化けの皮が剥がれた結果

 人当たりがよくて親切で、オールマイティに何でもこなす友人を、親友だなんだと言ってつるみつつも、内心嫌いで嫌いで仕方がなかった。だってなんだか色々と胡散臭い。
 気になる女子はだいたいこいつに惚れていたのもひたすら不快だったし、そのくせどんなに勧めても今はそんな気にならないだとか、男友達と遊んでる方が絶対楽しいだとか言って恋人を作ろうとしないのも不満だった。そのせいで男友達からの妙な信頼を得ていたのもイライラしたし、特定の恋人を作ってくれれば諦めて他の男に目が行く女子だっていたかも知れないのにって気持ちだってあった。
 こっちが必死で挑もうとギリギリのところでどうしても敵わないテストの順位だとか、そのくせ一切驕ることなく飄々としているところとか、学校のテストの点だとか成績なんてどうでも良さそうな態度とか、学生時代は本当に腹立たしいことが多かった。
 つまりは劣等感が刺激されるとか、嫉妬とか、そういう感情で嫌っていた部分があることも認める。でもそれだけじゃなくて。胡散臭いとしか言いようがない、妙な感覚を相手から感じていたのも嘘じゃない。
 そんな聖人君子居るわけ無いだろって疑う気持ちをずっと持っているし、ぜったいどっかで無理をしてるんだと思っているし、いつかその化けの皮が剥がれる日が来ればいいと思っていた。
 さすがに就職先は別になってストレス源から開放された日々を満喫しているのに、それでも未だに親友なんてのを続けて、たまに近況報告やらで会っているのだって、その化けの皮が剥がれる瞬間に立ち会いたいから、というのが一番大きい。


