親友の兄貴がヤバイ3

1話戻る→   目次へ→

 このまま夕飯も食べていけばと言う誘いはさすがに断って、また明日学校でと告げ親友の家を出たのは18時を少し過ぎた時間だったけれど、外はすっかり日が落ちて真っ暗だった。
 思いの外冷たい風が吹いていて、寒さに少しばかり身を竦めながら歩いていたら、隣から思ったより外は寒いねと声が掛かる。その声はコンビニに行きたいから途中まで送るよと言って付いてきた彼のものだ。
「誰もいないし、手、繋ぐ?」
「は?」
「手、繋いでたら少しは暖かいかも」
「繋ぎませんよ」
 魅力的な誘いではあったが、いくらなんでもこんな場所で手を繋いで歩く勇気はない。そこまで遅い時間ではない割に人気がないとはいえ、お互い知り合いに見られるリスクが高すぎる。
 家が近い彼はもちろんのこと、自分だってこの近辺に住む友人知人は多い。自宅からはそこそこ離れているが、それでもここは同じ学区内だ。
「デートはしたがるくせに、手繋ぐのも躊躇っちゃうんだ?」
 今なんて絶好のチャンスっぽいのにと小さく笑われて、ぐっと握りしめた拳を慌ててポケットに突っ込んだ。煽られた勢いで手を繋いでしまいそうだった。
 歩いていた足を止めて、隣を歩く相手をじっと見つめる。二歩ほど先で相手も立ち止まり、体ごとこちらに振り返る。
「どーした?」
「あなたが、恋人っぽいアレコレを色々してくれようとしてるのはわかってるし、嬉しい気持ちがないわけじゃないですけど、でも、人に知られるのは普通に怖いです。余計な雑音を聞きたくないし、あなたに聞かせたくもない。せっかく恋人になれたのに、そのせいで別れるようなことになったら、絶対に、嫌です」
 真剣に言い募れば、すぐさま相手の眉尻が申し訳なさそうに下がった。伝わってよかったとホッと息を吐く。
「そ、っか。あー、その、ゴメン、な?」
「キスも、嬉しくないわけじゃないんですけど、でも、あんまりヒヤヒヤさせないで下さい」
「朝の?」
「はい」
「ん。ゴメン、気をつける」
 せっかくコンビニに行きたいなどと理由をつけつつわざわざ送ってくれているのに、相手の好意に文句を言って落ち込ませて何をやっているんだと思うと、ついため息がこぼれ落ちた。
「こっちこそすみません。色々してくれようとするその気持ちだけでも、本当に、凄く、嬉しいです」
 でもそうやって色々としてくれようとするのは、まるで一生懸命恋人としての勤めを果たそうとしているようにも見えてしまう。なんて薄暗い気持ちもほんのりと自覚してはいたけれど、さすがにそれを口に出すことは出来ない。
 たとえ根底にあるのが責任感でも罪悪感でも同情でも、本当の恋はしてくれなくても、彼と恋人となれる道をあの日選んだのは自分だ。だから本当は、一生懸命恋人っぽくあろうとしてくれる姿に、文句など言える立場にはないのに。むしろ歓迎すべきだと思うことすらあるのに。
 内心そんな反省をしつつ、止めていた足をゆっくりと踏み出した。またすぐ並んで歩きながらも、どことなく気まずくて会話はない。
 その気まずさを破って口を開いたのは、やはり彼のほうだった。
「あのさ、やっぱり知り合いと会いそうにない場所というか、どこか遠出してデートしたいのが希望?」
 ずっとそれを考えていたのだろうか。話題を変えてなんとなく楽しい会話でやりすごすという事はしないらしい。
「まぁ、一緒に色んな所に出掛けてみたい、という希望は有りますけど、でも知り合いと出会う可能性がないなら手を繋いで歩けるとか、そういうのは別に考えてないですよ?」
 本当は食事やお茶だって、もっと長時間一緒に過ごせるなら、もっと満足出来る気はするのだ。ほんの数時間でじゃあ勉強頑張ってと言われて別れなければならないのが不満なだけで。
 そう言ったら、もしかしてイチャイチャしたい欲求って少ない? と聞かれてしまった。
「俺、あなたを抱きたいって、言いましたよね?」
 欲求がないわけないじゃないかという気持ちが漏れて、声が固くなったのがわかる。
「うん聞いた。ってそういうガッツリした話じゃなくて!」
 自分から話題を振ったくせに、照れた様子で少し声が大きくなった。
「そういうのじゃなくてさ、キスしたり手繋いだりの軽いスキンシップの話。あいつとは距離めっちゃ近いのに、俺とはイチャイチャしたいって思わないのかと」
「そりゃ二人きりでなら、したいですよ」
 二人きりで軽いスキンシップなんてしたら、それだけで済む気はしないけれど、それは言わないでおく。
「でも人の目がある中で、あいつとあなたと、同じ距離感で接してたら明らかにおかしいでしょ」
「まぁそうだな。じゃあもっと直球で聞くけどさ、クリスマスくらいはちゃんと恋人らしく過ごしたいんだけど、それってあり?」
「は? クリスマス?」
「そう、クリスマス。今年24日が土曜なんだよ。だからちょっと遠くても行きたい場所あれば行けるし、二人きりになりたければホテルって手もないわけじゃない。けど、さすがにホテルはこの前みたいにいきなり部屋取れると思わないし、予定は早めに立てたいんだよね。それでどう? 俺と、クリスマス恋人デート、する気ある?」
「ないなんて言うわけない」
 言えば、ホッとした様子で嬉しそうに笑ってくれるから、こちらもなんだかホッとしてしまう。
 ああもうなんか色々と、圧倒的に敵わない。そんな気がしてしまって、悔しさにひっそりと唇を噛み締めた。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です