初恋は今もまだ2

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※ 嘔吐有ります

 立ち上がった自分にいくつもの驚きの目が向けられる。もちろんその中には、想う相手の目もあった。その目から逃げるように視線を逸らして、吐いてくると宣言してトイレへ向かう。
 それを追ってきたのは、隣の席で飲んでいた友人だった。
「なんで付いてくんの?」
「酔っぱらいが吐くって宣言してトイレ向かってんだから、誰かしら付いてた方がいいだろってだけだけど」
 粗相の後始末が必要になるかもしれないしという、相手の気遣いがわからないわけではない。
「やっさしー。でもハッキリ言えば邪魔。そこまで酔ってないから戻れば?」
 一人で対処できるから大丈夫とだけ言えばいいものを、どうにも吐き出す言葉が刺々しくなってしまう。八つ当たりだとわかるから申し訳ない気持ちがないわけではないが、こんな時に構ってくる相手が悪いとも思う。
「だってお前、今一人にしたら泣いちゃうじゃん?」
「は?」
「泣きそうな顔してんぞって言ってんの」
「うるっさいな。ほっとけよ」
「ほっとけないから付いて来てんでしょー」
 呆れた口調が、てかさぁと言葉を続けていく。
「あいつが男好きになったかもって聞いただけで泣くほど辛くなれるなら、もっと本気で欲しがったら良かったんじゃないの?」
「何、言ってんの……」
「言葉通りの意味だって。てかトイレ着いたけどどうすんの? そこまで酔ってないってなら中まで一緒には行かないけど、本当に吐くなら鍵はかけんなよ」
 無言で個室に入って鍵をかけた。扉越しに相手が笑う気配がしたが知ったこっちゃない。
 余計な茶々が入ったせいか嘔吐感は先程よりマシになっていたが、それでも個室に一人で立ち竦んで居ればやはり色々な感情が溢れてくるから、結局持て余す感情を乗せて胃の中の物を吐き出した。
 でも吐いたからといって気持ちまでスッキリするわけじゃない。泣きそうな顔をしていると指摘されたくらいだから、いっそ泣いてしまえばいいんだろうか。でも胸が苦しいばかりで、涙があふれてくることはなかった。
「おーい。まさか寝てんじゃないだろなー。そろそろ出て来ないと店員呼ぶぞー」
 吐くものもなくなってぼんやりと便器を眺めていたら、扉が軽い音を立てた後で随分とのんきな声が聞こえてくる。吐き終わったことは気配でわかっているんだろう。
 返事の代わりとばかりに水を流して、綺麗に流れ終わるのを待ってから鍵を開けた。
「はいお疲れさん」
 なんだそれと思いながらも、無言で洗面台へ向かう。背後では友人が、個室の中を覗いて汚していないかをチェックしているようだった。
「泣かなかったんだ」
 口をゆすいで顔を上げれば、チェックを終えて背後に立っていた友人と、鏡越しに目があった。
「そのためにお前がついて来たんだろ?」
「鍵かけたから泣く気なんだと思ってたわ」
「泣けなかった」
「えっ、俺のせいで?」
「あー……そうかも?」
「なら泣かせてあげよっか?」
「嫌な予感しかしないからいい」
 ざんねーんと笑う顔は軽い口調と裏腹に優しげで、鏡越しに見つめるその顔に、なぜか泣きそうになる。なんでこいつはここに居るんだろうと思いながら鏡を凝視していたら、小さく首を傾げた相手が、鏡の中でおもむろに両腕を開いて見せた。
「泣く? 泣くなら肩貸すけど?」
 相手にも、鏡越しにこちらの泣きそうな顔が見えているんだろう。緩く首を振って、絶対やだと言ったら、おかしそうに笑う顔が鏡に映った。次の瞬間、グイと腕と肩を掴まれて、強引に向きを変えられたと思ったら、相手の腕の中に抱き込まれていた。

続きました→

 
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