今更嫌いになれないこと知ってるくせに2

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 食事は外食や弁当類に頼りっきりだと話したら、甥っ子は張り切って自分が作ると言った。飲み物と調味料程度しか入ってない小さな冷蔵庫と、一口コンロの小さなキッチンで、高校生男子に何が出来るというのか。しかし、いいから何も買わずに帰って来いと言われて帰宅すれば、小さなテーブルの上に所狭しと料理の皿が並んでいる。
 調理器具すらたいしたものは揃っていなかったはずなので、結局スーパーで買った惣菜を皿に出しただけだろうと思った。しかし口に入れて違うことに気づく。
「あっ、これ……」
「わかった? ばーちゃんの味。っつーかにーちゃん的にはオフクロの味? みたいな」
 そこですんなりそんな言葉が出てくるあたり、間違いなくこれは実家の味付けなんだと確信した。しかし意味がわからない。
「え、何お前、母さんに料理教わってんの?」
「色々とあって、簡単に作れそうなものだけ幾つか習った」
「色々ってなんだよ。しかもなんで母さんに」
「だってばーちゃんの味とうちの母さんの味って違うんだもん。にーちゃんに振る舞うこと考えたらばーちゃんに習わないと意味無いじゃん」
 どうよ懐かしい? なんて言いながらのドヤ顔に、嬉しいとか懐かしいとかではなく不信感が湧いた。親と喧嘩した衝動で家出してきたはずではないのか。
 眉間に力が入ったらしく、対面に座る甥は若干不安そうな顔になった。
「美味しくない?」
「そうじゃない。あざとい真似しやがってとは思うけど、確かに懐かしいし美味いよ。ただお前さ、ここ来たのって、まさか計画的?」
「あー……」
 しまったという顔をするから図星なんだろう。
「親と喧嘩して飛び出して、行くとこなくてここ来た、ってわけじゃないんだな?」
「進路で揉めてるのは本当。でも衝動で飛び出てきたわけじゃない。最初っから、夏休み入ったらここ押しかける気で計画立てたよ。計画って言っても、主に金銭的なものだけど」
 往復の交通費とある程度の食費は用意したけど、フライパンと鍋から買わなきゃならなかったのはちょっと予定外だったと言って、甥っ子はすねたように唇を尖らせる。
「ああ、食費……とフライパンと鍋な。金は後で渡すよ」
「やった。そう言ってくれると思ってた」
 うひひと笑う顔は、図体ばっかり大きくなっても、まだまだ子供っぽいあどけなさが残っていると思う。大学受験を控えた高校生相手に感じていい感情なのかは微妙かなと思わないでもないけれど、かなりホッとしたのも事実だった。
 自分が知る甥っ子は小学生の頃までが大半で、後は逃げきれなくて仕方なく実家に戻った際に顔を合わせた記憶しかないのだ。成長して突然やってきた現在の甥っ子は、記憶の中の甥っ子よりも記憶の中の義兄に近い。
 なるべくかつての関係を思い出すようにして接しているし、甥っ子自身が離れていた時間を感じさせない慣れ親しんだ態度を見せるおかげで、なんとか普通っぽい態度がとれているだけでしかない。実際の所は、ふとした瞬間に甥っ子相手にドキドキしっぱなしで、慌てて実家を離れた自分の大学受験期以上にヤバイ気配が濃厚だった。
 正直さっさと帰って欲しくてたまらない。距離をおいて心の奥底に封じ込めた、義兄への想いを刺激しないで欲しかった。
「つかその計画では何日ここ泊まる予定なんだよ。昨日泊まってわかったと思うけど、長期滞在なんて絶対無理だからな?」
「それはにーちゃん次第かな。答えが出るまでは帰らない」
「なんで俺次第なんだ。お前が出すのは自分の進路の答えだろ」
「まぁそうなんだけどさ」
 フッと黙り込んでうつむく顔の大人びた様子に、ああやっぱりこれは早々に追い出さないとかなりマズイと思って、否応なく高鳴る心臓に内心で舌打ちした。

続きました→

あなたは『「今更嫌いになれないこと知ってるくせに」って泣き崩れる』誰かを幸せにしてあげてください。
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