今更嫌いになれないこと知ってるくせに8

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 約束の週末は土曜日だと思っていたが、甥っ子が話を聞いて欲しいと切り出してきたのは、金曜夜の夕飯を終える直前だった。
「え、今?」
「うん、今。てかここ片付けたら」
 要するに、明日が休みなのをいいことに、この後もツマミを追加してだらだらと酒を飲む、という金曜夜のお楽しみは無しにしろ、という事なんだろう。
 それを嫌だと突っぱねるほど、このまま飲み続けたい欲求はないが、しかし既にそこそこ飲んでもいる。こんな状態で話すよりも、明日の方が良い気はした。
「明日、のが良くないか?」
「今がいい」
「俺もうけっこう飲んだし、酔ってないとは言えないぞ」
「だからだよ」
「だから?」
「ちょっとくらい酔ってるほうがいいかなって」
「酔ってたってお前の滞在延長は許可しないからな」
「わかってるよ。したいのはそういう話じゃない」
 じゃあどんな話だと言ったら、片付けてからねと言って立ち上がる。
 一体どんな話をしたいのか。甥っ子の反応から、多分進学相談ではないんだろうなと思う。だとしたら彼の言う大事な話は、きっと自分が主に関係している。
 ここに来たのも計画的だというし、最初っからオフクロの味だのを振る舞われた事を考えると、もっと頻繁に帰省しろとか、そういう話なのだろうか。仕事が忙しいという断り文句を覚えてからは、親も姉もあまり帰って来いとは言わなくなったが、自分が帰らないことで何か問題でも起きているのだろうか。
 それにしたって、親や姉ではなく受験生の甥っ子が、わざわざ夏休みを待って押しかけてくる意味はやはりわからない。
 顔はテレビに向けつつも、つらつらとそんな事を考えながらでは、テレビの内容など殆ど頭に入ってこない。そうこうしているうちに、片付けを終えたらしい甥っ子が、新しいビールの缶とマグカップを手に戻ってきた。
「ツマミ、何食べる?」
 ビールの缶をテーブルのこちら側に、マグカップを自分側へと置きながら、甥っ子は更に続ける。
「柿ピーとかチータラとか、あ、何か缶詰でも開ける? 他は……何かあったかな」
 出せるツマミの種類をあげられても、呆気にとられるばかりだ。
「どうかした?」
「どうかしたじゃない。話をしたいんじゃないのか?」
「するけど。でも金曜の夜だし、もうちょっと飲むんじゃないの?」
「いやいや、だってお前、真面目な話がしたいんだよな? これ以上酔わせてどうすんだよ」
「どうする……って、まぁ、酔った上での過ち狙い、とか?」
「はぁ?」
 わけのわからなさに、聞き返す声のトーンが明らかに上がってしまった。
「にーちゃん、男と経験あるよね?」
 もちろんあるので否定は出来ないが、けれどそれを肯定して良いのかはわからない。結果、返す言葉が見つからずに口を閉ざした。
「俺と寝て欲しいんだけど、って言ったらどーする?」
 まだツマミを運ぶ気でいるのか、立ったままの甥っ子に真剣な顔で見下ろされる。その目から逃げるように、そっと視線を外しながら俯いた。
「バカなこと、言うなよ」
 絞りだす声は、緊張と動揺からか少し掠れている。
「それって俺と血がつながってるから? それとも俺が父さんに似てるから?」
「どっちも、だ」
「だからさ、もっと飲んで酔っ払って、そういうのちょっと脇に置いて、一夜の過ち的に俺と寝てくれないかな~っていう下心?」
 へへっと笑う気配に、頭に血が上った。
 どこまで本気で言っているのか、それとも単に揶揄われたのか。
「それがお前の大事な話? あんまりフザケたこと言ってんなよ」
 顔を上げて睨みつければ、ふざけた笑い顔とは程遠い、辛そうな苦笑いとかち合った。
「別にふざけてないし、大事な話のキモはそれなんだけどね。お酒飲まないなら、にーちゃんの分もコーヒー入れてくるよ」
 テーブルに置いた缶を再度持ち上げて、甥っ子はキッチンへ消えていく。
 テレビから聞こえるガヤの笑い声がずいぶんと耳障りだ。放置されていたリモコンを引き寄せて、イライラしながらテレビの電源を落とす。
 リモコンに触れる指が微かに震えている事に気づいて、なんだか無性に笑いたくなった。

続きました→

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