人生を楽しんいでるところを見せて欲しい、という理由で相手はこの関係を続けているのだから、泣き顔なんか見せちゃいけないのに。がっかりさせるし、絶対に鬱陶しいし、しかも泣いてる理由も酷い。酔った勢いで始めた遊びという認識をしている相手に、抱かれたいくらい本気で好きだってバレたせいで泣いてるだなんて、絶対ドン引き案件だろうと思う。
ゴメンネの意味だって、泣いてしまった事への憐憫でゴメンなのか、無神経なことを聞いてゴメンなのか、こちらの想いに気づかなくてゴメンなのか、気持ちよけりゃいいって遊びなセックスならともかく本気で好きって言ってる男を抱くのはやっぱ無理だよのゴメンなのか、もうこんな関係は解消しようねのゴメンなのか、深読みしようと思えばいくらだって悲観材料になってしまって、泣いたらダメだと思うのに、ダメだと思うほどに涙はどんどん溢れていく。
だってもう、どうにも取り繕う方法がわからない。期待はずれだったと振られてしまう未来しか見えない。
「あー、どうしよう。こんなに泣かせるとは思ってなかった」
背後の彼がオロオロと惑う気配に、申し訳無さがこみ上げる。
「ごめ、なさっ」
声を詰まらせ、何度もみっともなくしゃくりあげながら、なんとか言葉を絞り出す。
「いやいや、悪いの俺の方だから。というか、無神経な聞き方して、本当にゴメン。君の気持ち、全く気づいてなかったのも、ゴメンね。落ち着いたら、もう一度、ゆっくり話をしよう」
優しい声音だったけれど、改めてじっくり話し合うのなんて怖いとしか感じなかった。だって別れ話になる予感しか無い。
「あ゛の、俺とするの、も゛っ、むり、ですか」
色々バレてしまった上に泣いてしまったし、義務感からでさえ、抱くのは無理と思われているかも知れない。もう付き合えないと思っているなら、恋人だから応じる、という理由もなくなっているだろう。
「もう無理、とは思ってないけど、さすがに今すぐは……」
戸惑いの色が濃い声で返されたけれど、はっきりと肯定されたわけではなかったから、なりふり構っていられなかった。
「話、より、してほしっ、です。せめて、チャレンジだけでも」
もし勃つなら思い出を貰って終われるし、勃たなければ諦めもつけやすい。
「するのが嫌とかじゃないんだよ。でも、ここでわかったって言ってしちゃったら、君、俺のことふるでしょ? これ、恋人もうやめますって意味での、最後に一度だけってお誘いだろ?」
「きづい、てた、んですか」
「正しくは、途中で気づいた、だね」
「恋人、やめる前に、してもらえるなら、したい、です。一回だけでいい、から」
縋るような気持ちでの訴えに、相手も迷ってはくれたようだけれど、それでも結局、わかったという了承は返らなかった。
「どうしても今日中に別れたい?」
「えっ?」
「俺としては、色々とお詫びも兼ねて、仕切り直しがしたい。できれば別の日に」
「え、でも、」
「何が何でも今日で最後、って強く思ってる?」
「いえ、そういうわけじゃ、」
「じゃあ仕切り直させて。俺からデートに誘わせて」
「えっ?」
「言葉通りだよ。次のデートプランは俺が立てる。宿を取るから、そこでしよう」
「な、なんで?」
急展開すぎてわけがわからない。
「デートプラン考えるの、面倒で嫌いだから、俺みたいなのと恋人するのが楽なんじゃ?」
「得意ではないけど、ここぞって時の一回くらいなら頑張れるもんなの」
「えっと、最後くらいは頑張るから、いい思い出つくって別れようね、みたいな?」
「んー、それは多分、だいぶ違う。俺が君に提供できるものを、もっと本気だして見せるから、別れるの考え直してくれない? っていうお願いをさせてって話」
更に予想外すぎる答えが返ってきて、思わず背後を振り向いて相手の顔を確認してしまう。
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