顔が広く人望もある人物と拗れた上に、その前段階でゲイ疑惑などもあったから、殴られたりなどの肉体的な被害や、カツアゲだったり物を壊されたりの金銭的な被害はほぼなかったものの、居場所のなさと好奇の目に耐えられず、学校へ通うのが苦痛になったようだ。
「ヒソヒソされたり、通りすがりに暴言吐かれたりってだけでも結構精神的に削られるんだけど、その内容がまた酷かったっていうか、ゲイだと思われてたから下品なエロ単語とか、からかい混じりのお誘いとかもあったし、本来なら諌めてくれそうなリーダーは知らんぷりで動かなかったし、そういうのを自分で上手く躱せなかったんだよね」
人との接し方がわからなくなって引きこもっていたところに、親戚の子供のトラブルが舞い込んで、頼み込まれて相手をしているうちに恐怖心は薄れていったらしい。
「そういや親父って、その話どこまで知ってたの?」
「リーダー格の男と揉めてクラスに居場所がなくなった、くらいには知ってるかなぁ。てか親とかもその程度の認識で、そのリーダーと何があってどんな風に揉めて、なんてのはお前にしか話してないよ」
「そっか」
「こんなのなかなか言えないって」
「そ、だよね」
「聞かなきゃ良かった?」
「まさか。教えてくれてありがと。てか本当に話して平気だった? 思い出して嫌な気持ちになってたりしない?」
「大丈夫」
お前のおかげだよと、ふわっと笑われて嬉しくなる。
「お前と恋人になったあと、どこまで出来るかってのは、期待もあったけど不安も大きくてさ。童貞男としてはエロいことに興味だってあるし、好きな子と性的なことも含めて色々したい気持ちだってあったけど、お前、俺を抱きたいって言うし、そうすると相手が男ってのはやっぱり想像以上に過去を刺激してくるんだよね」
お前が抱かれる側を了承してても、コンプレックスとトラウマが影響するだろうから、そうすんなり致せたかはわからないけど。と彼の言葉が続いたけれど、でもこちらが素直に抱かれていれば、相手の精神的な負担はもっと少なかった可能性が高いことはわかる。
「うっ、でも、俺が抱く側になるのは譲れないというか、どう頑張っても無理ってわかるまでは諦めたくないっていうか」
「わかってるよ。それも含めて、今はもう可能だと思ってるし、それはお前が自分で掴み取った未来ってことでいいよ」
「ねぇそれ、そういう色々があったとしても、それでも俺を放したくないくらい俺のことを大好き、って思っていいやつ?」
茶化すように聞いたけれど、でも多分、そういう話だ。
「いいよ。前にも言ったけど、俺がお前を、長いこと掛けて誑かした面がかなりあると思ってるのは事実だ。色々抱えてる俺が、それでもお前が良くて、お前を必要としてる。ついでに、間違ってなかったとも思ってる」
お前を選んでよかったと、また彼は嬉しそうに笑っている。
「無理やり体見られたり無理やりデカイの握らされた恐怖みたいのはやっぱりあったから、俺を抱きたいって言うくせに、俺に無理強いすることなく、むしろ俺に好き勝手させてくれるの、本当に救われたっていうか、今の今まで事情言えなかったのに、散々リハビリに付き合わせてゴメンな」
「リハビリ成功?」
「そう。お前に触れるし、触られても見られても平気。口でされるの気持ちよかったし、これ以上先に過去の嫌なことが響いてくることはないと思う。まぁ、未経験ゆえの不安とか恐怖とかはあると思うけど、それは過去があってもなくても変わらない話だし」
「確かに」
「まぁ、こんなおっさんの体相手にと思う気持ちも、未だにあるんだけどね」
でも本気で抱く側を主張してるのはわかっているし、可能なんだろうことも思い知っているらしい。
本気で主張の部分はともかく、本当に抱けるってことを既に思い知ってるんだ。
そう思ったら、少し笑ってしまった。
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