 二日酔いに似た酩酊感と軽い吐き気で意識が浮上する。相手の前で醜態をさらす真似なんか絶対したくないから、一緒に飲むときの酒量にはかなり気をつけていたはずなのに。どうやら昨夜は酔い潰れたらしい。
「うぅ……っ……」
「あっ、やっと起きた?」
 小さく呻けば、すぐ近くからよく知った声が聞こえてくる。随分と機嫌が良さそうだ。
「あ゛ー……悪い、迷惑かけた」
 多分間違いなく酔いつぶれたのだろうし、横になって寝ていた状況を考えたら何かしら迷惑をかけたのは明白で、とりあえずで謝っておく。
 飲み過ぎたからか、声は少し枯れている。
「全然。てか迷惑かけたのも、これから更に掛けるのも、俺の方なんだよね。まぁ迷惑とはちょっと違うかもだけど」
「は?」
「酔い潰した、っていうかお前に眠剤盛ったの、俺」
「な、んで……」
 眠剤、なんていう不穏な単語が聞こえてきて混乱する。発した声は少し震えて、喉に詰まった。
「んー……そろそろいいかな、って思って」
「なに、が?」
「親友ごっこ、いい加減やめてもいいかな、って」
「……は?」
「お前だって、俺のこと親友なんて思ってなかっただろ。というか俺のこと、実は嫌いだよね?」
 しかもちょっとじゃなくて相当、なんて言われてしまう。
 事実だけれど、さすがに肯定はしなかった。けれど相手はこちらの返答なんか必要としていないようで、ヒョイッとこちらの顔を覗き込んできた相手の表情は、声からもわかっていた通りににこやかだ。
 胡散臭さを通り越して気味が悪すぎる。というのが正直な感想だった。
 相手はにこやかに笑っているのに、背筋にゾッとするような怖気が走る。
「これなーんだ」
 そう言ってこちらの目線の先に掲げられたのはスマホの画面で、何やら動画が再生中だった。
 最初は何が移されているのかさっぱりわからず、けれどそこに映ったものが何かを理解すると同時に、血の気が失せていく。
 そこに映っていたのは自分だった。昨夜、眠剤とやらを盛られたあと、ここで何が起きたか。というよりは相手に何をされたのかを、如実に映している。
「大っ嫌いな俺に、アンアン言わされた気分はどう?」
「最っっ悪」
「だよね」
 嬉しそうに跳ねた声が憎らしい。
「嫌がらせか」
「お前にとってはそうかもね。でも俺にとってはそうじゃないんだな、これが」
 まぎれもない愛情表現だよと笑われて、もちろん、意味がわからない。
「意味がわからない」
「だよね」
 わかるよと頷かれても困るというか、こちらは一向に理解が進まないし、不気味さだけが増していく。
「俺はね、俺のことが大っ嫌いなのに、俺のことが気になって仕方なくて、俺のことが切れなくて、未だに俺と親友続けてるお前のこと、多分、好きなんだよね」
 どんな美女やイケメンに誘われるより、お前が無理やり笑いながら適当に相槌打って、つまんなそうに俺と飲んでる時が一番興奮したよ。なんて、意味がわからないと言うよりは頭がオカシイ。
「イカレテル」
「いいね。そういうの、もっと言ってよ」
「お前とはこれっきりだ。二度と誘わないし誘いに乗らない」
「それは困るな。というかそんなの無理でしょ」
 これの存在忘れてる? と言いながらスマホを振られて、どうやら脅迫されているらしい。
「俺を、どうしたいんだ」
「え、この流れなら恋人になる以外なくない?」
「なんでそうなる!?」
「好きって言ったじゃん。多分、ってつけちゃったけど、あれ、ちゃんと本心だからね?」
「俺はお前が嫌いなのに?」
「それがいい、って言ってんだからそこ関係ないよね。でもってお前は俺に逆らえないんだから、今この瞬間から、お前は俺の恋人だよ」
 良かったねと笑われて、即答でどこがだとキツく返した。
「だってお前、俺の化けの皮剥がれるとこ、見たかったんだろ? これがお前の見たがってた、俺の素の姿ってやつだよ」
「なんで……」
 本人に言ったことがないのはもちろん、共通の友人相手にだって、そんな話はしたことがないはずだ。
「世間は狭いよねぇ。というか長いこと俺の親友やってんだから、自分に近づいてくるやつにもうちょっと警戒したほうがいいんじゃない?」
 就職先別れたから油断したんでしょと言われて、そういや、仕事関係で新たに出会った人達相手には、胡散臭い友人の化けの皮がいつか剥がれるのを待ってるって話をしたことがあったなと思い出す。というか結構な頻度でその胡散臭い友人の話をしていた気がする。
「じゃあまぁ自業自得と納得がいったところで、とりあえずもっかいセックスしとく?」
「嫌だ!」
「だから拒否権とかないんだって」
 記憶にないだろうけど動画でわかる通り、ちゃんと気持ちよくしてあげるから大丈夫。だなんて、全然大丈夫じゃないことを言いながら、楽しげな顔が近づいてくる。

 
 
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七草粥

 雑談で、今日の夕飯は七草粥のつもりで七草セットを購入済みだと話した際、妙に食いついてきたのは同期の同僚だった。
 食いついてきたと言うか、自分にも食べさせろとしつこかったと言うか。
 断固お断りしたいような苦手な相手ではなかったし、スーパーで見かけて勢いで買ってみたものの、米とのバランスを考えたら結構な量が出来てしまうのはわかっていたし、まぁいいかと了承した。出来上がる量を考えたら一緒に消費を手伝ってくれる相手が湧いて出たのは、こちらとしてもラッキーだったかも知れない。

