サーカス2話 逃亡

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「ガイ」
 その呼び声に、ガイは無言のまま振り向いた。
「飯だ」
 ぶっきらぼうにそう告げると、ビリーはテーブルの上にガイの分のトレーを載せる。
「さっさと取りに来い」
 キツく声をかければ、渋々と行った感じで近づいて来る。
 いくら食べても食べたりないと感じる年ごろに、目の前に置かれた食事を見ているだけで我慢するほどのプライドが、ガイに残っていないことは重々承知だった。この部屋へと連れて来てから既に3日が経過しているが、ガイは水以外何も口にしていない。
 そろそろやばいかと感じないわけではなかったけれど、一度提示した条件を撤回するほど、甘い顔はしてやれない。彼が自分の運命を受け入れて諦めるのを、ビリーは待つしかなかった。
「わかってるな?」
 椅子に腰かけてガイを待っていたビリーは、目の前に立ったガイに念を押す。既に体力的にも限界だろうに、それでも褪せないキツイ瞳で睨みつけながら、ガイは頷いた。
 ビリーは満足げに口の端を持ち上げたが、何も言わずにその後のガイの行動をじっと待った。
 ガイはゆっくりと両腕を持ちあげて、ビリーの両頬へ添える。そうしてビリーの顔を固定しておいてから、意を決したように自ら唇を合わせていく。
 最初に示した手本をまねるように、拙いながらも教えられた通りに舌を差し出し、ビリーの唇を舐めあげてから口内へと進入させる。
 ビリーはうっすらと目を細めて、ガイの舌が口内を探っていくのを感じていた。物覚えは悪くないらしい。
 5分近くその行為を強いた後、満足気に少しばかり口の端を持ち上げたビリーは、口内で動く小さな舌を捕らえて優しく歯を立てた。
 瞬間、ビクリとガイの身体が震え、逃げようと動く。しかし、素早くその身体を捕まえたビリーは、離れてしまった唇をもう一度重ねて、今度は自らその口内を嬲っていく。
 ビリーの技巧に翻弄されながらも、快楽に流されまいとするガイの幼い意地が、いっそ可愛らしい。ビリーは最後に優しく唇を吸い上げてやった。
「んっ……」
 思わずこぼれ出てしまった甘い吐息に、ガイの頬が悔しさと羞恥で色づいた。
「明日は、もっとうまくやれよ」
 そんなガイの様子に気付かない振りで、ビリーはそう声をかけながら食事の載ったトレーを差し出す。
「明日……?」
 しっかりとそのトレーを握り締めながらも、ガイは訝しげに眉を寄せた。
「一度だけで許されるとでも思ってたのか? これからも自分からキスできなきゃ食事にはありつけないと思え」
「こんなことして、楽しいんか?」
「楽しいとか、楽しくないとか、そういう問題じゃない。ペットには躾が必要だろう?」
 性欲を満たすためのペットとして飼ってやるという、最初に告げられた言葉を思いだしたようで、ガイはキュッと唇を噛んだ。
 ビリーの言葉に含まれた蔑みの感情と淫猥さは感じて居ても、性のペットとして飼われるということの意味を、幼いガイはきっとはっきりと理解できていない。それでも、ビリーの要求する行為に応えて行かなければならないのだということだけは、目眩を伴う空腹感に嫌というほど理解しただろう。
「お前が俺を感じさせるほどキスが上手くなったら、やめてやるよ。まぁ、そんな渋々嫌がりながらやってたんじゃ、いつになるかわからないけどな」
 冷ややかな声で告げる言葉に、ガイの中にある屈しきれない強い意思が頭をもたげたようで、やはりビリーを睨みつけてくる。その瞳をさらりとかわして、ビリーは薄く笑った。
「いつまでその強気が続くか見物でもあるな。……ほら、さっさと食わないと、取り上げるぜ?」
 後半の台詞に、ガイは慌てて食事を口に運び始めた。
 
 
 
