親切なお隣さん4

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 夕飯の後、レシートと残りのお金をまとめて差し出したら、相手は呆気にとられた顔をしたあと、なにこれ? と聞いた。
「何、って預かってた食費の残りとレシートですけど」
 明日の朝の分の食材はもう買ってあるから、これ以上預かったお金が減ることはない。という説明をしたら、相手はなるほどと納得してくれたけど、でも随分と浮かない顔をしている。
「それは、もう作るの嫌になったってこと?」
「は?」
「あ、明日が工事だから? もしかしてここにいる間は作ってあげるよって意味だった?」
「ここにいる間は作ってってことかと……え、違うんすか?」
 お互いに顔を見合わせてしまう。どうやら期間に対して誤解があったらしい。
「あー……これからも作ってくれるなら嬉しいなとは思うけど。でもお世話になってるお礼で頑張ってくれてただけで、負担になってるって言うなら諦めるよ」
 毎日、今日の夕飯はなにかなって楽しみに帰ってきてたから残念、と言った顔が言葉通りにしょんぼりしてて思わず小さく吹き出してしまう。
「いや負担なんか全然」
 だって自分一人だって自炊はする。むしろ食費は掛からないし、預かった金額の多さから普段の自炊より断然良いものを食べていたしで、自分にとってはメリットだらけだった。
「じゃあこれからも作ってくれる?」
 パッと表情が明るくなって、ホント、素直な人だなと思う。小さな頃からこの調子だったなら、周りの大人達が手助けしたくなるのも納得だった。
「作るのはいいですけど。でもホントにいいんすか?」
 だって、こちらの経済事情を察して、助けてくれているだけなんだろうと思ってた。いやまぁ、継続した援助を申し出てくれている、とも考えられなくはないけど。
 でもコロコロと変わる表情が、相手にとってもちゃんとメリットがある申し出なんだと思わせてくれるから、やっぱり胸の中が少し暖かくなって、嬉しい。
「頼んでるのこっちなんだけど」
 一緒に食べてくれる人が居るほうが食事は絶対美味しいし、2人分なのに外食するより全然安そう。と言いながら、相手は机の上に残金を広げている。
「てかお金、あんまり減ってなくない? 一万円、まるまる残ってる」
「あー……一度ももっといい食材使ってとか言われなかったから。あと、工事も早かったんで」
 本当は最初の段階で、2万返却するか迷ったのだ。ただあの時はまだエアコンの工事日が決まってなかったし、相手がどんな食事を希望するのかもわかってなかった。
 でも肉以外の食材に関しても特に拘りはなかったようで、使った食材の産地を確認されることなど一度もなく、ただただ美味しいと言って食べてくれていた。
「なんか凄いね」
 今度はレシートを眺めだした相手がそんなことを言い出して、ちょっと意味がわからない。
「え、凄い?」
「この値段であれやこれやが作れちゃうんだ、みたいな感動?」
 作ってくれたご飯思い出しながらレシート見ると感慨深いよ、などと言われても、やっぱりよくわからなかった。それに、人の金で贅沢してる、とか思いつつ買ってた身としては、遣り繰りを褒められたと素直に思い難い面もある。
「ってか嗜好品が全然ないね」
「嗜好品?」
「お菓子とかジュースとか。好きに買って全然構わなかったのに。って最初に言えばよかったのか。言わなくてごめん」
 気が利かないな、などと言って反省しているが、全く意味がわからない。
「は?」
「買い物から何から全部任せっきりなんだから、これからは自分用のお菓子とかも混ぜて買っていいからね。あとお金足りなくなったらすぐ言ってね。とりあえず1万足しておけば良いかな?」
 返したはずのお金にさらに1万上乗せされて戻されるのを、黙って見つめてしまう。黙ってしまったからか、相手がこちらの様子を伺っているのがわかって、どうにか声を絞り出す。
「あー……カンガエトキマス」
 声が強張ってマズイと思ったけれど、逆にそれで何かを察した相手が、その話題を切り上げてくれた。
 レシートをチェックされて、食べてみたかったお菓子を買ったことと、それを一人で食べてしまったことをめちゃくちゃ怒られた記憶が、閉じた記憶の底から吹き出て苦しい。買い物ついでに自分用のお菓子を買っていいよと言われたことが嬉しくて、なのに、こんなにも苦しいのは、心底その言葉を欲していた幼い自分が居たことに、気付かされてしまったからだ。

続きました→

 
 
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