 米からお粥を炊くつもりで準備をしていたため、出来上がるまでに結構待たせてしまったが、粥の提供代として帰りがけのコンビニでいくつか惣菜を買わせていたのもあって、いざテーブルの上に並んだ夕飯はそこそこ豪華だった。
「おお〜すげぇ〜」
 生の七草入れた七草粥なんて何年ぶりだろうと言う相手に、それは自分も同じだと返す。
 実家にいたころは母が用意していたのを食べるだけだったし、就職して家を出てからは7日に七草粥なんて、存在自体を忘れている年だってそこそこあった。
 今回は、先日たまたま買い出しに出かけた先で、七草粥用に売られたセットを見て、思いつきと勢いで買ってしまって、買ったからには作るかとなっただけでしかない。
「まず勢いでだろうと買っちゃうってのが凄いって。絶対買わねぇもん、俺なら」
 せいぜいフリーズドライとかお茶漬けの素とか、と言った相手は、自分よりも7日に七草粥を食べるということに関して、多少こだわっているようだ。今年も一応、お茶漬けの素は用意してあるらしい。
「でも独身男が一人で生の七草から七草粥作って夕飯に食う話とかしてんの聞いたら、絶対ご相伴に預かってやろって思うよな」
「そう聞くと、ただただ図々しいな」
「本音は、下心で家に上がってみたかった」
「本気なら、」
 ただただキモいなと続けようとして、けれど咄嗟に口を閉じた。口調は冗談っぽかったくせに、ふと見た相手の顔が、特にその目が、真剣そのものだったせいだ。
「本気なら?」
 静かに繰り返されて、一気に緊張感が増す。
「本気なら……」
 こちらも繰り返しながら、眼の前のこの男と交際したりの未来について、少しばかり考えてみた。
 何が何でもお断り、ってほどの嫌悪感はないような気もするけれど、そもそも同性との交際経験がない。異性との交際経験ですら、ほぼほぼないに等しいと言うか、学生時代に彼女と呼べる存在が居た時期が多少ある程度で、つまりは恋愛だのセックスだのは今の自分にとってあまり現実感がない。
「現実感なさすぎてイマイチ」
 大きくため息を吐いてそう正直に告げてやれば、相手はつまらなそうに口を尖らせた。
「何だよ現実感て。いまの、ちゃんと結構本気っぽい雰囲気出てたろ?」
「冗談丸出しだったら、ただただキモいって即切りだったわ。現実感がないってのは、今更誰かと付き合ったりっていう自分自身が想像しずらいって話」
「誰かと? 俺だから、っつうか男だからダメ、とかってわけじゃなく?」
「あー……同性とか、相手がお前とか、その辺はそんなでも」
「絶対無理ってことはない感じ?」
「まぁ、そう」
 マジか、と呟いて考え込んでしまうから、もしかしなくても本気の本気で、下心込みで来てたのかなと疑いの目を向けてしまう。全然、気づいてなかった。
「あー……まぁ、下心ゼロじゃなかったのは事実だけど、生の七草と生米から炊いた七草粥食いたかったのが一番で、お前とギクシャクしたり変に拗れたりで仕事に支障きたすのはめちゃくちゃ困る。と思ってる」
「それは同感」
 というわけで、とりあえずなかったことに、となったわけだけれど。その後、彼を多少なりとも意識するようになってしまったのは仕方がないと思う。

 
 