 
 ゲホゲホとむせるガイの、つらそうな咳が部屋の中を満たす。
「何度言わせればわかる?」
 口の端から零れ落ちる残滓を指でぬぐってガイの口の中へと戻したビリーは、冷ややかな瞳と声で告げた。
 自ら口付ける事に慣れたガイに、ビリーが次に教え込んだのは口を使った奉仕だった。最初は無理矢理に口を開けさせ捻り込み、掴んだ頭を揺さぶって、吐き出したものをとにかく飲ませることから始めたのだが、今では舌を使って相手の射精を導く程度のことは出来るようになっていた。
 ただし、食事を盾にしている分命じれば渋々と口を開くものの、キスを教えた時とは違い、自分から積極的に舌を這わす事はない。
 気持ちはわからなくもないが、次の段階へ進むためにも、さっさと慣れてもらわなければ困る。
「嫌だ嫌だと思いながらするから、いつまでたっても失敗するんだ」
 ビリーはガイの髪の毛をガシリと掴み、力任せに上向かせる。そして、荒く息をつくガイの、その瞳にしっかりと自分が写されていることを確認すると、もう片方の掌でガイの頬をはたいた。
「痛っ!」
 乾いた音と、ガイの呻き声と。
「さっさと飲み込めと教えただろう?」
 その命令のもと、ガイはキツく目を閉じて、なんとか口の中に残る粘ついた液体を飲み下す。目尻には薄く涙が浮かんでいた。
「まだ終わりじゃないぞ」
 ビリーは掴んでいた髪の毛を離す。ガイは重力に従って崩れていく身体を、ビリーの膝に縋ることで、なんとか耐えた。そして、小さく息を吸い込んで覚悟を決めると、丁寧に口を使って後始末をしていく。
「それでいい」
 ビリーの身なりをきちんと整えてから顔を上げたガイの目の前に、ビリーは食事の乗ったトレイを差し出した。
 受け取ったガイは、ビリーの目から逃れるように部屋の隅に設えた自分の寝床へと向かう。顔を合わせようとはしない。
 ビリーはつい吐き出しそうになる溜め息を、今日もグッと飲み込んだ。
 もともと好かれようなどとはカケラほども思っていなかったので、嫌われようと一向に構わないのだが、身体中から放たれる嫌悪のオーラには、さすがに時折たじろぐことがある。
 『従順な性の奴隷』に仕立て上げるには、ガイの高いプライドが邪魔をしているようだ。
 食べ物や痛みによって従わされている状態では、オーナーは納得なんてしないだろう。さっさと自分の置かれた運命の前に跪いて、何もかも諦めてしまえばいいと思いながら、そう出来ない頑なな強さがいっそすがすがしくもある。
 子供のクセに、どこでそんな強情さを身につけてきたのか。自分を拒絶するように向けられているガイの背中へ、ビリーはジッと視線を注いだ。
 
 
 
 
 ドアに鍵を差し込んだビリーは、その違和感に眉を寄せた。鍵を回しても、いつもは小さく響くカチリという音が聞こえない。
 嫌な予感を抱えながらも慌ててドアを開けば、やはり、そこに居るはずのガイの姿がなかった。
 ガイを預かった際、特別に、鍵がなければ内側からすら開かないドアを用意して貰ったので、まさか逃げ出すなどということは考えておらず、ビリーはガイを部屋の中では比較的自由にさせていた。
 どうやって抜け出したのか知らないが、甘く見すぎていたのは確かだろう。物覚えの早さからバカではないとわかっていたが、どうやら利口と評価したほうがいいのかもしれない。
「さて、どうするかな」
 ビリーは小さく吐息を洩らした。

>> 探しに行く

>> 放っておく

 

 

 

 

 

 

