SIN2

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 響く女の嬌声と、揺れる肢体。
 
 あいまいにぼかされた映像に、雅善はあっさりと魅入っていった。
 一方美里は、低刺激な映像には大して興味が持てずに、欠伸を噛み殺す。
(あいかわらず、下らないな)
 そんなことを思いながら、ちらりと横の雅善を見やった美里は、その真剣な瞳に思わず苦笑を零した。こんなものに欲情出来る雅善が、微笑ましいとさえ思う。
「ワイ、トイレ……」
 やがてそわそわし始めた雅善が、そう言って立ち上がる。
「気にしなくていいって言ったろ」
 美里は言いながら、腕を伸ばして雅善の手首を掴んだ。
「見ながら、ここですれば?」
 振り返った雅善は、驚きの表情で美里を見つめ返す。
「そっちのが、感じるだろ?」
「そんなんええって。それより、手、放せや」
 美里はそれに応じるどころか、逆に雅善の腕を引いて、開いた自分の足の間にむりやり座らせた。
「ちょ、ちょおっ、やめっ!」
 そんな抗議の声を無視してフロントへ手を伸ばすと、美里はズボンの布越しにいきなり握りこむ。それと同時に、息を詰めるような雅善の小さな悲鳴と、美里の腕の中でこわばる体。
 それを詫びるように、今度は優しく、ゆっくりと撫でさする。
「ヨシ、ノリ……」
 掠れた声で、雅善が呼んだ。
「遠慮するなよ。気持ちいいだろ?」
 雅善は快楽に力が抜け落ちて行くのを感じながら、それでも懸命に首を横に振ったけれど、美里は当然のように無視を決め込んだ。
「画面に集中してればいいって。ほら、あの女の手とか舌とか、想像してりゃいい」
 言われて雅善が視線を上げれば、ちょうど女優が一生懸命奉仕しているシーンとぶつかった。一瞬見とれて、けれど。ズボンのジッパーが下ろされる音と、続いて中に進入して来た少し冷たい美里の手に、ハッと我に返った雅善は慌ててその手を押さえようとする。
「嫌がるなよ、雅善」
「嫌に、決まっとる、やろ……」
「こんなの、普通のことだって。上映会する時なんて、みんなでヌきあったりするんだぜ?」
(ってのは嘘だけど、わざわざトイレに行ったりする奴も居ないんだよ)
 そんな心の中を悟られないように、美里は更に続ける。
「それに、人にされた方が、イイだろ? たまには、新鮮で、さ」
 雅善はやはり首を振ったけれど、美里の手首を握り締める力が抜けて行く。それをいいことに、美里は雅善の手を振りきって下着の中にまで手を忍ばせて行くと、確かめるように熱を孕む欲望の先に指で触れた。
「はぁっ、あっ、ぁぁ……」
 指の先に触れたぬめる雫を広げるように延ばして行くと、雅善の体がガクガクと震えて、途切れがちで小さな、悲鳴に似た声が上がる。
(雅善相手に、何やってんだろな)
 そんなことが脳裏をよぎったりもしたけれど、美里は行為を止めたりはせずに、雅善の弱い部分を探り続けた。

 

「あぁ~ん、イイっ。あぁん、もっと、……あっ、あっ、イイ……」
 テレビから流れる、女の甘えた声と。
「あっ、あっぁ、やぁっ……あぁぅ、うぅんっ、んぅ……」
 雅善の漏らす、吐息に似た切ない喘ぎ声と。

 

 女の声を鬱陶しく感じながら、美里の耳は雅善の声を拾い集めていく。そしてたまに、かすかに響く、粘液の擦れる クチュッ というイヤらしい音も拾うたび。
(まずい、かな……)
 同性の友達の、掠れる声や濡れた音に興奮しはじめた自分自身に、美里は自嘲の笑みをこぼした。
「せっかくだから、あの男と同時にイくか?」
 もちろん最初から、美里には雅善の返事など聞くつもりはなかった。
「アっ……ホ、言うなっ、はぁ、あ、やぁって……」
「ちゃんと、見とけよ。ほら、あの動きと同じリズムで扱いてやるから」
 だから、かろうじて否定の言葉を紡いだ雅善の意識を、美里はテレビの中で繰り広げられている行為とシンクロさせることで、むりやり映像へと向けさせる。美里から与えられる快楽に、すっかりテレビから美里の指へと意識を移していた雅善も、顔を上げて閉じかける瞳をなんとか開いた。
 女を喜ばすように、ゆるやかに責め立てる動きに合わせて、美里の手が上下している。それがやがて、終焉へ向けて加速されて行くのに、雅善はあっさり音を上げた。
「もぅ、あかん……って、ヨシ、ノリ……」
「しょうがないな」
 押し止めてしまうことも考えないわけではなかったけれど、美里はそうせずに、雅善を追い上げていく。
「イって、いいぞ」
「あっ、ぅ……っ、イっ……く、ぅっ!」
 わざわざイく瞬間を宣言した雅善に、美里は苦笑を漏らしながら。脇からそっと覗き込むようにして、吐き出されて来る暖かな精を、その手ですべて受け止めた。
 濡れた手で、搾り取るように下から数度擦りあげれば、雅善の体がビクビクと痙攣し、わずかに残った残滓が零れ出す。
「たくさん出たな。気持ちよかったろ?」
 雅善が落ち着くのを待って、わざわざその手を掲げてみせた美里に、雅善は脇に置かれたティッシュの箱から無造作に数枚抜きとると、無言のまま美里の手についた自分の汚れを拭った。
「手、洗ってこい」
 思いのほかさめた口調に、美里は自分の足の間に座る雅善をよけるようにして立ち上がると、洗面台へと姿を消した。

