親睦会1

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 駅まで徒歩五分なうえ職場へも徒歩十分という好立地で、平日は朝夕の食事が付くという社員寮は半分ほどが空室だ。それよりも、駅へも職場へもだいたい徒歩十五分くらいの場所にある、ワンルームマンションの社宅の方が独身者には断然人気だった。
 月額はどちらも変わらないのだから、食事まで付く寮のほうが断然お得そうなのに、それでも嫌がる社員が多いのは、各部屋に風呂やトイレがなく共同なことと、建物が相当古いことと、通いで来てくれる寮母さんはかなりいい人だけれど、出される食事が若干微妙という難点が存在するからだ。
 自分が寮を選んだのは主に、実家があまり裕福ではなく奨学金の返済があったのと、就職したからには少しでも親へ仕送りがしたいという金銭的な理由だった。
 寮を選んだことに後悔はない。それどころか正解だったと思ってもいるが、それでもここでの生活に向き不向きはあるだろう。
 そこそこ長く住んでいるという先輩たちは、確かにどこか独特な人が多い。まぁきっと自分も、どこかちょっと変な人と思われているんだろうけれど。
 そんな場所へ、先日、同期入社の一人が入寮してきた。社宅の方からわざわざこちらへ引っ越して来るなんて相当珍しい。社内の一部では、大きな借金でも作ったのじゃないかという噂がたったらしいが、そんな事実は一切ない。
 彼はこの寮に住む先輩社員の一人に恋をして、少しでもお近づきになりたくて引っ越してきただけだった。
 同期入社というだけでそこまで親しくしていたわけではなかったのに、こちらが寮住まいということで寮の生活についてあれこれ聞かれたついでに、なぜか気づけば恋愛相談までされていた。
 風呂トイレ共同の寮なのと、女性もいないわけではないが圧倒的に男性社員が多いのとで、この寮に女性が住んだ過去はないという。つまり同期の彼が恋する先輩社員も、当然のように男だった。
 まぁ別に、自分が関係しない所で、誰が誰を好きだろうとどうだっていいんだけど。
 と思っている割に、そんな態度がますます相手を安心させたらしいのと、こちらが超節約生活をしているのを知っている相手に社食で釣られまくって、既にかなり協力めいたことまでしている。何をしたかというと、その先輩の恋人の有無や好みのタイプ、最後にはかなりストレートに男も行けるかどうかを探ってしまった。
 さすがに真正面から聞き込みするのは憚られて、その先輩とかなり仲の良さげなもう一人の先輩にあれこれ聞いてしまったせいで、まるで自分がその先輩を好きみたいな誤解を受けたりもしたが、思いっきり否定しまくったのと時期外れにも程がある入寮者が自分の同期ということで、多分その先輩にも同期の彼の想いはバレただろうなと思っている。
 わざわざ確かめたわけではないけれど、親睦会でもしようかと言い出したのはその人なので、もう多分かなり確実だ。
 まさか先輩も同期の彼の恋を応援してくれる気でいるのだろうか? それともただの冷やかしかだろうか?
 面白がって煽ってるだけなら止めたほうがいいのかもしれないが、自分にではなく同期に直接話を持ち込まれてしまったし、目当ての先輩が参加すると知った同期がめちゃくちゃ嬉しそうだったので、結局どういうつもりか聞き損ねたまま親睦会が開始してしまった。
 食事の出ない土曜の夜、発案者の先輩の部屋で鍋を囲み、大量に用意されていた酒を飲む。参加者は発案者の先輩と、同期が恋している先輩と、同期と自分の四人だけだ。まぁ部屋の広さ的にも、鍋を囲むテーブルの大きさ的にも、妥当な人数ではあるのだけれど、同期の想いを知ってしまっているだけになんだか自分のほうが気恥ずかしい。
 とうの同期は始終ふわふわと嬉しそうに楽しそうにしていたし、後輩という括りなのか鍋の具材も酒も先輩たちの奢りだったので、どういうつもりかなんて訝しんでいた気持ちを忘れて勧められるまま楽しく飲んでしまった結果、どうやら酔って潰れたらしかった。

続きました→

 
 
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