酔った勢いで兄に乗ってしまった話の兄視点です。兄×弟(騎乗位)。
トイレと言ってリビングを出ていった弟が戻ってこない。ということに意識が向いたのは、弟が消えてから既に結構な時間が経ってからだった。
なんとなくで点けっぱなしになっているテレビをぼんやりと見続けてしまったせいだ。
自分もそれなりに酔っている自覚はある。
もしかしてトイレで潰れているのだろうか。今日は二人して気分良く飲みまくってしまったから、その可能性は高い。
様子を見に行ったほうが良さそうだと腰を浮かしかけたその時、リビングのドアが開いて弟が戻ってきた。
「大丈夫か?」
ちょうど様子を見に行こうと思ってたとこだと告げれば、弟は曖昧に頷いて見せる。やはり相当酔っているのか、どこかぼんやりとしているし顔も赤い。
「大丈夫じゃなさそうだな。簡単な片付けは俺がやっとくから、お前もう、自分の部屋行っていいぞ」
「やだ」
「やだじゃなくて。お前にこれ以上飲ませられないって」
「飲まなくていいよ。けどもっと兄貴と一緒にいたい」
「なんだよ甘ったれモードなの?」
酔って自制が効いてないのか、ずいぶん素直にもっと一緒にいたいなんて言われたら、どうしたって嬉しい。
くすっと笑って、じゃあおいでと隣のスペースをペシペシ叩いた。さきほどまでは向かい合って座っていたのだから、どうやら酔って自制が効いてないのはお互い様だ。
まぁ酒のせいってことでいいかと、嬉しそうな顔でそそくさとやってきて隣に腰を落とす弟を、こちらもニコニコと迎えいれる。
「酒はまじでナシな」
「ん、わかってる」
「お茶か水飲むか? 取ってきてやろうか?」
「いらない。それよりさ」
じっとこちらを見つめる視線に気づいて振り向けば、熱に浮かされたみたいな、少し潤んだ瞳とかちあった。酒のせいで全体的に赤みを増した顔に潤んだ瞳で見つめられて、ドキリと心臓が跳ねる。
あ、ヤバいかも。
頭の片隅でそんなことを考えるも、既にあとの祭りだった。
「おれが欲しいの、兄貴、なんだけど」
そんな言葉が耳に届くと同時に、体はラグの上に押し倒されていた。
「や、ちょ、欲しいとか言われても……」
やばいやばいと心臓が跳ねまくって、酔いがいっきに冷めていく。しかし幾分冷静になったところで、この場を逃げ出せるわけじゃない。
そもそも酔ってなくたって、自分より背も高く体格もいいこの弟に押し倒されたら、その時点で詰みでしかないんだけど。
いつかこんな日が来るかも、という予想はあったのに、油断しすぎていた。
「兄貴が痛いようなことは絶対しない、から」
どうしようと焦るこちらに何を思ったのか、弟が泣きそうな顔で見下ろしてくる。その顔に、緊張で固まっていた体から力を抜いた。
いつかこんな日が来るかも、と思う程度には弟の気持ちは日々ダダ漏れだったのに、酔わなきゃ言い出せない程度には自制できてたわけだし、酔って口に出してしまうくらいには追い詰められても居るんだろう。
だったら酒のせいってことにして、ちょっとくらいなら応じてしまってもいいんじゃないか。絶対痛くしないって言い切るってことは、尻の穴に突っ込もうとまでは考えてないのだろうし。
「あにき……?」
力を抜いたのが不思議だったのか、不安げに呼びかけられて、じっと弟の目を見つめ返す。
「ホントだな?」
「う、うん?」
頷くものの語尾に疑問符が見えてしまったので、再度確認するように言葉を重ねる。
「痛いの、絶対ナシだからな」
「うん!」
勢いよく頷く弟の顔は嬉しそうに綻んでいて、思わず伸ばした手でその頭をくしゃくしゃっと撫でてしまう。
「大好き」
ますます嬉しそうに笑った弟から、ほろりと溢れてきた好きには、胸の中が暖かくなる。言われて嬉しく思ってしまうくらいには、自分も、いつかこうなる日を待ち望んでいたのかもしれない。
「俺も好きだよ、お前のこと」
「じゃ、じゃあ、ちゅー、していぃ?」
緊張気味に聞かれて思わず笑ってしまえば、嬉しげだった顔があっさり曇ってしまうから、ますます笑いながら弟へ向かって両手を伸ばした。
「いーよ」
言いながら、掴んだ肩を引き寄せるようにして、自分からも顔を寄せていく。
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