今更嫌いになれないこと知ってるくせに1

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 10ほど年の離れた姉が二十歳に産んだ子供は、年の離れた弟のような気がしていた。だって自分と姉の年の差と同じだったから。
 家が近かったのもあって、精一杯アニキ風を吹かせながら、確かにその甥っ子をめちゃくちゃ愛してきた自覚はある。小さな頃は本当に見た目も仕草もなにもかもが可愛かった。
 これはまずいと気づいたのは自分が高校生の頃で、大学受験などを理由に彼との距離をいっきに離した上、そのまま遠方の大学に進学して逃げてしまったが、正直に言えば彼には一切落ち度はない。もっと正直に言うなら、逃げたのは彼からではなかった。彼の父親である義兄から逃げたのだ。
 義兄を恋愛的な意味で好きなのだと気づいてしまったら、甥っ子は甥であるより先に、好きな人の息子になってしまった。まだ小学生の無邪気な彼の中にまで、義兄の面影を見てしまうなんて重症すぎる。
 義兄には手が出せなくても、懐いてくれる甥っ子になら簡単に触れられる。それどころか向こうから抱きついてくる事だってある。そんな事でグラグラと理性が揺れる自分が心底怖かった。
 就職ももちろん、大学ほどではないが実家からそこそこ離れた場所に決めたし、在学中も卒業後もなるべく帰省はしていない。なのにある日いきなり、自宅に甥っ子が押しかけてきた。
 心臓が止まりかけるほど驚いたのは、成長した甥っ子の姿が、もう随分と昔、姉の恋人として初めて出会った頃の義兄にそっくりだったからだ。玄関扉を開けたまま硬直していたら、しばらく泊めてとぶっきらぼうに吐き捨てた後、いささか強引に自宅にあがり込まれてしまった。
 勝手に奥の部屋へと向かう背中を慌てて追いかける。
「えっ、ちょっ、待てよ。なんでいきなり? 学校は? いやそれより姉さんは知ってんの?」
 気まずそうに黙ったままなので、これはもしかしなくても家出だろうか?
「黙って出てきたのか?」
 やはり沈黙で返されて溜息を吐き出した。
「自分で言えないなら俺が電話するぞ」
「しばらく泊めるから心配しないで、って言ってくれる?」
「言うわけ無いだろ。明日追い返すって言うよ」
「学校なら昨日から夏休み入ったよ。だからしばらく泊めてよ」
「お前が夏休みでも俺は普通に仕事あるの。子供の面倒見てる余裕なんてねーの。ついでに言うなら、大人顔負けに育った子供の寝るスペースもねーよ」
「にーちゃん、お願い」
 にーちゃんと呼ばれてグッと言葉に詰まる。そう呼ばせて喜んでいたのは幼いころの自分だからだ。そしてやはりそう呼ばれると、心の奥が疼いてしまう。きっと自分の中のどこかに、彼の兄を本気でやっていた頃の思い出が染み付いている。
「俺はお前の叔父であって兄貴じゃない」
「わかってるよ。でも俺が本当に困ったときは、助けてくれるんじゃなかったの?」
 本当の兄じゃなくても兄代わりで、血だって繋がった叔父なのだから、困ったときは何でも言え。なんてことを言ったのもやはり随分と昔のことだけれど、何度も繰り返したせいで、もちろん自分も忘れてはいない。
「黙って家を出てくるような悪い子に、無条件で味方するわけ無いだろ」
 甥っ子は少しだけ考えた後、進路で喧嘩してるのだと口にした。どうやらそれが家出の原因、ということらしい。
「でも責任の一端はにーちゃんにもあるんだからな」
「なんで俺?」
「大学入ったら全然こっち帰ってこなくなったじゃん。大学はもう少し遠かったけど、今は片道2時間くらいでそこまで遠くもないのにさ。俺までそうなったら嫌だから自宅から通えるとこに進学しろってうるさい」
「それで俺んとこ逃げ込まれたら、俺がますます姉さんに恨まれるだろ。てかそれ言ってんのお前の母さんでいいんだよな? 父親はなんて言ってんだよ」
「父さんも出来れば自宅から通えるところにと思ってるっぽいけど、理由は仕送り関係がでかいっぽいから、奨学金借りてバイトしてやりくりするって覚悟見せたら多分そこまで反対しない」
「いやいやいや。奨学金って借金だからな? なくて済むならない方が絶対いいぞ」
「それでも譲れないことがあんの」
「それって何? どうしてもそこじゃなきゃ学べない大学とかあるなら、姉さんだって納得するんじゃないか? ちゃんと話しあったのか?」
「それも含めてちょっと考えたいことあるからしばらく泊めて。答えが出たら帰るから」
 夏だしその辺の床で寝るんで構わないからとまで言われてしまったら、もともと甘やかしまくってた愛しい甥っ子をムリヤリ追い返せはしない。
 結局、しばらく泊めるから心配いらないという電話を姉に入れる羽目になった。

続きました→

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