冬の夜空の下、先輩と並んで自宅へ向かう道を歩く。
今度埋め合わせすると謝る先輩に、デートだったんだから家まで送ってやればと言ったのは押しかけてきた彼で、思いっきりぶち壊してきたアンタがそれを言うのかと思いはしたが、先輩と2人きりで話したい欲に負けて、たいした距離もないのに素直に送られている。
先輩は最初少し気まずそうにしていたが、彼が来たことで先輩の過去話が色々聞けたのは楽しかったと言えば、明らかに安堵した様子を見せた。
先輩が今日のデートについて何がしかを伝えたせいで彼が強襲した、という部分にかなり引け目を感じてくれているらしい。
正直、彼が来てデートを邪魔されたことよりも、何かを隠されている、先輩が知られたくない何かを彼が知っている、という部分のほうが気持ちを沈ませているんだけど。でもどう聞いたら答えてくれるのかわからないし、これ以上、あからさまにはぐらかされて傷つきたくもなかった。
結局、2人きりでも本当に聞きたいことは口に出せないまま、自宅アパートが見えてくる。
「じゃあ、次は年明けに」
「あの!」
きっちり自室前まで送り届けてくれた先輩が帰ろうとするのを、とっさに腕を掴んで引き止めてしまう。
「どうした?」
「あの……あと、ちょっとだけ、俺に付き合って下さい」
その場で口に出しかけて、でもここはまだ家の外で、やっぱりこんな場所では口にできないと先輩を目の前の自室に誘った。
逃がすものかという気迫が伝わったか、先輩は素直にわかったと言ってドアをくぐってくれたけれど、でも、ちょっとだけならここで聞くといって靴を脱ぐことはしない。
「で、何が聞きたい?」
こちらがずっと、先輩に聞きたいけど聞けないと迷いまくっていたのをお見通しだったようだ。
「一番聞きたいのは、先輩があの人に口止めした何か。もしかして彼女は居ないけど彼氏はいて、それがあの人だったりします?」
先輩の彼女なんて居たことがない話とか、昨日は恋人が居ないゼミ仲間との飲み会だったとかを知っているので、最初は相手が先輩に惚れている可能性を考えたけれど、2人の距離の近さを見てしまったあとでは、すでに2人が付き合っている可能性のほうが高い気がしていた。
「いや違う。あいつは大切にしている彼女がいる」
「え、そう、なんですか……」
初っ端からはっきり否定されて、でもそれですんなりと納得がいったわけじゃなかった。あの人に彼女がいるって知っても、ちっとも安堵できなかった。
でも何が気になっているのか、自分自身のことが掴めなくて戸惑ってしまえば、先に先輩が口を開く。
「もちろん、俺があいつに惚れてる事実もないからな」
「えっ!?」
「最初に紹介したとおり、腐れ縁の親友だよ」
「……ほんとう、に?」
そこまではっきり言われてもまだ何かを疑っているらしい。そうなんですねと流すことが出来なかった。
同時に、なんだか先輩のほうが、こちらの内面をわかっているんじゃないかと思う。だって先輩が彼のことを好きだって思うと、色々なことにすごくしっくり来てしまうのだ。それを、見透かされている気がする。
「先輩が俺のことそういう目でみないのとか、彼女居ないって言う割にサークルの女子たちのことを全然恋愛対象にしないのとか、好きな人がいたからか、って思ったっていうか……」
そこまで口にして、ああそうか、と思い至る。
「あ、じゃあ、あの人ではないけど片想いしてる誰かがいる、とか? その相手をあの人は知ってて、先輩とデートしたがる可愛い後輩を観察しに来た……?」
ああ、うん。これだ。これは納得できる。口止めしたのは先輩に想う相手がいるって部分だ。
脳内でそう結論づけて、どうだこれで合ってるだろう、という気持ちで見上げた先にあったのは、先輩の呆れた顔だった。
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