ずりずりとベッドの中央へ移動してから寝返りを打って、やっぱり困ったような泣きそうな顔のまま、こちらを見続けていた相手をジッと見つめ返す。
「我慢しなくていいなら、お前、今夜この部屋、泊まってってよ」
ダメだと思うのにイライラをぶつけるように冷たく言い放てば、相手はあっさり頷いてベッドに乗り上げてくるからビックリした。
「お前の隣、寝る、いいか」
「寝るなら、全部脱いで」
こちらは脱いでなんて居ないし脱ぐ気もない。それは一方的な要望だ。相手はさすがにビクッと震えて一瞬固まったけれど、それでもすぐに身にまとう布を剥いでいく。黙ったまま黙々と脱いでいて、お前も脱げとは言われなかった。
恥ずかしそうに顔を赤らめて、時折視線がさまようが、それでも顔を背けてしまうこともない。こちらの要望通り全て脱ぎ捨ててから隣に横たわった小さな体へ、こちらも黙ったまま手を伸ばした。
互いに無言だけれど、視線だけはしっかり互いを捉えている。その視線からも、手の平の下の皮膚からも、相手の酷い緊張が伝わってくる。
こちらを心配してくれる相手の厚意につけ込んで、なにをしているんだと胸の内で自嘲しながらも、手の平に触れる感触を手放せないままアチコチそっと撫で擦った。
食事担当の彼とは少し違うけれど、それでも間違いなく同種の肌触りに、心が浮き立つよりも先に重苦しく沈んでいく。以前なら、世話係の彼をこんなにはっきり触れて撫で回せる時間を、もっと興奮しながら楽しんでいたはずだ。相手の緊張すらも含めて、楽しむ余裕がきっとあった。
「ひぅっ……」
スリット部を探り当てて、その割れ目を指先でなぞった所で、とうとう悲鳴のような声が漏れる。慌てて口元を覆った手に苦笑しながら、触れていた手をそっと持ち上げて離した。
「無理すんなって」
「でも、お前元気になる方法、俺、わからない」
「ごめん。それは俺も、わかんねぇや」
でも好き勝手触らせてもらっても、それで元気になれそうにないことははっきりした。そう言ってもう一度ごめんと告げれば、相手はゆるく首を横に振ってから何かを考え込んでいる。
少ししてから、相手はおずおずと口を開いた。
「お前、目、閉じる。俺、撫でる、する」
「なんで?」
「目、閉じる、する。少し、代わりになる、可能性、ある」
「代わり……って、飯係のアイツの?」
頷かれて苦笑するしかない。
「それで俺がちょっとでも元気になったら、お前、それでも嬉しいの?」
「嬉しい、思う。おかしいか?」
素で聞き返されたなと思いながら、やはり苦笑を深くした。
「お前たちには繁殖期があるって聞いたんだけど、お前に繁殖期が来たら、俺のこと、抱く?」
「え?」
「薬の話も聞いたよ。お前には使えないんだってな。お前が俺を抱けないって逃げるのは、今は繁殖期じゃないからで、繁殖期になったら抱いてくれんの?」
「俺……、繁殖期、まだ、かなり先」
「うん。でもアイツよりは周期近いんだろ?」
「それまでに、お前の食事、普通に食べれる、なるはず」
なんで突然こんな話にと思っているのがありありとわかる様子で、それでも律儀に、戸惑いながらも答えを返してくれる。
「うん。そうかもな。だからさ、その時にそれが食事になるかどうかは関係なく、俺を、抱く?」
「なぜ抱く? 理由、ない」
本気でわからなそうだった。こんな反応をする相手に、何をどう間違ったら、恋愛感情を抱かれてると誤解できるんだろう。それともそういった感情とセックスは、繁殖期という衝動を持つ彼らにとっては別物なのだろうか。食事担当の彼が当たり前に人のセックスを調べて持ち込んでくるから、なんとなく人も竜人も似たようなものと思い込んでいるだけで。
「人は好きな相手とはセックスしたがるもんなんだけど、お前たちってやっぱ基本セックスは繁殖するためだけにするの?」
「繁殖大事。それも仕事の一つ。でも、」
「でも、何?」
「好きな相手の発情、受け止める、する、嬉しい話、聞く」
「それ、好きな相手と繁殖期が揃わなかった場合、繁殖できなくてもセックス楽しむよって話?」
聞いたらそこで黙り込んでしまった。そういや薬の話を出された時も、詳しくは言えないがと言っていたっけ。
「あー……言えないなら別にいい」
「俺それ、話す出来るか、わからない。お前が繁殖知る、良くない、思う」
やはり彼らがどうやって繁殖して数を増やすかなどは、人である自分は知らずに居たほうがいいということらしい。
「だろうな。じゃあ俺達のことだけに話を戻そうか。俺と、食事でも繁殖でもないセックス、したいと思う?」
「なぜ? お前好き、俺じゃない」
言うと思った。
「好きだよ?」
「俺、お前の世話する。俺、一番お前と居る。好きなる、当たり前」
「俺の好きを否定したのに何言ってんだ?」
「好き、意味、違う。言葉、わからない。でもお前、知ってる」
わかってるだろうと言いたげな真っ直ぐな瞳に、こちらはやはり苦笑しか返せないから情けなかった。
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