそんなことはなく、今現在もその女とは交際継続中らしい。
「それはそう」
「わかってんならヤメロ。せめて女抱いた直後に同じベッドで俺を抱くなよ」
 節操なしのクソ男。と口に出さなかった自分を褒めたい。今これを言ったら、相手にかなりのダメージを与えられるとわかっているのに、踏みとどまれた。
「へぇ。お前でも、少しは嫉妬とかすんの?」
「いや別に。罪悪感と後ろめたさでお前が張り切って俺をイカせようとすんのは、まぁ、そんな悪くなかった」
「なんじゃそりゃ。んじゃ何が不満なんだよ」
「今この状態がひたすら鬱陶しいな、と」
 落ち込むんだからヤメロと言ってやるのは、幼馴染としての優しさだと思う。
「いやもう落ちれるドン底まで落ちたい気分ってやつで」
「今更?」
「うっせぇ」
「俺は、お前の気持ちに気づいた一番最初に、素直に告白しろって助言はしてるからな」
 こいつの本命はもう一人の幼馴染で、そいつは何も知らない。こいつの気持ちも、幼馴染二人がセフレ関係だってことも。
 あの時素直に告白して、多少引かれても真剣に伝え続けてたら、充分に脈はあったと思っているから、本当にこいつはバカだと思う。それこそ今更の話なんだけど。
「それが出来てたら今こんなになってねぇよ」
「素直に告白できないにしても、本命の前で女とイチャついて見せる必要なんてあったか?」
「ちょっとは俺の魅力に気づくかと」
「お前のモテアピール、どう見たって逆効果にしかなってないのわかってただろ。間違いなく、自業自得だぞ」
 盛大に呆れられた最初の1回で止めておけば良かったものを。アホな真似を繰り返したせいで、とうとうブチ切れられて、節操なしのクソ男は金輪際関わってくるな、という絶縁宣言を食らったのが今日の昼だ。
 それで反省したり自分の行動を省みたりする性格だったら、そもそもここまで拗れたりしなかったわけで。親が居ない自宅に彼女を呼んで抱いたあと、セフレを呼んで抱いて、ひたすら落ち込んで今に至る。というわけだ。
「いやマジでアホだな」
「うるせぇ」
「つかさすがに今回のは割と絶望的だと思うんだけど」
「わかってんよ」
 いい加減諦める、という自信のなさそうな呟きが聞こえてきた。
「本気で?」
「あー……出来れば。そうなったらいいな、みたいな」
「はいはい。無理無理」
 否定してやれば不満げに口を尖らせているけれど、無理じゃないと言ってこないのだから、本人も自覚はあるんだろう。
「つか本気で諦めたいなら告白するのがいいと思うよ。これ、何回か言ってるけど」
「ぜってーやだ。今までのあれこれ全部、お前が好きだからやってました。なんて知られたら俺もう多分生きていけない」
「いっそ一度死んだらいいと思うよ。てか今日すでに絶縁宣言食らっただろ」
「あああああ思い出させんなよクソがぁ」
「クソなのはどう考えてもお前だから。自業自得だから」
「なぁ、あれって本気だと思うか?」
 さすがにあれを撤回させるのは難しいだろうなと思う。なんせ節操なしのクソ男と言われたその直後に、思いっきり節操とは無縁の行動を取るような男なので。
「期待はすんなよ。さすがにもう無理だろって気もするし。つかお前はいい加減本気で諦めることを考えろ」
「わかってる。努力はする。けど、それはそれとして、よろしくお願いします」
 ベッドの上に正座したかと思うと深々と頭を下げられて、小さな溜息を一つ。
 さて、どうやって絶縁宣言を撤回させようか。

 
 
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