常連さんが風邪を引いたようなので2

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 体調を崩した彼を送っていった翌日土曜日は、店に電話が掛かってきて、昼と夜の二回出前を届けた。ついでに使いかけだった市販薬の残りもそのまま渡した。
 もちろん普段はそんな出前サービスは行っていないし、届けたものもメニューにない、彼が食べられそうなものを適当に作って運んだ。
 夜の出前を運んだ時、日曜は店の定休日だが、必要なら食べられるものを運んでもいいと言って、店ではなく個人的な連絡先を渡した。さっそく翌朝掛かってきた電話にウキウキで出れば、お礼と共にだいぶ回復したから後は自分でどうにか出来そうだと言われてしまい、少しがっかりだったのを覚えている。
 ただ、彼が風邪を引いたおかげで、その後は彼との距離がグッと縮んだようだった。
 平日夜の来店時間もオーダーも変わらないが、まず交わす挨拶が増えて、たまに会話が出来るようになった。そして、極たまに、土曜日も顔を出すようになった。
 土曜日はランチタイムだったり、夜もちょうど混みあう夕飯時に訪れるので、こちらも忙しくなかなか会話どころではないのだが、土曜の彼は普段に比べると比較的機嫌がよくて食事量も多い。
 半年くらいかけて分かった事がいくつかあるが、それもなかなか衝撃的だった。
 実は結構なグルメで仕事休みの週末に食べ歩くのが好きだということ。自炊も弁当類も嫌いで基本全て外食なため、家には電子レンジすらないこと。飲み物用に冷蔵庫と電気ポットはあるが、ヤカンも鍋もなく備え付けのガスコンロに火をつけたことがないこと。引越してきた時に隣と真下の家には挨拶をしていたこと。単身赴任ではなく別居中で、多分近いうちに離婚が成立するだろうこと。
 近いうちに離婚が成立すると聞いたのはついさっきの事で、相手は既に色々と気持ちの折り合いが付いているのか口調も態度も平然としていたが、何故かそれを聞いた自分が動揺した。その動揺を見抜いたのは彼ではなく、隣で作業しつつそれを聞いていた従業員だった。
 その従業員の彼もどちらかと言えば寡黙で、あまり無駄話はしない方なのだけれど、店を閉めた後に珍しく良かったですねと言った。
「何が?」
「さっきの話です。離婚、成立したら、言ってみたらどうですか?」
「な、何を……??」
「好き、なんですよね?」
 確かめるように聞かれて、グッと言葉に詰まってしまった。なんとなく自覚はあったが、そんなまさかと否定し続けてきたのに、自分と過ごす時間が一番長い彼からの指摘でとうとう逃げ場がない。
「好きそうに、見えた?」
「ええ。かなり」
「言わないよ」
 だって言えるわけがないだろう。離婚間近とはいえ相手は女性と結婚していた男で、自分だって今までの恋愛対象はずっと女性だった。
 これは胸の引き出しにしまっておかなければいけない、想いと言葉なのだと思う。
「常連さんと気まずくなりたくないし。てか通って貰えなくなったら困るし」
「脈ありそうに見えますけど」
「え、何の冗談? てか俺が男と付き合いだしても気にしないタイプ?」
 冗談で口にしたわけではないことはわかっていたが、笑って冗談にしてしまいたかった。そんな気持ちと、だから話を逸らしたことは多分伝わっている。
「気になりませんね。逆に、もし私が男と付き合ってたらどうですか? 一緒に働きたくないから店辞めろって言いますか?」
「それは困る。辞めないで!」
「誰と付き合ってるかなんて、その程度のことですよ」
 即答したらこれまた珍しく優しげな笑顔になって、彼はお疲れ様でしたと残して帰っていった。

続きました→

有坂レイへの3つの恋のお題:引き出しにしまいこんだ言葉/晴れの日も雨の日も/今夜は帰らないで

 
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1話完結作品/コネタ・短編 続き物/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

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