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確定、両想いな二人の大晦日とお正月

多分、両想いな二人の大晦日 の続きですが再度視点が変わっています。

 テーブルの上のお守りと鍵とスマホを見つめながら、どうしよう、と思う。
 どうしよう。めちゃくちゃ嬉しい。

 絶対一緒に年越しするぞって思っていたのに、預かった鍵を返したくない、なんて理由で訪問するのを躊躇っていたら、夕方向こうから来ないのかと連絡が来てしまった。冬至にもクリスマスにも押しかけたから、相手にも当然、大晦日だって押しかけてくるだろうと思われていたようだ。
 相手からのメッセージを見ただけで、なんで躊躇ってたんだろってバカバカしくなるくらい会いたい気持ちが膨らんでしまったから、用意していたお酒だけ持って急いで駆けつけてしまったわけだけど。
 相手はここ数日は大掃除と仕事しかしてなかったとか言うから、一緒に買い出しに行って、帰ったら何故か風呂を勧められて、部屋着を借りて、一緒に年越しはあっさりお泊り確定になった。
 クリスマスのときはダラダラ飲んで飲みすぎて、酔っぱらいを寒空に放り出すのは可哀想って理由で泊めてくれたんだと思ってたのに。大晦日は最初から、相手はこちらが泊まる前提で誘ってくれていたらしい。
 歩いて行き来できない距離じゃないんだから、今日は飲みすぎるなよって言えば済む話なのに。酔っ払う前に酒を取り上げてしまえばいいのに。
 そんな状況からスタートした大晦日の酒盛りは案の定飲みすぎて、結果、あっさり酔っ払った。
 酔って、絶対秘密と思っていた ”好き” をポロポロとこぼして、来るのを躊躇っていたのは鍵を返したくなかったからだってことも言ってしまった。
 相手は最初すごく驚いて、気持ちは嬉しいけどと言ったから、ああやっぱ振られるんだって思った。これで、最後の友人まで無くしてしまう。
 それだけは絶対避けたくて、必死に謝って、もう好きとか言わないし鍵もちゃんと返すから友達止めるって言わないでと泣きついたら、今度はひどく焦った様子で、そうじゃなくてといい出した。
 色々あった後で近しい友人が彼一人だから、そんな錯覚を起こしているだけだろう。そう言って、男を恋愛対象にしたことなんかなかったはずだし、傷が癒えたらまた彼女を作って次こそ幸せな家庭を築けよって、そう続いた言葉に、そんなの絶対無理だって言い返した。
 そんな未来、欠片だって望んでない。もう一度、一から人を信じて友人やら恋人やらを作る、なんて想定が、今後の自分の人生にはない。
 今現在、友人と呼ぶのも、好きだって気持ちが湧くのも、もっと一緒にいたいって思うのも、彼ただ一人なのに。彼まで無くしたら、今度こそ、一生引きこもり生活か、いっそこの世からサヨナラしたっていいくらいだと思っているのに。
 そんなことを言われて唖然とする相手に、再度ごめんと謝った。
 だってあまりに重い。重すぎる。そこそこ長い付き合いだけど、ただの友人でしかないのに。お前に捨てられたら死んでやるとも取れる、脅迫まがいのことまで言った。
 多分間違いなく飲みすぎた酒のせいなんだろうけど、必死過ぎて逆に空回りしてたと思う。でも酒のせいだろうと咄嗟の勢いだろうと、言ってしまった言葉は取り消せない。
 だから全部忘れてと言った。全部忘れて、今まで通りの友達でいて下さいって土下座して、あまりのいたたまれなさに帰ろうとした。
 それを引き止められて、実はゲイでと突然のカミングアウトが始まって、好きだなんて言われたら性対象として見てしまうという話をされた。恋愛感情やら性欲やらの下心満載で移住を勧めたつもりはないし、友人として支えられればと思った気持ちに嘘はないけど、下心皆無だったかと言われれば自信がないし、そんな気持ちがお前に錯覚を起こさせた可能性もあるんだぞと言われた。
 つまり実は両想いだったってこと? って聞いたら脱力されて、そうだな、って返す声はなんか呆れと諦めが滲んでたけど。そのくせどこか笑いを含んでもいた。
 そしてちょっと悪い笑みを浮かべながら、じゃあお前を性対象にしていいってことなんだなって言われて抱きしめられたときは、さすがにちょっと焦ったけれど。展開早すぎって思ったけれど。
 でも嫌悪感はなかったし、ゲイだって言うならこのまま身を任せておけばいいのかなって思ったし、実際そうした。
 まぁなんだか色々安心して、そこで寝落ちたオチがつくわけだけど。
 いやだって、飲みすぎてやらかした自覚はあって、酔って鈍った思考ではあったけれど、それでも彼との友情を繋ぎ止めようとめちゃくちゃ必死になっていたのだ。なのに実は両想いでした、なんて結果になって、触れてみたいなって思っていた相手の腕に優しく包まれてしまったんだから、安心しきって気も緩む。
 そして気づけば朝で、さすがに実家に顔を出してくるという相手と連れ立って家を出て、誘われるまま一緒に初詣に行って、お守りは人から貰ったものの方が効力が有るらしいぞなんて言われながら彼が買ったお守りを渡されて、その後別れて帰宅して今に至る。

