体の痛みは、自分へ与えられる罰だ。
想いを隠してでも、友達のままでいたいと願っていた彼の目を、
抗えないように幾重にも罠を張って、快楽に弱い部分を引きずり出して、
むりやり自分へ向けさせた罰。
いつも、困ったような、怒っているような、そんな表情で自分を抱く美里の瞳は、稽古の時に見せる獣の目に似ている。
交わす言葉なんて、ない。自分の悲鳴を殺して、少しでも多く、相手の息を聞き取ろうと耳をすます。
行為への嫌悪を滲ませながら、それでも高みへと駆け登っていく美里の、昇り詰める瞬間にもらす吐息が、好きだ。だから、その瞬間だけは薄く目を開いて、見つめる。
汗に濡れて湿った髪が、張り付く額。
眉間に刻まれる皺の深さは、そのまま快楽の大きさを示すようで。
閉じられた瞳の奥、そこに映るのが自分だったらいいのにと願いながら。
薄く開いた唇からこぼれる甘やかな吐息に、「好き」の幻聴を聞く。
額に落ちる髪を掻き上げて、その頭を自分の胸に引き寄せて抱きしめたいという衝動は、胸の奥へ押し込める。自分から触れることは、許されていない。
受け入れることに少しの余裕が持てるようになってから、一度だけ腕を伸ばしたことがあったけれど、その髪に触れるよりも先に、驚いたように身を引かれてしまったからだ。だから2度目は恐くて伸ばせない。
感じられるんやから、ええやんか。
都合のええ性欲処理の相手とでも思っとき。
そう言って、誘った。
既に体の中の熱を持て余しているのを知っていて。
そんなものは望んでいないと、それでも嫌がる相手に顔を寄せて。
それとも、ワイが、襲ってもええ?
その一言は意外なほど良く効いた。
他の選択肢を奪って、
追いつめて、
怒らせて、
そうして、手にした関係が、コレ。
「余韻も何も、あったもんやないな」
行為の後の甘い時間なんて、ある訳もない。息を整えるためのわずかな時間の後、あっさり離れていく熱が名残惜しい。だから、からかいを混ぜることでごまかす本音。
「当たり前だ。ここがどこかわかってないんじゃないのか?」
「わかっとるに、決まっとるやろ」
暗幕の張られた薄ぐらい空間。滅多に使われる事のない視聴覚室の鍵を、職員室の鍵棚からこっそり持ち出してきたのは当然自分。
抱きあう場所なんて、選ぶ余裕がない。隙を見つけて、色々な場所へ引きずり込んだ。最初はいつも躊躇う相手の、熱を煽って体を繋ぐ。自分の快楽なんて初めから期待していないから、とにかく美里が感じられるようにと、それだけ。
不安で、仕方がない。
むりやり関係を持ってから、熱い視線が注がれることはなくなった。しかし、焦らされることが無くなっても、素直になんて喜べなかった。自分を抱く時の美里の目にあの熱さはない。
あの視線の意味を取り違えたなんて、思ってないけど。
(体の熱を引き出すのは簡単なんやけどな……)
脅迫めいた関係に、美里の中の想いも何もかもを壊してしまったのだろうかという不安を、抱かれることで消そうとしている。
(なんとも思ってへん相手に、欲情したりせぇへんやろ?)
そう自分に言い聞かせる反面。
(ホンマに性欲処理の相手として割り切っとったら……?)
自分が言った言葉に、囚われてもいる。
「疲れてるんじゃないのか?」
思わず零した溜め息を聞き取ったのか、訝しげに尋ねられた。
「かも、知れへんな」
確かに、慣れてきたとはいえ、抱かれることで体に負担がかかっているのは事実だった。
「……だったら、こんな所でまで、誘わなきゃいいだろう」
「ええやんか。ワイが、抱かれたい言うとんのや。美里かて、ちゃんとイイ思いしとるやろ」
「…………」
困ったような、嫌そうな顔。
「先、戻っとってや。ワイは、ここで少し休憩してから、戻る」
「……わかった」
部屋を出て行く背中が、少しだけぼやけて見えた。
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