とうとう噴出した相手が、ゴメン嬉しいと言いながら照れた顔を隠すように、少し身を屈めて肩口に額を押し当ててくる。
「あのさ、お前に抱かれる覚悟は出来てるけど、でも怖くないわけじゃないんだよ」
繋いだままの手がまたキュッと強く握られたので、応じるように握り返してやれば、また小さく安堵の滲む息を吐く。
「みっともない姿だって色々見せるだろうし、お前の期待するような反応できるかわからないし。というか多分期待通りの反応なんてほとんど出来ない気がする。年上の余裕なんて、始めて抱かれる側になるベッドの中にまで持ち込めないの、わかりきってんだよ」
だからさと続けながら頭を上げた相手の顔が近い。
「ホテル入るまではって思って、大事な恋人を優しく気遣う大人でカッコイイ俺、ってのを頑張って演じてた」
「頑張って、演じて、た……?」
「そう。演じてたの。みっともない姿を晒す前に、ちょっとくらいカッコつけて置きたかったんだよ。それくらい、させてよ」
「敵わないって打ちのめされるくらいに、格好良かった、ですよ」
ふふっと笑った顔が近づいて、軽いキスを一つ掠め取っていった。
「あんまりカッコイイから、追い詰めて酷い目に合わせてやりたいって?」
「酷いことされたら萎える系って思い知ってますから、返り討ちにあうのわかっててやりませんよ、本当には」
困らせて泣かせて溜飲を下げたとしても、それが一時的なものにしかならないことはわかりきっている。ただそう思ってしまうことが、そういった感情が湧いてしまうことが、忌々しいなと思うだけだ。
「優しくしたい?」
「しますよ。余裕なんて欠片も無いですけど、出来る限りは」
「うん、そうして。多分、お前が見たい俺は、優しくされても見れると思うし」
「どういう意味ですか?」
「年上の余裕なんて、ベッドの中にまで持ち込めないって言ったろ。お前に抱かれたら、どんなに優しくされたって、追い詰められてみっともない姿を晒すよ。それこそ、下手したら泣き顔だって見せるかもしれないけど、お前がむしろそんな俺を見たいなら、安心する、気がする」
「さっきの嬉しいって、そういう意味、なんですか? 俺が貴方を追い詰めて困らせて泣かせたいと思ってて、安心したって話?」
Mじゃないって言ってませんでしたかと聞いたら、優しくされたいんだからMなわけないだろと返される。
「カッコつけること考えなくても、みっともない俺を見せても、お前は大丈夫なのかなって安心だよ。お前の中の妄想の俺がどんなか知らないけど、現実の俺に幻滅しないといいなとは思ってる」
「ああ、初恋拗らせて、頭ん中で散々貴方を犯してますからね」
「知ってたけど、そういうのは突きつけてこないで欲しいかな」
「妄想と現実の区別くらいついてますよ。というより、妄想通りの反応された方がよっぽど幻滅します」
「本当に? 現実ってそんなに甘くないよ? セックスってそんな綺麗なもんじゃないからな?」
不安げに揺れる瞳に、そういやこの人、若干潔癖入ってたからなと思う。後、今日のデートを振り返って思うに、それなりにロマンチストだ。
多分、相手よりも自分の方が汚い現実をちゃんと見ている気がする。少なくともセックスに綺麗事なんて求めてない。正直シャワーなんて浴びずに始めたっていいくらいだ。
もちろん、あちこち残るソープの香りに、深く口付けた口内に残るミントの爽やかさに、一生懸命どこもかしこも綺麗にしてきたのだと知らされるのも悪くはないけれど。
「あの、どうしても不安だったり怖かったりするなら、今日じゃなくても、いいですよ。今日、既に色々して貰ったのに、更に貴方の初めてまで欲しいなんて、貰い過ぎなんじゃって思ってたところですし」
「えっ、嘘。まさか萎えた?」
サッと血の気が引いていく顔に、いやいやなんでだと思う。
「萎えてません。というか優しくされたいんですよね? 目一杯優しく気遣った結果の言葉だったんですけど?」
「ちっげぇよ!」
荒げた声が上がって何か怒らせたのかと思ったが、相手は何かを逡巡しながら顔を赤く染めていく。
「不安でも、怖くても、それでもお前に抱かれたくて、だから俺はここに居るんだよ?」
やがて覚悟を決めた様子で開かれた口から告げられた言葉の衝撃は大きかった。
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