”鍵返し忘れたんだけど”
”そのまま持ってていい。っていうかお前にやるよ。”
”それってお前の恋人になったから? そう思ってていい?”
”いい。”

 そんなやりとりが並んだスマホの画面を見つめながら、頬が緩んで仕方がない。
 ほんと、嬉しすぎてどうしよう。

やった! 元旦更新間に合いました!
この二人のお話はここで一旦終了です。

というわけで、改めて、明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
今年は正月更新が出来たので、新年の挨拶は雑記を書かずにここでの挨拶のみとさせていただきます。
お正月休みを挟んで、更新再開は 6日(月)の予定です。

 
 
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多分、両想いな二人の大晦日

多分、両想いな二人のクリスマス後 の続きですが再度視点が変わってます。

 冬至にもクリスマスにも押しかけてきたのだから、当然、大晦日だって押しかけてくるんだろうと思っていた。もっと言うなら、こちらが正月休みに入ったら連日押しかけてくる可能性だって考えていた。
 人間不信を極めているが、寂しがり屋のお調子者という性質が、そうそう変わるわけでもないんだろう。色々あったあの土地から離れてからは、自宅に籠りっぱなしではなくなったし、バイトまでするようになった。
 いい傾向だと思うし、あの土地から離したのは正解だと思うし、彼の力になれたことを嬉しく思う気持ちもある。
 もっと力になりたいし、もっと頼ってほしいし、もっとこちらに依存してしまえばいい。
 そんな気持ちが湧きそうになるのを極力抑え込んで、友人としての距離をどうにか保っている。多分、保てている。はず。
 だって、いずれはまたたくさんの友人を作って、可愛い彼女を作って、今度こそ幸せな家庭を築くだろう。今はまだ傷が癒えていないから、友人として彼の隣に立てるのが自分しかいない、というだけだ。
 そもそも、同じ中学出身で部活が一緒だった、というだけの縁で細々と繋がっていた友人なのだから、今の自分たちの距離こそが異常と言っていい。
 元から気が合って一緒にいた親友などでは決してなく、どちらかというと彼は憧れの存在だった。自身の性的指向に気づいてからは、まぁ、そういう対象としてオカズしたこともなくはないが、そこまでだ。相手が自分を選ばないことは確定だったし、それ以上を望んだことなんて、少なくともここに越してくるまではなかった。
 今だって、極力そんな願望からは目を背けているし、気をつけてもいるけれど。相手が自分を選ばないのは、今だって同じと信じているのだけれど。
 彼との近しい友人関係を経験してこなかったせいで、今の彼が向けてくる態度やら発言やらが、友人として普通なのかどうかがイマイチ判断つかなかった。いやまぁ、経験してても判別が付いたかは怪しいけれど。
 時々、誤解しそうになる瞬間が、ある。相手の信頼やら好意やらに、恋愛的な意味合いが含まれているのではと、感じてしまう瞬間が。
 でもまぁきっと、気のせいなんだろう。もしくは自身の願望がそう錯覚させているだけだ。
 今までは大勢の友人やら恋人やらが担っていた彼との関わりが、ただ一人残った友人に集中しているのだから、きっと仕方がない。彼の傷が癒えてまた恋人ができたら、誤解しそうになる瞬間やら、恋愛的に好かれているなんて錯覚は、きっと無くなる。
 そう考えたら、大晦日になんの連絡もなく、突然押しかけてくるわけでもない現状は、好転の兆しという可能性もあるだろうか。新しい友人でも出来て、大晦日はそちらと過ごすのかも知れない。
 なんていうのが、現実逃避だってことはわかっていた。
 元々の関係なら、大晦日に誰と過ごそうがお互い知ることなんてなかったけれど、今の関係なら、別の誰かと過ごす場合は何かしら連絡がくるだろう。今現在、彼に一番近しい友人である自覚はあるし、そんな存在を無碍にしない性格なのもわかっている。
 確認した時刻は既に夕方の5時を過ぎていて、外は遠くがうっすら赤みを残しているだけで、随分と暗くなっていた。
”今日は来ないのか?”
 そんな短なメッセージを送れば、返信はすぐに来た。
”行きたいとは思ってんだけど”
”風邪でも引いたか?”
”いや、元気元気”
 体調でも崩したのかと思ったが、そういうわけではないらしい。
”じゃあ今から行くわ”
「は?」
 こちらが返信する前に追加でそう送られてきて、思わず声が漏れた。
”は?”
 取り敢えず素直な気持ちとして、漏れた声そのままを送ったものの、それに対する返信はない。
 まさかこちらが誘うのを待っていた?
 いやでも来ないのかと聞いただけで、誘ったと言える内容ではないか。だとしたら、もっと遅くに押しかけるつもりが、こちらから連絡したせいで来訪が早くなっただけか。
 その可能性が高そうかな、と思う。一緒に年を越そうとか言って日付が変わる少し前に押しかけてきて、またそのまま泊まっていく気だったのかも知れない。
 そう思ってから、最初から、一緒に年を越すつもりだろうと考えていたことを自覚した。相手がまた泊まっていく想定だった。
 だってそれは、友人としてそうオカシクはない大晦日の過ごし方だろう?
 あまり自信はないけれど。彼以外の誰かと、そんな年越しをした経験もないけれど。
 
