親父のものだと思ってた

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 ギリギリ2桁年齢になった頃、母親が家から出ていった。それから間もなく、家には親戚のお兄さんが出入りするようになり、今まで母親がやっていたであろう家のことをしてくれるようになった。
 お兄さんはとても料理が上手かったので、母が居なくなった寂しさよりも、毎日おいしいご飯が食べれるようになった嬉しさのが勝ったらしい。辛すぎる記憶は忘れてしまうこともあるというが、どれだけ記憶を探ってもお兄さんのご飯に喜ぶ姿しか思い出せないし、自分の性格から言っても、両親の離婚を子供心に歓迎していたとしか思えない。
 思春期を迎えた頃には、両親の離婚とその直後から出入りするようになった親戚の男、という時系列から色々察してしまったけれど、家の中でいちゃつかれたことはないし、下手に騒いで二人が別れでもしたら自分の生活がどうなるか、という想像が簡単についてしまう程度には育っていたので、二人には気づいたことすら知らせなかった。
 ただ最近、どうやら父親が浮気をしているらしい。
 とりあえず証拠を掴んでやろうと嗅ぎ回っていたら、なぜか父親本人ではなく、お兄さんの方に気づかれてしまって焦ったけれど、隠しきれずに親父に女の影がと漏らしてしまえば、既に彼には紹介済みと教えられて驚いた。というか意味がわからない。
「え、え、なんで?」
「なんで、って、まぁ、再婚するなら俺は用済みになるわけだし、俺もいきなりもう来なくていいよとか言われたらちょっと困るし、そのへんのタイミングどうするか、みたいな相談だけど」
 お前が就職して家出ていくくらいのタイミングで再婚するんじゃないか、と続いた言葉に、ますます頭の中が混乱する。就職はまだ数年先の話だけれど、父親と就職後の話なんてしたことがない。
 出ていかなかったらどうする気だ。
 いや再婚なんて話が現実になったら、家になんて居づらくって出ていくことになるとは思うけれど。彼の居なくなった家になんて、なんの未練もないのだから。
「初耳なんだけど。てか俺のことよりそっちの話。そんなあっさり用済みって、そんな扱いされて悔しいとか腹立たしいとかないわけ!?」
 なんでそんな平然としてられるのか。二人がいちゃいちゃしてる姿を見たことがないので、イマイチ二人の親密さに実感がわからないながらも、普段の様子にはなんの変化もないから、自分の目が届かないところではそれなりに仲良くやってんだろうと思っていたのに。
 まさかとっくに冷え切った関係になっていたのだろうか。
「むしろ感謝しかないなぁ。人間関係失敗してニートやってた俺に、長いことぬるま湯みたいな環境でリハビリさせてくれてたわけだし」
「は? リハビリ?」
「そうだよ。お前が俺に懐いて、俺の作る飯を美味しい美味しいって食べてくれて、居なくなった母親代わりだとしても俺を必要としてくれたのと、後は純粋にお金だよね。時給換算したら、それなりの額は貰ってたよ」
 そういやあんまりこういう話ってしたことなかったな、と言ってはにかんだ相手は、やっぱり未だにちょっと後ろめたいんだよねと続けた。ニートを拾ってもらった、だとか、やってるのは半端でしかない主婦業、という負い目やらがあるらしい。
「知らなかった……てか、てっきり……」
「俺と親父さんが付き合ってるとか思ってた?」
「うっ……だ、って……」
「まぁ、実際、そういう噂がたったことはあるよね」
「ま、じで……」
「そりゃ母親でてった家に男が頻繁に出入りして家事してたら、ねぇ」
「で、その噂、どうなったわけ?」
 どうやら事実無根とこちらの事情を知らせて、名誉毀損で訴えることも視野に入れた話し合い、というのをしたらしい。
 知らなかった。
 というか自分に余計な情報が入ってこなかったのは、ご近所には突付くと裁判ちらつかせてくるぞ的な認識が広がっていて、皆が口をつぐんでいたというのも大きいのかも知れない。なんてことを、彼の話を聞きながら思ってしまった。
「それで、親父が再婚したら、そっちはどうする予定なの?」
「数年は猶予があるから、一応、俺でも馴染めそうな仕事を探すつもりで動いてるよ」
 また人間関係で躓いたらっていう不安はあるけど、それも以前ほどではなくなってきたから、多分きっと大丈夫、らしい。上手く行って欲しいのに、また躓いちゃえばいいのにと思う気持ちも、無視できない程度には存在している。
「その、俺が就職したら、今度は俺が雇うとかってのは、あり?」
 相手が口を開く前に、親父ほどには払えないから短時間でも週1とかでもいいからと食い気味に告げれば、相手は少しおかしそうに目を細めながら口元を隠している。
「だめ?」
「だめ、じゃないけど」
「じゃないけど?」
「理由がないな、って」
「理由?」
「もしまた付き合ってるって噂が立っても、今度は否定できるような正当な理由、ないなぁって。昔の噂知ってる人からは、どう見られるんだろ」
 息子に乗り換え、とか思われそう。なんて言いながらも、別に困った顔はしていない。それどころか、やっぱりどこか楽しそうだ。
「噂じゃなくて、事実にしてよ」
 その楽しげな顔に背を押されるみたいにして、俺と付き合ってと言ってみた。ずっと彼は父親のものだと思っていたけれど、そうじゃないなら、自分が手を伸ばしたっていいはずだ。

続きました→

 
 
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「親父のものだと思ってた」への2件のフィードバック

  1. さああああいっこうです( ; ; )
    性癖ぶっ刺さりました、、ぜひ、、ぜひ主人公の恋が実るまでを読ませてください、、!!泣

  2. 性癖ぶっ刺さりありがとうございます!
    恋が実るというか、どっちが抱く側になるのかはちょっと私も気になってたりです。
    2人とも自分が抱く側と思ってそうなので。

    今、短い話を増やしたいなと思ってる所なので、続き書きますとは言えませんが、検討はしてみますね。

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