シャワーを浴びて戻れば、先程と同じ場所で真剣に携帯を見つめていた相手が顔を上げてお帰りと言い、それから再度チラリと携帯に視線を落とし、もう一度顔を上げる。
「結構ゆっくりだったけど、もしかして、中洗うみたいなこと、してきた?」
一度携帯に視線を落としたのは、どうやら時間を確認していたらしい。
「あー、まぁ、はい」
「それは男に抱かれた経験がある、って思ってて大丈夫?」
「……はい」
一瞬ためらってしまったが、今更かと肯定を返した。
それなりの回数デートを繰り返したが、過去の交際について聞かれたことがない。まぁこちらもどんな相手とどんな交際をしていたかなんて聞かなかったから、それを自分に興味が無いせいでと言い切るつもりはないけれど。ただ、聞いてくれていたら、いきなりラブホに連れ込む前に、さっきみたいな話し合いの時間が取れたかもと思うだけで。
「わかった。じゃあ俺もちょっとシャワー浴びてくるね」
この状況で未経験だって方が驚きだろうとは思うが、相手はあっさりわかったと言い放って席を立ち、真っ直ぐに今自分が出てきたばかりのバスルームへ向かっていく。
その背が見えなくなってから、テーブルの上に放置されたままの携帯に手を伸ばした。持ち上げしばし逡巡した後、結局黒い画面を見つめただけで元に戻してため息を一つ。何を見ていたのか覗いてみたい気持ちはあるが、どうせロックが掛けられているに決まっている。
気持ちを切り替え、持ち込んだ荷物の中からローションボトルとコンドームの箱を取り出し、ベッドの上に放り投げた。乱雑な扱いにポフンと跳ねるそれらを見ながら、気持ちなんてそう簡単に切り替わらないよなと苦笑する。拒否られると思っていたのも大きいが、自分から抱いて欲しいと望んだくせに、気持ちよくなれれば満足だと言ったくせに、気持ちが酷くささくれだっている。
相手はまだこの交際を続ける気で居て、自分の方こそやめる気になっていたけれど、ここを出る頃には相手も終わる気になっていそうだと思う。きっと楽しくて仕方がないなんて顔は見せられないし、そうしたら振られるのは自分の方だ。
はぁあ、とまたしても溢れる盛大なため息に苦笑しながらベッドに上がって、転がしたゴムの箱とローションボトルを引き寄せる。彼が戻ってくるまでに、少しでも慣らして拡げておこうと思った。
バスルームから戻ってくる相手の目の中にすぐに映るよう、足を広げて指を突っ込んだ局部を晒して待つような真似をしてみるか迷ったものの、そこまで自棄にならなくてもいいだろと自嘲して、なるべく何をしているかすぐにはわからないだろう位置と体位でそっと準備を開始する。
「お待たせ。ってどうしたの?」
戻ってきた相手が訝しむ声に、ベッドの上で身を固くしてしまう。相手からは、横向きで丸くなった背中しか見えていないはずで、備え付けのバスローブの下、足の間に挟んだ手の指がアナルに埋まっているなんてまず思わないだろう。と思っていたのに。
「ああ、準備してるのか」
近づいてくる気配と笑われたらしい気配に、ますます身を固くするしか無い。その気配はどんどんと近づいて、すぐにベッドマットが相手の体重を受け止め小さく揺れる。
「ずっと黙ったままだね。緊張してる?」
「はい……」
すぐ背後に相手の気配を感じながら、どうにか声を絞り出す。
「いつもこの体勢で慣らすの? 自分で慣らすほうが安心? 俺は手を出さないほうがいい?」
「あ、いえ、あの」
「これ、捲ってもいい?」
「ま、だめっ、あのっ、あのっ」
相手の手がバスローブの裾に触れたのがわかって、ビクッと体を跳ねてしまう。とっさにダメだと口に出したものの、何を言っていいのかわからなくて、気持ちばかり焦っていく。
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