 しばらくしてチャイムが鳴った。迎えに出れば、そこには明らかに中身は酒瓶とわかる縦長の袋を持った相手が立っている。
「はいこれ。てか酒は持ってきたけどツマミとかってどうなってる? 夕飯とかどうすんの?」
「お前こそどうしたいんだ。ちなみに買い出しとか行ってないから大したもんはないぞ」
「そうなの? 今日とか何してたわけ?」
「ここ数日は大掃除と仕事」
「仕事!?」
「終わらねぇんだよ」
「なんていうか、家でも作業できる系の仕事、大変だな。呼んでくれれば掃除なり買い出しなり手伝ったのに」
「勝手に来たらこき使ってやろうとは思ってた」
「そりゃ残念」
「どっちの意味で?」
「えっ?」
 こき使えなくて残念だったなというよりは、来ればよかったと言っているように聞こえてしまったから、ついそんなことを口走ってしまったけれど。驚かれて、余計なことを言ってしまったと反省する。
「いや、なんでもない」
「やっぱ年越しそばは食べたいし、今から一緒に買い出し行く?」
「そうだな」
 じゃあここで待ってると言われて、急いで上着やら財布やらを取りに部屋へと戻った。

続きました→

今年も一年間お付き合いいただき、どうもありがとうございました。
来年も変わらず書き続けそうなので、お付き合いよろしくお願いいたします。

 
 
