「ベッド行くぞ」
「うん」
そんな宣言に短く了承を示せば、しっかり捕まっとけの言葉とともに軽々と抱き上げられてしまう。
まともに立てもしない体を引きずるよりマシだと思ったのか、ベッドまでの短な距離なら抱き上げたところでたいして疲れないと判断したのか、抱かれる気満々で訪れたことに気づいているからのサービスか。別にどんな理由だろうと、今現在、大好きな恋人に姫抱きされているのは事実だ。しっかり捕まっとけの言葉に甘えて、ギュッと相手にしがみつく。
服越しに感じる相手の体温と、既によく知った香りに包まれて、うっとりと目を閉じかけたところで、背中にベッドマットが当たる感触がしてあっさりと降ろされてしまったけれど、名残惜しくて伸ばした手を握ってくれたから、繋いがれた手に勇気を貰って口を開いた。
「お願い。抱いて、欲しい」
やはり想定通りだったのか、驚かれることはなかった。
「わかった。けどその前に、望み通り俺の部屋まで来たんだから、何考えてるか聞かせろよ」
あっさり了承されたけれど、ホッとする間もなく続いた言葉に、そう言って部屋へと急かしたことを思い出す。部屋へ入った瞬間からのあれこれで、すっかり頭の中から飛んでいた。
と言っても、抱いて欲しい気持ちは既に伝え済みだし、これ以上語ることなんて……
そう思ったところで思い出す。
「あ、そうだった」
自分の体の準備はしてきたけれど、相手にも準備が必要だと思って、用意してきたものがある。出来れば協力して欲しい。
手放すことなくお腹に抱えていた鞄の中から、小さなドリンク剤を取り出して相手に向かって差し出した。
「なんだこれ」
「いわゆる精力剤」
俺はもう飲んできたと言えば、どうやらこちらが一人でさっさと興奮している状況に納得がいったらしい。それでそんななってんのかよと、少しばかり呆れられてしまったようだけれど。
「で、理由は?」
受け取ってはくれたものの、それは手の中に握られたまま開栓されはしなかった。
「理由?」
「俺らちゃんと恋人だよな? お前に経験ないの知ってるし受験終わってからゆっくり時間かけて、と思ってたのは事実だけど、俺にその気がないわけじゃないのも知ってるよな?」
噛んで含めるような問いかけに、だって受験が終わってからじゃ遅いんだよと思ってしまう。
「知ってるけど……」
「けど、なんだよ」
言いながら逃げるように俯いてしまえば、続きを促す声が不機嫌そうに響いた。
「その、本当に俺のこと抱けるのか、ルームシェアとか始める前に、ちゃんと確かめておきたくて。それにもし俺が本当にΩだったら、発情期には番のαとして抱いてくれるんだろうなって思ったら、こうするくらいしか……」
「待て待て待て。話が飛んでる。てかまさか、発情期のオメガの真似して、こんなことになってるとか言う気か?」
「まぁ、そう。発情期っぽい体は、ちゃんと作れてると思う。でも誘惑するフェロモンなんて出せないから、そのドリンク剤は、飲んで欲しい」
「発情期っぽい体……?」
「中洗って、慣らして、ローションいっぱい詰めてきたから、多分、すぐ、入る……はず」
言ってる途中で、あまりの恥ずかしさにだんだんと口が重くなる。それでもなんとか言い切ってから、相手の様子を窺うようにおずおずと顔を上げていけば、見えたのは先程の比ではないほど怒りを抑えた顔だった。
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