知り合いと恋人なパラレルワールド1

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 夜も遅い時間、無遠慮に何度もチャイムを鳴らされ、若干イライラとしながら玄関先へ向かう。
「どなたですか?」
『俺だっ』
 何だコイツと思いながら、そっとドアスコープへ顔を寄せてドアの向こうを窺えば、そこに居たのは大学で自分が所属するサークルの先輩だった。
 特に親しいわけではないし、一人暮らしをしているこの家に呼んだこともない。その人がなぜ、半ば怒りを露わにしつつもドアの向こうに立っているのかわからない。
 サークルでの彼を見る限り、連絡もなく押しかけてくるようなタイプではないと思っていたのに。
 それでも相手が先輩となれば無下に追い返すわけにも行かない。
 仕方なくドアを開けば、自分よりも頭ひとつ分ほど背の低い相手は、不機嫌に自分を見上げてくる。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「どうしただと?」
「いやあの、なんでそんな不機嫌なのか、さっぱりわからないんですが……」
「はぁあ?」
 こちらの返答は更に相手の怒りに油を注いだ様子で、相手のこめかみがピクピクと震えている。
「まぁいい、取り敢えず上がるぞ」
「え、ちょっ、」
 何勝手に上がろうとしてるんですかと言う言葉を告げる前に、先輩はこちらの体を押しのけて中に入り込んでしまう。
 いったい何が起きているのかわからない。それでも尋常ではない先輩の様子に、自分が何かやらかしたのだということだけは察知して、血の気が失せる思いだった。
「おい、何やってんだ。お前も早く来い」
 狭いキッチンを抜けて部屋の入口で振り向いた先輩が呼んだ。
「あ、は、はいっ」
 慌てて後を追えば、部屋に入った先輩は勝手知ったるとばかりに、さっさと小さなローテーブルの前に腰を下ろしている。視線で座れと促され、仕方なく先輩の対面に腰を下ろせば、先輩は自分のキーケースから鍵を一本取り出した。
「俺に無断で鍵変えたって事は、俺とは別れる、って意味だと思っていいんだな?」
「は?」
「だとしても、一言何かあってもいいんじゃないのか。今日夜に行くって連絡はしたよな。それを締め出すとか、別れの意志を示すにしたって悪意がありすぎだろう。別れたいなら、まずは自分の口でそう言えよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。さっきから何言ってるか、俺にはさっぱりわからないんですけど」
「わからない、だと?」
「ひぃっ」
 腹の底から響くような声は明らかに怒気を孕んでいて、つり上がった眉と鋭い視線が心底怖い。
「俺を揶揄ってるならいい加減にしろよ」
「揶揄ってなんかない、です」
「自分から誘って俺をその気にさせて、それで俺が本気になったらこの仕打だろ。揶揄ってないならなんなんだ。俺を翻弄して楽しいか?」
「いやいやいや。俺が誘うって何をですか。何に本気になったんですか。てかさっき別れるとかどうとか言ってましたけど、そもそも俺らにサークルの先輩後輩以外の関係って何もないですよね。先輩ウチくるの初めてじゃないですか。その鍵なんですか。俺は鍵変えてなんかないですよ」
 先輩が口を挟めない勢いでべらべらと言い募った。だって本当に何を言われているかわからない。
「は? 何とぼけたこと言ってんだ。俺たち半年前から付き合ってただろ。俺は何度もこの部屋に来てるし、この合鍵は一昨日までは確かにこの家の鍵だった」
「ないないないです。なんすかそれ。付き合うって、俺たち男同士じゃないですか」
「お前がそれを言うのかよ」
「言いますよ。そりゃ言いますって。人生初の恋人が男とか勘弁して下さいよ」
「何言ってんだお前。恋人だったかは知らないが、高校時代からいろんな男に抱かれまくってたくせに」
「はあああ? なんすかそれどこ情報ですか。ないですないですありえないっ」
「お前がそう言ったんだろ。そう言って、俺に抱いてくれって迫ったんじゃねーかよ」
「何なんですかその妄想っ!」
 もしかして自分が知らなかっただけで、かなり危ない人だったのだろうか。この人の頭は大丈夫なのかと危ぶむ中、先輩は更に恐ろしいことを口にする。
「妄想じゃねーよ。俺はお前を何度も抱いてる」
「いやいやいや。俺は先輩にも先輩以外の男にも、抱かれた経験なんて一度たりともないですからっ」
「太もも」
「は?」
「太ももに3つ並んだホクロあるだろ。後、へその真下にも」
 確かにある。しかもどちらも下着に隠れるような際どい位置だ。いや、たとえ温泉やら銭湯やらに一緒に行ったとしても、言わなければ気づかないだろう位置にそれらのホクロはある。
「なんで知って……」
「見たからに決まってんだろ」
「いつ、ですか?」
「んなのセックスの時以外ねーだろが。あんな際どい場所のホクロ、それ以外にどう気づけってんだよ」
 口ぶりから、確かに知っているのだろうと思った。思ったがまるで納得行かない。
 そんな中、先輩の携帯がメールの着信を告げて小さく震えた。それを確認する先輩の眉間に深くシワが刻まれていく。
「おい。お前のメールアドレスってこれとは別か?」
 見せられた携帯の画面はアドレス帳で、そこには自分の名前と電話番号とメールアドレスと、ご丁寧に誕生日やら好物やらまでメモされていた。
 なにこれ怖い。
 自分の携帯にはもちろん先輩のアドレスなど登録されていないし、教えた記憶も一切ない。
「おい、どうした?」
「なんで、俺のアドレスが登録されてるんですか?」
「お前と恋人関係だったからだが、正直、ちょっと俺も良くわからない」
「は?」
「今、お前からメールが来た」
「出してませんよ」
「んなの目の前にいりゃわかってる。でも、お前からメールが届いたんだ」
「それ、なんて書いてあったんですか?」
「待ってるから早く来て、だとよ」
「意味わかりません」
「俺にだってわかんねぇよ」
 不可解過ぎる現象に、先輩の怒りの勢いもどうやら削がれたようだった。
「あの、ちょっと話を一度整理してみませんか?」
「あー……そうだな。お互い言い分が違いすぎるみたいだし」
「じゃあ、取り敢えずお茶いれます。お互い少し落ち着きましょう」
「だな。よろしく頼む」
 応じる様子を見せた先輩にひとまず安堵して、隣の小さなキッチンに移動する。
 湯が沸くのを待ちながら、今日は長い夜になりそうだと思った。

続きました→

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