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多分、両想いな二人のクリスマス後

多分、両想いな二人のクリスマスイブ の続きですが視点が変わっています。

 ベッドの上にごろりと寝転がり、ゆっくりと握った手を開けば、そこには鈍く光る銀色の鍵が1本。しばらく眺めて、再度それを握りしめて、またベッドの上を右に左に何度か転がった。
 頬が緩んでいる自覚はあるし、時折、緩んだ口元からは「うへへ」だとか「ふはは」だとか、客観視したらドン引きしそうな変な笑いが溢れてもいる。
 平日のクリスマスなんてしないと言われていたのに、大量の食べ物持参で押しかけてクリスマスパーティーを強行した結果、とうとう、あいつの家の合鍵を手に入れてしまった。
 前夜雑に片付けただけの惨状にプラスして、寝坊という慌ただしい朝に、ちゃんと片付けしてから帰れよと言い捨てて出社してったってだけだけど。合鍵を貰ったってよりは、預かったってだけにすぎないんだけど。
 それがこんなに嬉しいのはちょっとどうなんだろう。そう冷静に判断する思考もほんの僅かには残っているが、いやもう好きってことでいいんじゃないのと、半ば投げやりな気持ちが大半って気もする。
 男同士ってのも、最近はそこまでタブーってこともないらしいし。全く脈がないってこともないような気がしないこともない。……ような気がするし。
 いやでも憐れみとか同情とかで、付き合い続けてくれてるだけって気もする。なんせ、友人と呼べるような相手は、もう彼しか残っていないので。それを相手も知っているので。
 中学からの友人である彼とは、もう結構長い付き合いになる。
 降って湧いた遺産相続で手にしたそこそこの資産によって、金に困らない幸せな生活を手に入れたはずだった。なのに気づけば友人も恋人も仕事も無くしてしまった。
 人間不信とあれこれのトラウマでまともに働けてないけど、リハビリ兼ねたバイトはなんとか続いているし、手放さずに済んだ資産による不労所得で一応生活は出来ている。
 あいつは、遺産が入る前も、潤沢に金があったときも、それを無くしたあとも、変わらずに接してくれた唯一の人間と言ってもいい。利用したりたかったりすることもなく、見捨てることもなかった。
 そんな彼は、自分にとっては間違いなく特別な唯一人の友人だけど、相手にとって自分がどんな存在でどんな位置づけなのかは知らない。
 寂しいとかしんどいとかで押しかけても、めちゃくちゃ親身になってくれるわけでもない、けど冷たく突き放すでもない態度で受け入れてくれるから、つい甘えて頼ってしまうのだけど。どん底だった時に、呆れたような溜息と一緒に、力になれることがあれば協力は惜しまないと言ってくれたその言葉に、ずっと縋っているんだけど。
 あの土地から少し離れたらと提案してくれたのもあいつで、ご近所ってほど近くはないけど歩いて行き来できなくはない微妙な距離に同時期に越してくれたのもあいつで、つまりは頼り切るのはダメだけどいざって時には頼っていいって、これはそういう距離なんだろうと、勝手に思っているんだけど。
 実のところ、協力は惜しまないと言った自身の言葉に縛られて、相手をしてくれているだけって可能性さえある。だって責任感強めな男だってことも知ってる。
 多分、間違いなく、好きなんだと思う。でも恋愛感情なのかはわからないというか、そもそも男で友人で、本来なら恋愛対象になんかなるはずもない相手だ。
 それでも、もっと一緒にいたいし、なんなら引っ付いてみたいし、抱きしめたり抱きしめられたりしてみたいと思う。今のところ、キスだのセックスだのまでしたいわけじゃないけど、でも抵抗はないというか、絶対無理とかキモいとかって感情は湧きそうにない。
「うーん……」
 妙なことで考え込んでしまって、思わず唸り声が漏れた。
 だって好きを自覚したって、今あるこの関係を変えたいわけじゃない。変わってしまうのは困る。というか怖い。
 唯一の友人を、この感情のせいで失くすのはゴメンだ。絶対に嫌だ。
 再度手を開いて、鍵を見つめる。やっぱりじわじわと嬉しくて、頬が緩んで、ふへへと変な笑いが溢れる。
 ああ、好きだなぁ、と思う。思うと同時に、これは絶対秘密にしなきゃ、と思った。

続きました→

 
 
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多分、両想いな二人のクリスマスイブ

 先日、冬至だと言って南瓜と柚子を抱えて来た友人には、クリスマスは平日だし特に何かをやる気はないと明言していた。つまりは来るなと言ってあった。
 正月休みに入る前に終えなければならない仕事が山積みで、その冬至の日だってろくに相手をせずに自宅でも仕事をしていたのに。そんな状況で定時で帰れるはずがないことなんか、わかりきっていると思っていたのに。
「なんでいるんだ」
 帰宅した自宅ドア前、身を縮めて丸く座り込んでいる男を前に、驚くよりも呆れて溜息がこぼれ落ちる。ただ、呆れてはいるが、想定通りでもあった。
「寒い」
「当たり前だ。というか遅くなるから帰れって送ったろ」
 まだ帰ってこれないの? というメッセージを受け取ったのは1時間ほど前だ。どれくらい待ったあとでそのメッセージを送ってきたのかはわからないが、既に相当待った後だろうことは想像がつく。
 相手が自宅に押しかけていることを知って、もちろん即座に帰れと返信していた。返したが、素直に帰らない可能性が高いともわかっていたから、これでも相当急いで帰宅している。
「だってクリスマスイブだし」
「だってじゃない」
「つかマジ寒いから。早く」
 家に入れろと急かされて、再度、盛大に溜息を吐いてから家の鍵を開けてやれば、勝手知ったるとばかりに家主である自分よりも先にさっさと中へ入っていく。だけでなく、暖房のスイッチを入れ、抱えていた荷物をキッチンに持ち込み、慌ただしくゴソゴソと動き回っている。
 またしても軽い溜息がこぼれ落ちたが好きにしろと諦めて、こちらも普段通り過ごす事にした。普段通りというか、スーツを脱いで風呂場へ向かった。