 
<探しに行く>

 この部屋から出る事に成功したとしても、どうせ簡単にはこのサーカスの敷地内から出られるはずがない。団員用の服を来た子供が一人でうろつくことなど皆無に等しく、見つかればすぐに呼び止められるだろう。
 逃げ出した事がわかった場合、連れて行かれる先など数えるほどしかない。ビリーは敷地の端に設えられた簡素な館へと向かった。 
「小さな子供が連れて来られなかったか?」
 生意気そうな目をした、訛りの強い言葉を話す子供だと告げれば、そこの管理を任されている男はすぐに思い当たったようだった。
 このサーカス団のスターの一人であるビリーが、その建物を尋ねること自体初めてだったし、滲む嫌悪の感情を汲み取って、随分とそっけない対応だったものがガラリと変わり、男はニヤリと卑下た笑いを見せながら急に愛想の良い口調になる。
 金蔓だと判断されたそれは、間違ってはいないだろう。いったい幾ら吹っ掛けられることになるのか思いやられて、ビリーは心なしか目の前の男を冷たく睨んでしまった。
 それでも男の言葉に従って、ビリーは建物の中へと足を踏み入れる。通された先は、どうやら応接室らしい。
「このお子さんでしょう?」
 その言葉と共にモニタ上に映し出されたのは、確かにガイだった。服は薄汚れた肌着のみにされ、首に掛けられた首輪の先は壁に繋がっている。打たれたのか、頬が赤く腫れているようだ。
「今はおとなしくしてますがね、それはもう凄い暴れようでして」
「だろうな」
「けどまぁ、顔は悪くないですね。ああいうキツイ目をした子供を好む方も居ますので」
 ビリーは嫌そうに眉を寄せた。それでも、相手の言っていることを否定する気にはならない。確かに、ここにはそういった人種も多く集まってくることだろう。
 いっそそういった人間を相手にしてみれば、ビリーの元で性のペットとして調教される方がまだマシだと思うだろうか?
 モニタに映るガイの姿を見ながら、ビリーは暫し考える。

>> 引き取る

>> 預けてみる

 

 

 

 

 

 

 

 
<放っておく>

 この部屋から出る事に成功したとしても、どうせ簡単にはこのサーカスの敷地内から出られるはずがない。団員用の服を来た子供が一人でうろつくことなど皆無に等しく、見つかればすぐに呼び止められるだろう。
 逃げ出した事がわかった場合、連れて行かれる先など数えるほどしかない。更に言うなら、事情がわかれば、結局は現在の世話役であるビリーに連絡が入るのだ。
 その読み通り、すぐにガイの所在は明らかになった。敷地の端に設えられた簡素な建物は娼館だ。
 華やかなサーカスの舞台裏にそのような場所が存在することを知る人間は少ないが、それでもそこそこに賑わっているのもまた事実。
 なぜなら、金さえ積めばたいていのことが許されるからだ。ガイのように逃げ出そうとした者などは、そういった金に物を言わす連中の相手をさせられるのが普通だったし、相当酷い扱いを受けるだろう。
 だからビリーは、オーナーからの預かりモノであることを伝え、壊さない程度に逃げ出した事を後悔させてくれと頼んだ。
 多少手酷く扱われて、今までの生活の方がマシだったと思えばいい。そうすれば、少しは素直に調教される気になるかもしれない。

>> 次へ

 

 

 

 

 

 

 
<預けてみる>

 ここに預けてみるのも一つの手かもしれない。そう考えたビリーは、ガイを引き取るためにと用意して来た金の一部を目の前の男に握らせる。
「協力して欲しいことがある」
 この男に協力を頼むのはいささか抵抗があったが、ビリーは頭の片隅でかすかに鳴り響く警鐘を無視する事にした。
「ええ、なんなりと」
 揉み手をせんばかりの勢いで、男は更に愛想のいい笑いを浮かべて見せる。
「ガイはオーナーからの預かり物なんで、あまり酷い傷を残すようなことは控えて欲しい。が、二度と逃げ出そうなんてことを思わない程度に、躾けてやってくれないか」
「それは、ココでのやり方で、という意味で?」
「そうだ」
「よろしいんですか?」
「いい。オーナーからの依頼は、従順な性の奴隷として仕立て上げろというものだからな」
「なるほど」
 合点がいったとばかりに頷く男に、ビリーはくれぐれもムチャはさせるなと念を押してから自室へと戻って行った。

>> 次へ

 
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