※ ここから攻めの視点になります
予定が潰れて想定より随分早く帰ることになったという連絡に返信がなく、おかしいなとは思っていた。体調を崩していて、けれど予定のあるこちらを心配させないようにと、敢えて連絡をしてこないという状況は簡単に想像がついたからだ。
逸る気持ちに従い急いで戻った家の中は、酷く静かで人の気配がない。玄関先に並んだ靴から在宅はほぼ確定していたので、きっと部屋で寝ているんだろう。
具合が悪くて寝ているのではなく、ただの昼寝なら良いんだけど。
そう思いながら軽く部屋のドアを叩いて中の様子を探れば、微かに人の動く気配がする。
「起きてんの?」
「な、なんで!?」
掛けた声にははっきりと返答があったので、入るぞと声をかけてドアに手を掛ければ、中から慌てた声がダメだと叫んできたけれど、明らかな様子のおかしさに留まることはしなかった。
「……って、なんだこれ?」
開いたドアの先、目の中に飛び込んできた光景は全く見慣れないもので、ベッドの上に雑然と積まれた服やらにくるまり、相手が泣きそうな顔でこちらを見ている。顔が赤く目が潤んでいる様子に、部屋の異様さをひとまず追いやり、やはり最初に体調不良を疑った。
「どうした。具合悪い? 熱?」
近寄って額に押し当てた手には、ほんのりと熱を持った肌が触れたが、体の奥から発しているような熱は感じずホッとする。
そんな中、視界の端で相手の手が何かを隠すように動くのが見えた。引き寄せられるように視線をそちらへ向ければ、どうやら手元の布をかき集めるようにして抱え込んでいる。
「なぁ……」
口で聞くより早そうだと、手を伸ばしてその布の一部を奪い取った。
「えっろ……」
思わず漏れた呟きに、相手がビクリと肩を揺らして逃げるようにギュッと目を閉じてしまう。
さすがにもう、相手が羞恥でいたたまれない状態になっている事には気づいたし、何をしようとしてたかもだいたい察した。なんせ、布の下からローションボトルが顔を覗かせている。
普段どんなオナニーをしてるかなんて話はしたことがないが、抱いて欲しいと突撃してきた最初っから、すぐに突っ込めるくらいにお尻の穴を慣らしていた相手が、お尻を弄るオナニーをしていたってなんら不思議はない。アナニーという呼び名があることだって知ってるし、今日は帰りが遅くなると伝えていたから、そういう日を狙って準備するのだって当然だと思う気持ちがある。
ただわからないのは、わざとベッドの上を散らかしているっぽいことと、この後自分がどう行動するのが正解なのかだ。
こちらからの連絡が相手に届かず、こんな場面に踏み込んでしまった事は申し訳ないが、相手にその気があるならこのままセックスになだれ込みたいとは思う。けれどどう考えたって衝動的にムラムラしてってよりは、今日を狙って計画的に準備しただろうことを思うと、セックスとオナニーは別物って事かなとも思ってしまう。一人で存分にアナニーがしたかった、という可能性は高そうだ。
突っ込むことなく抜きあうだけだった期間が長かったせいで余計にそう思うのかも知れないが、体を繋げ合うセックスはやっぱり相手の負担が大きすぎると思う。準備やら後始末やらはもちろんのこと、相手の方が体力も持久力も低いのに、相手の方が射精回数が多くなる場合がほとんどだ。
ついやり過ぎてしまうのを止められない、こちらが悪いとわかっているけれど。相手の負担が大きいからと遠慮して、誘う回数を控えているせいで余計に一度のセックスに求めすぎる悪循環が起きてるんだけど。
自分の場合は間違いなく「仕方がなく」であって、セックスとオナニーは別物として楽しんでいるわけじゃないけれど、せっかく一緒に住むようになったのに抜き合うだけで済ませる自信がなくて、結局受験前とそう代わらない頻度で自分だってオナニーをしている。
自分なら、そんな場面に踏み込まれたらどうするだろう。多分最初にすることは、相手に手伝う気があるか、どこまでしていいかを尋ねると思うのだけど、相手の様子から察するに、相手からこちらを誘ってくれる気は皆無だ。
かといって、このまま一人でアナニーを続けたいかを聞くのも躊躇われる。どうせこの状態じゃ、本心を答えてくれるかだって怪しい。
「あの、ご、ごめん……」
何と声をかけていいか迷ってしまえば、無理やり絞り出したような声で謝られて焦った。
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