ビリーは軽く首を振ると、男に連れて帰る旨を告げて、懐から札束を取り出した。
「足りるか?」
「充分過ぎる程で」
男は嬉しそうな醜い笑みで答えると、小さな鍵を一つ差し出した。どうやら、ガイの首に掛かった首輪の鍵なのだろう。
案内を断ったビリーは、教えられたままにガイの居る部屋へと向かう。
部屋の鍵は掛かっていなかった。薄暗い部屋の中に差し込んだ光に、顔をあげたガイが目を細めて見せる。
「いい格好だな」
「……ビリー……?」
入り口に立つ男の姿を認めて、ガイの表情が驚きに変わる。
「何しに、来たんや。逃げ出そうとして捕まったワイを、笑いに来たんか? それとも、アンタが、ワイの最初の客になるとでもいうんやないやろな」
捕まった後何を吹き込まれたのやら、ガイはビリーが迎えに来たなどと、チラリとも考えていないらしい。
「客、な。それもいいかもしれないな」
ガイへと近寄ったビリーは、ガイの小さな顎を片手で掴むと、殴られ腫れた頬を確かめる。
「痛ッ……」
小さな悲鳴が漏れた。
「随分暴れたらしいな。バカなヤツだ」
「ビリーには、関係あれへん」
「何言ってるんだ。お前は俺のペットだと言ったろう?」
その言葉に、ガイはなんとも複雑な顔をしてみせる。
「ワイ、逃げたんやで?」
「そうだな。しかも、俺に断りなく余計な傷まで作った。帰ったら当然、罰を受けてもらおう」
「かえ、る……?」
「嫌そうだな。本気でここに残って、客でも取ってみるか?」
ビリーは薄く笑いながら告げる。当然、ガイがそれを肯定するなどカケラも思っていなかった。
「ワイは、帰らへん」
けれどきっぱりと告げられたセリフに、今度はビリーが驚きに目を見張る。
「ここで客を取るって事が、どういうことか、わかってるのか?」
「わかっとる。けど、ビリーんトコ戻るくらいやったら、力尽くでどうこうされるほうがまだマシや」
「力尽くのが、マシだって……?」
黙ったまま軽く頷く振動を、顎に当てたままの手の平に感じたビリーは、鎖に繋がれたままのガイを、冷たいコンクリートの上に敷かれた薄布の上に押し倒した。
「お前の言う力尽くがどんなものか、わからせてやるよ」
「ビリー!?」
とっさに、抗うように胸を押すガイの腕を取り、ビリーはその顔を覗きこむ。
「お前の最初の客になってやるって言ってんだ。力尽くでいいってなら、抵抗した分だけ余計に痛い思いをする覚悟をしとけ」
その言葉に、ガイは身体の力を少し抜いた。どうやら本気で、ビリーを自分の客として迎える事に決めたらしい。
そんなガイに、ビリーの胸に苦い想いが湧きあがる。ガイが謝り、帰って罰を受ける事を了承するならすぐにでも止めてやるつもりだった。こんな状況の方がまだマシだと言うほどに嫌われているとは思わなかった。
ビリーは突きつけられた現実を受け入れるために、一度だけ目を閉じる。
ビリーはガイの纏う薄い布を剥きあげると、大きく足を開かせた。小さく震えながらも、ガイは何も言わずにビリーの次の行動をただ見守っている。
いずれはゆっくりと、快楽と共に広げてやるつもりだった最奥の場所へ、ビリーは乾いた指先を押し当てる。グイと力を込めても、当然、すんなり入って行くはずがない。
「わかってるか? ここに、お前が口に含むのすら持て余す俺のアレを突っ込むんだぜ?」
痛みに身を竦ませるガイに、ビリーは冷たく言い放つ。血の気の失せた表情で、それでもガイは小さく、好きにすればいいと返した。
「本当に、強情だな。今ならまだ、謝れば許してやってもいい」
これが最後のつもりで告げたビリーに、ガイは薄く笑って見せた。
「ビリーんとこ、帰りたないねん」
「そうか。なら、仕方ないな」
溜め息を飲み込んで、代わりにガイの腰を高く抱え上げる。部屋の中を、堪え切れずに漏れるガイの悲鳴が満たした。
部屋の外には、先ほどの男が立っていた。ビリーは黙ったまま、使う事のなかった首輪の鍵を返す。
「よろしいんで?」
「本人が、ここに居たいって言うからな」
「では、先ほどのお金はお返ししなければなりませんかね?」
「いや……取って置け。随分傷つけたから、客を取れるようになるまで暫くかかるだろう」
男はニコリと笑って、わかりましたと答えた。
「では、傷が治るまで次の客は取らせないよう手配しておきましょう」
「ああ、そうしてくれ」
「今後も彼のことをお知らせしますか?」
「それは必要ない。後は、オーナーが決めることだ」
今後、ガイの世話を任されるのが誰になるかはわからないが、それがビリーでないことだけは確かだった。こうなってしまった以上、仕方がないだろう。
ビリー自身にすら、オーナーからどんな罰が下されるかわからない。ビリーは重い気持ちのまま自分の部屋へと戻って行った。
目の前のモニタには、ガイが複数の男に犯されている画像が映し出されている。部屋の様子からすると、あのままあの薄暗い部屋で客を取り続けているのだろう。
苦しそうに眉を寄せているのがわかるが、ビリーに出来るのは画面からそっと視線を外す事ぐらいだった。
「呼んだ理由は、わかってるだろう?」
「ええ」
「残念だよ。君なら、ガイを立派な奴隷に仕立ててくれると思ってたんだけどね」
「申し訳ありません」
頭を下げたビリーの目の前に、オーナーは用意していた札束を差し出した。
「なんですか?」
「君への報酬。といっても、失敗には違いないから、最初の額には届かないけどね」
「頂けません」
「なぜ? 君の欲しがってる額には足りてるハズだけど?」
ニコリと笑って見せるオーナーを、ビリーは訳がわからないままにただ見つめていた。
「あの生意気な子供が、僕の前で素直に身体を開いて見せたら楽しいだろうと思ってたけど、これはこれで、あの子らしい人生選択でもあるかなと思ってね。こんな苦しみを受けても、自分自身の心を変えられるよりはいいらしい」
「ガイが、そう言ったんですか?」
その問いに、オーナーが答えを返すことはなかった。
「君は君に与えられた仕事に対する報酬を黙って受け取ればいい。まぁ、一種の口止め料と退職金代わりとでも思ってくれればいいよ」
さよなら、かな?
そう続いた言葉に、ビリーは黙って目の前の札束に手を伸ばす。確かに、最初に提示された額よりは少ないものの、ビリーが必要としているだけの額はあるだろう。
「今まで、お世話になりました」
告げて、ビリーはオーナー室を後にした。
< 逃亡エンド >
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