今更嫌いになれないこと知ってるくせに3

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 義兄に抱かれる夢を見た。正確には、キスをされて頭を撫でられて可愛いと言われて愛撫を受ける程度の、抱かれるとまではいかない夢だったけれど、そんな夢を見てしまった衝撃と居たたまれなさは絶大で、泣きたいくらいに最悪の目覚めだった。
 夢を見た原因なんてわかりきっている。一昨日、とうとう滞在2週間目に突入した甥っ子のせいだ。ワンルームの小さな部屋で、在宅中はずっと甥っ子と一緒、なんて生活を続けているからだ。
 このままでは色々マズイと思いながらも、結局、追い出せずにずるずると居座られ続けている。その結果がこれだった。
 相手は自分が仕事に出かけている間は自由に過ごしているのに、自分の方は仕事にしろ家の中にしろ四六時中他人の気配がある。そんな中で日々溜まるのはストレスだけじゃなかった。もっと端的にいうと、自己処理ができていない。要するに抜いていない。
 さすがにこの年齢になって夢精とはならなかったが、夢のせいもあって、朝っぱらからベッドの中で悶々としてしまう。しかも、体の熱を持て余して吐き出す息が、なんだかそれだけでもイヤラシく響く気がして、隠すように枕に顔を埋めてみたら普段とは違う匂いを感じてしまい、余計に体の熱が上がってしまった。
 狭いシングルベッドに甥っ子と二人で寝るなんて真似は絶対にお断りだったが、夜間あまりしっかり眠れていないだろう甥っ子に、昼間ベッドを使うことを勧めたのは自分だ。普段と違う香りは、すなわち甥っ子の匂いだった。だからこれは自業自得なんだとわかっているが、ますます泣きたい気持ちになった。
 ああ、どうしよう……
 今日も仕事があるのだから、早いとこ収まって貰わないと困る。なのに焦れば焦るほど、今もベッドのすぐ隣の床に冬物の厚手の掛け布団を敷いて、その上で寝ている甥っ子の存在を意識してしまう。
 時計の確認もしていないが、甥っ子がぐっすり寝ているのなら、こっそりトイレで処理してくるというのもありだろうか?
 しかしこちらが動いたら、甥っ子はあっさり目を覚ます可能性が高い。これは実際、夜中トイレに起きた時の実体験からも明白だ。いくら厚手の掛け布団の上とはいえ、やはり眠りが浅いんだろう。
 昼間ベッドで足りない分の睡眠を補っているにしろ、夜間しっかり眠れない生活を続けさせるのも気にかかってはいた。しかもなんだかんだ朝と晩は二人分の食事を用意してくれてもいる。
 朝食は簡易なものだが、それでも自分が起きだす1時間前には携帯のアラームをセットして、朝食を作り始めることを知っている。あの小さなキッチンで、どれだけの時間を使って夕飯を作っているのかは知らないが、大学に行く気で居る受験生の夏休みの過ごし方として、これは明らかにオカシイだろう。
 こちらのやましい事情は別にしたって、ここに居続けるべきではない理由なんて次々と湧いて出てくるのに、当の本人は未だその気がまるでないようだ。そして、結局それを許しているのが自分なのだともわかっていた。
 そうだ。本気で追い返せないのは、なんだかんだ彼の居る生活を楽しんでいるからだ。彼の作ってくれる食事も、何気ないやりとりも、懐かしいとか子供の成長が嬉しいとかではなく、なんというかとにかく新鮮だった。
 その成長過程を共に過ごさなかったせいか、口調や態度には極力出さないよう注意しているものの、弟のように愛していたかつての甥っ子とは、やはりまったく別人として感じている。
 頭のなかではあの甥っ子が成長した姿なのだとわかっているつもりだが、それでもここ数年決まった恋人もいない身としては、初恋とも言える相手にそっくりな外見の男が、ほぼ無条件に好意全開で接してくれるこの生活が魅力的でないわけがなかった。
 年下の甥っ子相手に強く出れない理由に、やはり義兄そっくりに育ってきている甥っ子への下心も混ざっているのかと思うと、なんともやる瀬ない。
 はああと深い溜息を枕の中に吐き出せば、控えめな音で甥っ子の携帯が鳴り出した。
 その音はすぐに止まり、甥っ子が起きだす気配を背中に感じる。うつ伏せて枕に顔を埋めた状態のまま、思わず息を潜めてその気配を追いかけた。
 んんーと音になるかならないかの息を吐きながら伸びをして、それからどうやらベッドの端に手をかける。そのままぐっと近づく気配に体を固くしていたら、さらりと頭を撫でられた。
「にーちゃん、おはよ」
 そっと掛けられる挨拶の声は、寝起きのせいか少し掠れていて、なのに酷く甘ったるい。しかも彼が立ち上がる直前、近すぎる気配とともに頭の上で響いた小さな音は、まるでキスのリップ音のようだった。
「さて、朝飯作るか」
 やがて呟くような独り言を残して、部屋の中から彼の気配が消える。
 居室と狭いキッチンとを隔てるドアが閉められる音を聞くとともに、詰めていた息を大きく吐き出した。頭のなかは混乱でいっぱいだった。
 控えめとはいえ携帯のアラームが鳴るせいで、なんとなく意識が浮上してしまう朝は多いけれど、覚えがある中ではこんな真似をされるのは初めてだった。深く寝入っていると判断されたのか、それとも、体の熱を持て余して悶々としている現状を知られて揶揄われたのか。
 前者でも後者でも意味がわからないことには代わりがなく、今現在明確なのは、キスされた気になって昂ぶる自分自身の浅ましさだけだ。
 彼が作り終えた朝食をこちらの部屋に運び始めるまで、短く見積もっても30分以上はあるだろう。
 本当に最悪の朝だと内心毒づきながら、昂ぶる自身へそっと手をのばした。

続きました→

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