 

 

 美里の後ろ姿を見送った雅善は、大きなため息を一つついた後、汚れをティッシュで拭って服を整える。ビデオはいまだに続いていたけれど、平然と続きを見る気にもなれず、雅善は置いてあったリモコンで電源を切ってしまった。
(信じられへん……)
 もう一度溜め息をつきながら、雅善はソファの背もたれにポフリと寄り掛かって目を閉じた。
(美里なんかの手で、イってまうなんて……)
 そもそも、ためらいもなく触れて来た美里の精神を疑いたい。
(普通って……普通って……こんなん、普通とちゃうやろ!)
 それとも、自分が知らなかっただけで、こんなことをしている友達はもっとたくさんいるのだろうか? 
 そんなことを、雅善は泣きそうになりながら考える。
「泣いてるのか?」
 その声に、雅善はハッとして目をあける。
 いつの間にか戻ってきていた美里が、見下ろすようにして立っていた。
「泣いとるように、見えるんか?」
「一瞬、そう見えた」
 そう言いながら伸ばした手で、美里は雅善の髪をくしゃりとかき混ぜる。そして、雅善の視線を捕らえたまま、そっと顔を寄せて行く。
 何を考えているのかよくわからない、複雑な笑みを見せたまま近づいてくる美里の顔を、雅善は諦めに似た気持ちで受け止めた。
「これも、普通のことやって言うんか?」
「えっ?」
「友達と集まってビデオ見て、ああいうコトするんは、普通なんやろ?」
 美里にもよく聞こえるように、雅善はわざと大きく溜め息をついてみせた。
「怒ってるのか?」
「怒っとる」
「でも、気持ち良かっただろ?」
 その言葉に、どうしても先程の、甘く痺れるような気持ち良さを思い出してしまう雅善は、頬が朱に染まるのを止められない。それを見て、美里はどこかホッとしたように微笑んだ。
「悪かったよ。確かに、普通じゃないことをしたな」
 その謝罪が、むりやり触れたことについてなのか、キスしたことについてなのか、雅善にはわからない。
「確かに普通じゃないついでに、口説いてもいいか?」
「何、言うとんの?」
「好き、かも知れないんだ」
「せやから、何が?」
「だから、雅善のことが」
 欠片も想像していなかった展開に、雅善は驚き目を見張った。
「頭、おかしなったんとちゃう?」
「どうかな。お前の喘ぎ声で興奮出来るんだから、確かにどっか可笑しいのかもな」
 平然と言ってのけた美里に、雅善は言葉を失って。目の前に立つ美里を、ただただ見上げ続ける。
「口説いても、いいだろ?」
 そんな雅善に、柔らかな笑みを浮かべた美里が再度尋ねた。
「あかん。て言うても、意味なさそうな顔しとるで」
「ああ、多分、意味無いだろうな」
「男に口説かれる趣味なんてあれへん」
 それは雅善の精一杯の抵抗だったかもしれない。
「俺も、男を口説く趣味は無いな」
「ワイ、男なんやけど?」
「わかってる。まぁ、お前だから特別。って、ことなんだろ」
 勝手に一人で吹っ切って、爽やかに笑って見せる美里に。
(かなわんなぁ~)
 諦めにも似た気持ちで雅善は思った。
 これ以上何を言っても、美里の気が変わるとは思えない。
「ほな、口説いたってかまわんけど。それで、ワイが落ちるわけちゃうで?」
「それでもいいさ。好きだぜ、雅善。もう一度キスしてもいだろ?」
「イ、ヤ、やっ!」
 雅善は即答したけれど、それくらいで美里が諦めないことも分かっていたし、どうやら自分が本当に嫌がっているわけではないことも、知っていた。
(ビデオ見さしてもらうだけのつもりやったのに……)
 雅善の零した小さなため息は、触れる唇の合間に溶けて消えた。

< 終 >

 
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