今更嫌いになれないこと知ってるくせに4

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 目を閉じて思い浮かべるのは義兄なのか甥なのか。正直良くわからない。それくらい、記憶の中のまだ姉の恋人だった頃の義兄と、しばらく見ないうちにでっかく成長した甥っ子の外見は似ている。外見が似ているからか、多分声の質も近かった。
 先程聞いた、掠れて甘い声音を思い出すだけでゾクリとする。
 もちろん義兄のそんな声を聞いたことはないけれど、頭の中ではあれも義兄の声になる。
 頭のなかで自分に触れる手を、甥っ子と認識したくない心理が働いているのは認める。
 自分より10も年下の、弟のような存在のはずの彼までを、そういう対象で見てはいけないという強い思いがある。さらに今現在、薄いドアを挟んだ向こうのキッチンで甥っ子が朝食を作っているのだ。そんな相手を自慰の対象にする罪悪感は大きすぎた。
 だからなおさら、義兄のことを強く思い浮かべる。必死に声を噛み殺しながら、心のなかで何度も義兄を呼んだ。
 義兄相手の自慰行為はもちろん初めてではない。しかし、久々にその感覚を思い出すと同時に、スッと心が冷えていく気がする。なぜなら、そこには苦々しい記憶しかないからだ。なんせ相手は、その想いに気づくずっと前から姉の旦那だ。
 優しくて、物知りで、頼もしくて、こんな兄さんが居たらいいのにと思っていたら、姉と結婚して本当の兄になってしまった。最初はただただ嬉しかったのに、優しいのも、色々教えてくれるのも、困った時に助けてくれるのも、全部、自分が彼の妻である姉の弟だからなのだと、気づいてしまったのはいつ頃だっただろうか。
 姉と付き合ってなければ知り合うこともなく、そのまま姉と結婚しなければ自分との縁も一切残らず切れてしまうだろう相手。10も年が違っていたら、そもそも友人として知り合うような機会はなく、姉を介さず友情を育むような関係にももちろん発展しない。結局自分は、姉と結婚したら付いてきただけの付属品だ。そう自覚した時の絶望感を忘れられない。
 義兄なんて好きなっても、いいことなんてひとつもない。ずっと苦しいばっかりだった。
 実家から逃げた後、大学では女性とも男性とも、機会があれば取り敢えず付き合ってみた。中にはそれなりに楽しく過ごせた相手もいる。自慰の相手に義兄を思い浮かべるなんて真似は、とっくの昔に卒業していた。
 けれど未だになかなか実家に顔を出せないくらいには、義兄に心囚われたままなのだと思う。仕方なく実家に帰る事があっても、極力顔を合わさず逃げまわっているから、実は実家を出た後、義兄と会話を交わしたのは数回しかない。
 相手だって年をとって、今ではアラフォーのおじさんになっているはずだから、きちんと向き合ってみたら意外と平気になってたりするのかも知れないが、もしそうならなかった場合を考えたら怖すぎた。欠片も想いを告げることなく、無理矢理に押し込め隠した気持ちは厄介だ。せっかく日々を穏やかに過ごせているのだから、間違って再燃なんてされたらたまらない。
 そう思っていたはずなのに、迂闊にも程がある。すぐに甥っ子を追い返せなかった自業自得を自覚してはいるが、甥っ子との生活を楽しんでいる場合じゃなかった。
 義兄を想って自慰をする羽目になって、余計なことを色々と思い出してしまった。
 体の熱は自ら与える刺激に高まっているのに、抑えきれない胸の奥の苦しさに、涙がボロリとこぼれ落ちて行く。

続きました→

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