彼があの場に居てくれて本当によかったと思うし、隣に住む幼馴染が彼で良かったとも思う。
ただまぁ、だからって姉をよろしくと言う気にはなれないんだけど。なんてことを思いながら、お金は預かってきたという彼に退院手続きを任せてしまったし、自宅どころか自室の中にまで付き添われて帰宅した。
家の鍵まで預かっているなんて、どうやら今回の件で散々お世話になった結果、もともとあったうちの親からの信頼が爆上がりしているようだ。しかもしばらくは彼に家の鍵を預けっぱなしにするらしい。
退院したからと言ってすぐに元の生活に戻れるわけじゃなく、怪我をしたのは足で、まだしばらくは杖が手放せないだろうし、姉は家を出てしまっているし、両親とも仕事が忙しく帰宅が遅いから。というのが彼に鍵を預けておく理由だそうだ。もっと簡単に言うなら、家に一人にしておくのが心配だからよろしくってやつで、正確には、引き続きバイト代わりに世話を頼んでいるからである。
現在は夏休み真っ只中だし、日々の生活もリハビリの一貫とは言っても、杖があっては買い物もままならないので、親と彼との間で勝手に話がついているのはどうなんだと思わなくもないが、ありがたいとは思う。
病院は時間通りに3食出てきたが、姉が家を出てしまっている今、退院後の日々の食事をどうするかは悩みどころでもあった。なんせ、自炊経験がほとんどない。一応米は炊ける、というレベルである。
自分の体を作るのは食事だとわかっているし、食費として充分な額を与えられているので、栄養バランスなどは考えて選ぶけれど、怪我前ならば選択肢が多くあった。今は活動範囲がぐっと狭まっているので、食事面を彼に頼っていいとわかってかなりホッとしている。
でもまぁ今日の昼食はピザを頼むと決めているんだけど。
自分の体を作るのは食事とわかってたって、そういうものを食べたい時はある。入院生活ではとんと縁がなかった、ピザやらハンバーガーやらをめちゃくちゃ口が欲していた。
「なぁ、お前は何食べたい?」
帰ったら速攻でピザを頼むと宣言済みだったし、ベッドに腰を下ろしてすぐに携帯を取り出し、ピザ屋のサイトへアクセスする。
「ピザ?」
「そう」
「任せるから好きなの選びなよ。あと、言っとくけど俺はお前ほどには食べないからな。頼みすぎると夕飯もピザになるぞ」
「あー、なるほど。わかった気をつける」
「じゃあ俺、ちょっと残りの荷物運んでくるから」
「ああ、うん、よろしく」
入院生活に必要だったものを全部まとめてお持ち帰りしている。なんだかんだと結構な量だったし、こちらは杖を使っていて殆ど手伝えなかったため、自宅前まではタクシーを利用したものの、タクシーから降ろした荷物がまだ玄関先に積み上がっていた。
食べたいピザはある程度決まっていたので、さっくり注文を済ませて、それからようやく久々の自室を堪能する。すぐに彼が戻ってくるとは思うが、慣れ親しんだ自室に一人で居ると、なんとも言えない安堵があった。
数週間も入院してしまったが、特に片付けなどはされなかったらしく、部屋の中はあの日のままでほぼ変わりがない。ほぼ、というのは、机の上に見慣れない箱が置かれていたからだ。
入院中に届いた荷物らしいが、親からは何も聞いていない。誰からだよと思いながら立ち上がり、これくらいの距離ならと杖は持たずにゆっくりと机に向かっていく。
荷物の差し出し人は姉だった。姉からも特に荷物を送ったなんて連絡は無かったのに。
なんとなく嫌な予感を抱えながら、無造作に箱を開けていく。最初に見えたのは封筒で、その下にはどうやら本が詰まっていた。
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