 シャワーを浴びてリビングへと戻れば、テーブルの上にはフライドチキンやらローストビーフやらピザやら、大変クリスマスらしいメニューが山盛り並んでいて、小ぶりながらも丸いケーキまである。
 彼が持ち込んだ大荷物は見えていたから、ある意味これも予想通りではあるのだけれど。
「重っ」
「え、なに?」
「いやお前、この時間からこれ食うとかマジか」
「この時間になったのはお前が帰ってこなかったからじゃん」
「だから元々、平日ど真ん中のクリスマスなんてやらないって言ってたっつーの」
「あーもー、別に半分くえとか言わねぇし。食える分だけ食ってくれればいいから。とにかく俺に付き合って。クリスマス一人とか寂しいから一緒にメシ食ってお祝いしてってだけだから!」
 口を尖らせて不満を示すものの、すぐに満面の笑みを作って開き直られてしまった。
 まぁ付き合う気がなければ、頑張って帰宅なんてしないし家にも入れないのだけど。でも文句も言わずに甘い顔をして受け入れていたら、どこまでも付け上がっていくんだろうから、取り合えず釘は刺しておこうというだけで。
 はい座って座ってと促されて席につき、平日には極力酒は飲まない主義なのに、注がれるままワインで乾杯して、用意されたご馳走に手を伸ばす。
 まぁ、睡眠時間やら明日の仕事やらを考えなければ、悪くない時間だった。ボリューム満載のご馳走も、結局、雰囲気と酒の力とで思ったより食べれてしまって胃が苦しい。
「んーさすがにこれ以上無理〜」
 カットせずに直接フォークを突き刺して食べていたケーキはまだ半分ほど残っているが、どうやら相手もここでギブアップらしい。
「無理して食うなよ」
「だって持って帰るの面倒だし、置いて帰ったらお前絶対また文句言うし」
「そりゃ言うだろ。っていうか」
 言いながら確認した時計は23時を超えている。帰宅が遅かった上に、大量の料理を前にダラダラと飲み食いしていたせいだ。
 言葉を止めて溜息を吐けば、相手が気まずそうな顔になって、そそくさとテーブルの上を片付け始める。ただその手つきはなんとも怪しい。手つきどころか足元もなんだかふわふわとおぼつかない。
「飲み過ぎだ、バカ」
「んーゴメン」
 素直に謝るくらいには自覚があるらしい。
「ああ、もう、片付けは俺がやるから、お前ちょっとシャワー浴びてこい」
「え? なんで?」
「泊まっていい。が、さすがにそのまま布団を使われるのは抵抗がある。部屋着は貸す」
「え、マジ? いいの?」
「寒い中何時間も外で待たせた上にこんな時間に追い出して、風邪でも引かれたら寝覚めが悪い」
「やった! じゃ行ってくる!」
 こちらの気が変わらないうちにとでも思ったのか、さっきのおぼつかない足取りはなんだったんだと言いたくなるくらい、しっかりとした早足でささっと風呂場へ行ってしまった。
 もしや、相手の酔っ払って帰れないという演技に、まんまと引っかかったんだろうか?
 そんな思考がチラリと掠めたものの、どちらにしろ後の祭りだった。

続きました→

 
 
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