お隣さんがインキュバス

 深夜とも言える時間帯、終電でなんとか辿り着いたマンションはなんだか少しいつもと違う。 
 不穏な気配の原因はすぐにわかった。エレベーター前で揉めている二人の男がいる。
 騒がしくはないが、小声で何やら言い争っているのがわかった。
 疲れた体で階段を使う気はせず、かといってその二人の間に入っていく勇気もなく、さっさと終わってくれないかと思いながら、ぼんやりとその二人を眺めてしまう。
 やがて片方の男がこちらの存在に気づいて何か言ったようだ。ちらりとこちらを確認したもう一人の男が、結構派手な音を立てて相手の頬を叩く。
 さすがに驚いて目を瞠っているうちに、頬を叩いた側の男がつかつかとこちらに向かってくるから焦った。しかし特に絡まれることはなく、通りすぎる時に軽く舌打ちされた程度で済んでホッとする。
「すみません、変なところ見せちゃって」
 叩かれた頬をさすりながら残された男がペコリと頭を下げた。
「あー……いえ。その、大丈夫ですか」
「大丈夫です。気にしてくれるなんて優しいですね」
 にこりと人懐っこそうに笑った相手は、エレベーター使いますよねと続けながらボタンを押す。これはこの男と一緒に乗り込むしかなさそうだ。
「4階ですよね?」
「そうですけど……」
「俺、隣に住んでますけど、もしかして顔わすれちゃいました?」
 こちらの警戒心が伝わったのか、相手が苦笑する。
 言われてみれば確かに、以前、隣に越してきたと挨拶に来た男と同一人物らしい。その挨拶以降、一度も顔を合わせたことがないので、隣には自分よりも少し若いだろう男が住んでいるという情報だけが頭に残っていて、顔などすっかり忘れていた。
「え、あ、あー……すみません。ご挨拶頂いたとき以来だったので」
「いいですいいです。俺、人の顔覚えるの得意なんで」
 一緒にエレベーターを降りた男は、自宅の一つ手前の部屋のドアを躊躇いなく開ける。
「おやすみなさい、いい夢を」
 最後にそう笑った顔が、廊下の薄明るい蛍光灯の下ですら、なんだかキラキラと輝いて見えた。

 そんなことがあったからか、変な夢を見てしまった。
 さっきはありがとうございましたとキラキラの笑顔を振りまくお隣さんに起こされて、別に何もしてないと言うこちらの訴えをスルーされて、ニコニコ笑顔のまま覆いかぶさってきた相手と、あれよあれよという間に体を繋げていた。しかも、自分が抱かれる側で。
 夢だからなんだろう。抱かれるなんて経験は初めてなのに、痛いどころか、ひたすらに気持ちが良かった。
 自分の口から女みたいな嬌声が漏れ出ているのが不思議で仕方がない。セックスが上手いっていうのはこういうことを言うんだろう。それを思い知らされるような手管の数々に、善がり泣く以外出来なかった。
 恋人に振られたのがもう1年近く前だし、忙しすぎて自己処理すらご無沙汰だったせいか、散々イカされまくった後の目覚めはなんともスッキリしている。
 ただ、下着が汚れていなかったのは不思議だったし、お尻の穴がムズムズしていてなんだか恥ずかしい。その場所が、まるで夢のとおりに気持ちが良くなりたいと期待しているみたいで嫌だ。

「お疲れさまです。今日もけっこう遅かったですね」
 どういう仕掛けかわらかないが、自室がある階でエレベータを降りて歩き出した矢先、隣室のドアが開いて男が出てくるから驚く。
 思わず足を止めてしまったが、相手の顔をまっすぐに見返したところで、昨夜の夢を思い出してしまった。顔に熱が集まるのがわかって、なんとも気まずい。
 そっと視線を外せば、相手がふふっと小さく笑う気配がした。
「俺のこと、意識、してくれてますよね?」
 嬉しいなぁと呑気な声の後、相手の気配がぐっと近づいてくる。
「今夜も、楽しみましょうね」
 耳元で囁かれた声に慌てて一歩後ずさり、相手の顔をまじまじと見つめてしまう。気まずいなどと言って、視線を外していられない。
「どういう意味だ」
「やっぱ覚えてないか。そもそもあの状態じゃ、聞こえてたかも怪しかったけど」
「だから、どういう意味だ」
「俺ね、インキュバスなんですよ。あなたのこと結構気に入っちゃったんで、変な夢見たなぁじゃなくて、今日はちゃんとリアルで可愛がってあげたくて、帰ってくるのを待ってたんです」
 何を言われているのかわからないものの、楽しげに笑っている顔がやっぱりキラキラと輝いて見えて、だからおいでと伸ばされた手を拒めなかった。

さ~て、今週の有坂レイにぴったりのBLシチュエーションは~?
1.ビンタ
2.お隣さん同士
3.相手がインキュバス
の三本です!!
来週もお楽しみに~!
https://shindanmaker.com/562913

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です