その日だけで何人に真相を尋ねられただろうか。聞かれたものには正直に、自分たちの関係は変わらず親友だと返したけれど、憶測と噂はやはりじわりと広がっているようだった。
彼女を追いかけていった親友が、そのまま彼女と険悪気味になっているらしいことも、聞いても居ないのに知らされた。それを、むしろチャンスじゃないかと囃し立てる、外野の気持ちはさっぱりわからない。自分のことで親友が彼女と揉めるだなんて、申し訳ない気持ちしかないのに。
それとも、アイツが気づいていたように、親友を好きだった気持ちは周りにも知られていたって事だろうか?
そんな不安がよぎりつつも、親友とその彼女は似合いのカップルだと思っているし、自分自身、恋人は居なくても好きな相手はいると告げてみた。しかし結局、無理はしなくていいだとか、その好きな相手ってのが親友なんだろうとか言われて辟易する。
ついでに言えば、二人が付き合っても応援するだとか、男同士に偏見ないよだとか、実はあれだけ好き好き言ってて彼女を作った親友を許せないと思ってたとか、ここぞとばかりに寄せられる意見には苦笑するしかなかった。
他人の言葉は無責任に自分勝手で、この状況を面白がられていることだけは確かだ。
そんな中、アイツは何も言ってはこなかった。最近は教室内でもそこそこ一緒に居ることが増えていたのに、スッと距離を置かれた気がして内心焦る。
放課後、話したいことがあるから一緒に帰ろうと誘えば、断られることはなく、しかも当たり前のように彼の自宅へ招かれた。けれど通されたのは彼の部屋ではなくリビングだ。
なんとなくの成り行きで一緒に食事をしたこともあるので、リビングに入ったことがないとは言わないが、最初からずっと当たり前のように彼の部屋に直行だった分、それだけでもショックを受けている自分に気づいて泣きそうになる。この関係を終えたくはなかった。
4人がけのダイニングテーブル向い合って座ると、その距離感がなんとも寂しい。二人の間のテーブルが、まるで彼の拒絶のようで、彼の顔を見ていられずに軽くうつむき話し始める。
「あいつとの噂のことなんだけど……」
「ただの噂で、親友は親友のまま、なんだろう?」
誤解されているわけではなさそうでホッとする。
「そうだよ。だから俺らの関係、終わりにしようとか言わないで」
「あいつへの想いを紛らわせるために、これからも慰め続けて欲しいと」
「うん、そう」
「本当にそれでいいのか?」
「いいよ」
即答したものの、どういう意味だと不安になった。
「てかさ、お前もチャンスだとか、思ってる?」
「まぁ、いい機会だという気はしている」
「でも俺、あいつと彼女の邪魔する気、一切ないよ」
こわごわと尋ねてみたら肯定されて、返す声は震えてしまった。
「何の話だ」
「だから、チャンスだよ。あいつが彼女と揉めてるうちに、彼女からあいつを奪い返せって。奪い返すも何も、もともと親友で、今も親友なんだから、何も奪われてないのにさぁ」
「ああ……そういえばそんな話も聞こえていたような気がするな」
机の位置はあまり近くないけれど、同じクラスなのだから、こちらの会話が届いていてもおかしくはない。しかしだとしたら、彼の言う機会とは何をさすんだろう?
「皆随分と好き勝手言っていたな」
「だよな。ホント、まいった」
「しかし的を得ていた言葉もあったろう」
「え、どれ?」
「好きなら好きだと本人にきちんと伝えないと意味が無い」
確かに半分説教じみた感じに言われた記憶はある。たしか、恋人は居なくても好きな相手は居る、という話の時だっただろうか。
「それが言えてたら、そもそもお前に抱かれるような目にあってないだろ」
苦笑しつつちらりと見てしまった彼の顔が、思いの外真剣でなんだか落ち着かない。彼の視線から逃げるように、ずっとややうつむき気味でいたのに、ますます頭が下がってしまう。
「顔を上げてくれないか」
ビクリと体が震えるのがわかった。腿の上でぎゅっと拳を握りしめれば、優しく名前を呼ばれる。促されてゆっくりと顔をあげるものの、やはり真剣な彼の顔を直視できない。
彼は困った様子で、わずかばかり苦笑したようだった。
「いまの俺達の関係を、本当にこのままの状態で続けたいか?」
「ダメ?」
「ダメではないが、辛くないのか」
「そりゃ辛いよ。言えるなら好きだってちゃんと本人に伝えたいし、恋人になれるなら恋人にだってなりたい」
それは紛れもない本心で、けれど伝えたい相手はもちろん親友ではない。好きだと伝えたいのは目の前に居る彼だった。けれどそれを隠すための言葉を続ける。
「でも、仕方ないだろ。あいつは彼女が居て、俺はそれを邪魔したいわけじゃない」
「そういうプレイが燃える。などと言うなら黙っていたほうがいいかと迷っていたんだが、恋人になれるならなりたいとまで思っているなら、正直に言ってくれてもいいんじゃないか?」
「は? プレイ? 燃える? てか正直に言えって……」
あれ? もしかして気持ちバレてる? などと焦るなか、彼は更にとんでもないことを言い出した。
「本当に好きな相手とは出来ないから、仕方なく好きでもない相手に抱かれる。というシチュエーションが気に入っているのかと……」
「えっ、いやいやいや。なんだそれっ」
「どうやら少し誤解していたらしい。恋人になりたい気持ちがあるなら、何もお前から言わせる必要もないな」
俺から言おうと続けた後。
「お前が好きだ。誰かの代わりではなく、今度は恋人として、お前との関係を作り直したい」
「嘘だっ!」
勢い良く立ち上がりながら叫べば、やはり酷く真剣な顔で、嘘じゃないと返された。
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