オメガバースごっこ4

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 こじれる前に互いの気持ちを確認しあえ、というのは彼も同様に告げられていたようで、翌日の放課後には彼の自室に招かれて、渋い顔をした相手と向き合っていた。
 相手はベッドに腰掛けていて、こちらは勉強机の椅子を借りているので、そこまで広い部屋ではないが距離がすごく近いわけでもない。エロいことがしたくて呼ばれたときは最初からもっとずっと距離が近いので、これは明らかに話し合うために設定された空間だ。
 その顔と距離とで、彼は彼で何やら色々言われたらしいと思う。実姉なぶんだけ容赦がなかった可能性もある。
「俺がずっとお前のこと好きだったって、全く気付いてないって言われたんだけど、ホント?」
 彼が何を言われたのかを聞く前に、さっさと自分の方の事情を晒してみた。彼姉はその事実を知っていたからこそ、彼に対してキツい物言いをした可能性が高そうだったからだ。
「は?」
 彼女が嘘を伝えてくる理由がないし、事実なんだろうとは思っていたけれど、初耳だと言わんばかりに呆気にとられた顔をされてしまった。やはり彼女は、こちらの気持ちを勝手に教えたりはしなかったらしい。
「本当に気づいてなかったんだ。何言われたか知らないけど、多分、俺の気持ち知らないまま恋人になったことに対する不安とか不満とか混じりだと思うから。もし何か怒られたんだとしても、あんまり気にしなくていいと思うよ」
「いや、怒られては……てか、え?」
「怒られてないんだ。じゃあ呆れられた? 俺はかなり呆れられた感じのメッセージ貰ったんだけど」
 一緒だねと苦笑して見せたが、相手はようやく最初の動揺から立ち直った様子で、何かを探るように真顔でジッと見つめられてしまう。
「ホントだよ」
「いつから?」
「お前に初めての彼女が出来た時に、かな」
「って、それ……」
「うん。中学の時だし、その頃はまだ腐男子じゃなかった。男同士の恋愛物語があるの知ってたけど、読んでみたいと思ったのは、自分が男に惚れたせい」
 ついでに、彼姉には最初から知られていて腐友になったのだとも言っておく。
「それで、か」
「それでって?」
「あの時、事故でいいから番になりたいって言ってた相手は最初から俺で、姉貴はそれ知ってたから、自分への告白じゃないって言い切ってたんだな、って」
「よく覚えてるね、そんなの」
「さんざん疑った結果、姉貴からは番を持ったアルファ認定されるようになったからな。こっちは姉貴をお前から守った気でいたのに、お前を番にしたんだからってあれこれ言われるようになって、すげぇ面倒くさいことになった、って思ってた時期もある」
「でも今は、俺を本当の番にしたいくらい、俺を欲しいって思ってくれてるんだよね?」
「ああ」
「BL読むようになったし、俺とあんなこともするようになってるし、男同士で付き合うのもそんなに抵抗ないなって思うようになったから、俺の好きにちょっとくらい応えてやってもいいかなって思った。とかではなかったんだよね?」
「ああ。てかずっと俺を好きだったとか初耳だっつの。嘘つきめ」
 好きなやつは居ないし、男が好きで腐男子なわけでもないって言ってたよなと睨まれて、そこは素直にごめんと謝った。
 ただ、そういう事はさっさと言えよと言われたのには、言えるわけ無いだろと言い返す。
「だいたい、お前だって俺に好きとか一言も言ってないし。言ってほしいとも言われてないし。ずっと、うっかり口に出さないように気をつけてたことを、恋人になりましたってだけで簡単に口に出せるわけ無いだろ」
 わかった、と言った相手が立ち上がって近づいてくる。椅子に座るこちらを見下ろす顔は真剣だった。
「好きだよ。BL本の影響はあると思うけど、だとしても、新しく彼女作ろうなんて考えられないくらいに、お前のこと、好きになったよ」
 柔らかな声が降ってきて、いっきに体中の熱が上昇していく気がする。きっと顔も赤くなっているんだろう。
 フッと小さな笑いをこぼして、声だけでなく表情までが柔らかくなって、その顔が近づいてくるのを見ていられない。ただ、ぎゅっと目を閉じてしまったら、触れてくるはずだった唇が口の上に落ちることはなかった。
 どうして、と思いながらおずおずと瞼を上げれば、少し悪戯めいた目と視線が絡む。
「お前も言えよ」
 促されるまま好きだよと伝えれば、やっと唇が塞がれた。

続きました→

 
 
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