こちらの視線から逃れるように、相手はがっくりと肩を落として俯いてしまう。
「俺はさ、お前の好きの正体を知りたかったんだよな」
俯いたまま語られる声は、なんだか疲れきった様子でヘロヘロだ。
「好きの、正体?」
結局お前の好きってなんなの? とあの日トイレで尋ねられたことを思い出す。好きって言うだけで満足で、相手を欲しがらず、親友という立場からはみ出ないのが望みならと言われたこともだ。
「俺がお前に似た男を好きになったと言っても、平気な顔で応援してくるなら、それはもう本当にただの挨拶代わりの好きなんだろうって思うつもりだった」
お前に似た男と言う言葉に、ぐらりと思考が揺れた。気づきたくなくて、あの日、むりやり押し流した気持ちが溢れそうになる。
ちょっと抜けてるところもあるけど一生懸命で、犬っころみたいに懐くという表現に、昔の自分が重なる気はしていた。自分とその男とで決定的に違う何かが気になる程度には、似ていると思ってしまった。だからこそ、なんで今さらそんな男を好きになるのだという絶望は大きかったし、吐かずには居られなくなったのだ。
たとえば、今までの彼女と性別だけが違うような相手を好きになったかもと言われていたら、きっとあそこまでのショックは受けなかっただろう。自分はこいつの好みの範疇外というのを、改めて自覚するだけで終わっていたはずだ。
「後輩の男の話、嘘?」
「嘘じゃない。けど、そいつ見ながら、昔のお前に似てるなってのはよく思う。だから自分の好きがどこから来るのか、本当は誰に向かってるのか、ちょっと自分でも混乱してたんだ」
卑怯でゴメンと続いた言葉に、なんとなくは察したものの、より詳しい説明を求めるように問いかける。
「卑怯って、どういう意味?」
「混乱しつつも、多分きっと、俺はお前を好きなんだろうって思ってたんだよ」
後輩はそれに気付くキッカケだったと言って、更に言葉を続けていく。
「でも今更、お前が好きかもしれないなんて、お前に正直に言うのを躊躇った。だってお前の好きって、どう考えても俺と恋人になりたいとか、そういった要素なさそうだし。だからわざとお前が誤解するように話して、お前の反応を試した。お前が吐きに行ったから、もしかして脈ありかもなんて思ってた俺は、本当にただのバカだったよ」
ゆっくりと俯いていた顔を上げた相手は、困ったような、泣きそうな顔をしていた。
「やり方めっちゃ間違えたし、成り行きだろうと恋人作ったお前に、あいつと別れて俺と付き合ってなんて言えないとは思うんだけど、あいつがお前を恋人にしたのは俺への当て付けだってわかってるせいかな。ああ、あと、お前がまだ俺に好きだって言ってくれたこと」
一度言葉を区切ってじっと見つめてくる瞳に、生唾を飲み込む音が響いてしまった気がして恥ずかしい。
「お前を諦めたくない。どうやら俺はお前が好きらしい。いや、らしいじゃなくて、お前が好きだ。だから聞きたい。俺に、お前の恋人になれる可能性、まだ残ってたりする?」
先程友人から届いた、『お前が幸せになれるなら俺はどっちでも良い』という文面を思い出しながら、小さな溜息を吐き出した。
「そういう聞き方、お前、ずるいよ」
「ごめん……」
「あのさ、めちゃくちゃ正直に言うと、お前と恋人になるって事を考えたことがない。お前が俺と恋人になりたいなんて言い出すはずがないって思ってたから。あと、あんまり長いことお前を好きだったから、俺自身、ちょっともうよくわからなくなってる部分、あると思う。それに、確かにあいつとは成り行きで恋人になったけど、お前に好きって言われたから乗り換えるわーってのはさすがに抵抗ある」
まぁ、そう言ったってあいつは笑っておめでとうって言いそうだけど。なんてことを思いながら苦笑する。
「だからさ、少し時間ちょうだい。お前への好きがどんなものなのか、今、どんな風になってるのか、思考停止やめてちゃんと考えるから」
言えば、神妙な顔でわかったと返された。
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