2学期初日の朝礼に、その人物は現れた。 
 夏休み明けのどうにもシャッキリしない気持ちが、校長の告げた臨採教師の名前を耳にした瞬間、ドキリと脈打つ心臓と共に緊張と期待とで引き締まる。 
 挨拶をと促されて出てきた姿に彼の人の面影を見て、間違いないと思った。
 鼻の上に乗った丸いメガネには馴染みが無いが、メガネ越しでもわかる、少し吊り気味の瞳は昔と変わらない。 
 それでも信じられない思いが強くて、河東美里はその口が開くのを、前方を睨みつけるようにして待った。 「ただいまご紹介に預かりました、西方雅善です。産休に入られた高原先生に代わって、化学を教えます。不慣れな点もあるかと思いますが、よろしゅうお願いします」
 耳障りのいい声は、普段聞きなれたものとはやはりどこか微妙にイントネーションが違う。
 しゃべるたびにチラチラと覗く八重歯も懐かしかった。 
 噛み締める喜び。二度と会えないと思っていた相手との、この偶然の再会を、運命と信じても許されそうな気さえした。
 休み明けの一日目は朝礼と簡単なHRだけだ。 
 ソワソワとした気持ちを抱えながら、担任教師が教室を出て行くのを待って、それを追う勢いで席を立つ。
 取り敢えず職員室へ行けば会えるだろうかと考えながら、教室を出て数歩。 
「あれ、河東。お前どこ行くんだよ。今日、部活出るって言ってたろ?」 
 丁度隣の教室のドアから出てきた男が美里を呼び止めた。
 今泉彰浩という名のその男は、夏の大会が終わるまで、美里と共にサッカー部で共に戦って来たチームメイトだ。 
「俺たちが引退した後、どんだけしっかりやってんのか、今日はみっちり視察してやるって言ってたよな?」
 確かにそう告げた記憶がある。
 美里の通う高校は県内でも有数の進学校なためか、夏休みの後半から始まる全国高校サッカー選手権大会の地区予選まで、部活を続ける三年生はいない。
 しかし、夏休み明けを待って、様子見と称してウキウキと部活に顔を出す三年生は多かった。だから夏休み明け初日の部活は、引退した者にとってもある意味特別な日だ。
 雅善との再会を果たすのは明日にしてもいいかも知れない。 
 一瞬だけ迷って、結局。 
「そうだったな。今日の所は部活を優先しよう」
 美里は今泉へ笑顔を向けた。
 確かにそう告げた記憶がある。 
 美里の通う高校は県内でも有数の進学校なためか、夏休みの後半から始まる全国高校サッカー選手権大会の地区予選まで、部活を続ける三年生はいない。 
 しかし、夏休み明けを待って、様子見と称してウキウキと部活に顔を出す三年生は多かった。だから夏休み明け初日の部活は、引退した者にとってもある意味特別な日だ。
 けれど今は、雅善との再会を果たすことの方が、美里にとっては重要だった。
 確かめるような今泉の問い掛けに、美里は申し訳なさと共に苦笑を返した。
 「悪い。ちょっと職員室寄りたいんだ」
 「職員室?」
 「朝礼で挨拶した臨採、知り合いなんだよ。久々だから挨拶しておきたくて、な」
 もう一度悪いと告げた美里に、今泉は軽く肩を竦めて見せる。
 「わかったよ。俺は予定通り部活に顔出すから、お前も後で来いよな」 
「ああ、そうする」 
 軽く手をあげて今泉と別れた美里は、今度こそ職員室へと向かった。
 目的の人物は職員室前の廊下にいた。ただし、その周囲を数人の女生徒たちが囲んでいる。 
 距離があるので会話の内容は聞き取れないが、楽しげに話す姿に胸の奥がザワついた。
 邪魔してやりたいという子供じみた感情と、口の軽そうな女生徒たちに割って入って彼との関係を勘繰られるのも、それを噂されるのも、後々面倒そうだと言う理性との間で迷う。
 急ぐ必要はないか…… 
 どうせ高原先生が出産と育児を終えて復帰するのは、美里が卒業した後のことになるだろう。
 雅善は明日も明後日もその先も、暫くはこの学校へ教師として毎日通ってくるのだ。 
 今すぐにでも再会を喜び合いたいという気持ちを押さえ込んで、美里はその場に背を向けた。
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