結局洗濯を自分が、カップ味噌汁を相手が用意するという事になり、洗濯物を簡単に仕分けた後スイッチを入れて戻れば、座卓の上には湯気を立てるカップみそ汁とおにぎり数個とが並んでいた。
「そういやお前、俺に何も聞かないの?」
黙々とそれらを食べていたら、同じように黙々と朝食を消費していた相手が、ふと手を止めて口を開く。
「正直なんかお前の話聞くの怖い。……気もしてる」
本音だった。
「でも何か困ってるなら、もし力になれることがあるなら、協力はしたいと思ってる」
よっぽどのことがあったんだろと続けたら、相手ははじめ驚きに目を瞠り、それから困ったような照れくさそうな顔になって、ほんの少し俯き視線を落とす。
「あー……やっぱ好きなんだなぁ……」
彼自身に言い聞かせてでも居るような小さな声ではあったが、聞き取れないほどの声量でもない。ただ、何が好きなのかはわからなかった。
「何が好きだって?」
「何って、そりゃ、お前のことがだよ」
「は?」
「うんまぁ、ものすごく今更な事言ってる自覚はちゃんとある」
顔を上げた彼はとても真剣な表情をしていて、その言葉が嘘でも冗談でもないのだということは、否が応にもはっきりと伝わってくる。
「ところでお前、今、付き合ってる奴、いる?」
「い、ない……」
好きだと言われて恋人の有無を聞かれるということは、つまり恋人になりたいという話なのだろうか。高校を卒業してそろそろ2桁年という今になって、あの時叶わなかった想いが叶うのか。
そんなことを思ってドキドキと胸が高鳴ったのは一瞬だった。
「っそ。じゃ、ちょっと俺とセックスしてくんない?」
「はああああ?」
なんでそうなる。意味がわからなすぎて声を張り上げてしまった。
「声でかいって」
「いやだってオカシイだろ。何がちょっとセックスだ。自分が何言ってるか、お前わかってんのか?」
「わかってるよ。当たり前だろ」
「お前、まだ昨日の酒残ってるだろう」
「いやいやいや。酔ってないって」
「お前がなんか色々オカシくなってるのは充分伝わってるけど、酔ってないなら、せめて俺がわかるように順序良く話してくれ」
「お前が好きな事に気づいたので、お前とセックスがしたいです」
「おいこら。それは話す気ないって事でいいのか?」
少し低めの声で威圧的に告げれば、相手は観念したように小さく息を吐き出した。
「酔いつぶれたの失敗だったって言ったろ。本当は、酔った振りでお前のキス奪えたらくらいのつもりだった。さすがにあの店でそこまで出来る雰囲気なかったし、定番なら誰か潰れたらカラオケかファミレス行きだろ。どうにかカラオケに持ち込んで、人数減るから今度こそお前の隣キープしようって計画だったんだよ」
「その計画にも色々突っ込みどころはあるが、取り敢えず、それで本気で潰れて俺の家に泊まりになった結果、色々すっとばしてセックスしようになる理由を聞いてるんだが?」
「色々すっとばしてはいないよね。酒のせいにして、お前にベタベタ絡んで甘えて、キスして」
「ちょっとまて。キスしたのか?」
「え? したよね?」
「知らん」
「ああ、そう。もう寝た後だったかな。じゃあ勝手に奪ってゴメン?」
「軽いな」
「そこそんなに重要な話じゃないから」
寝てる間にキスされたかどうかなど、今現在の話の内容的には確かに瑣末な事ではある。知らない間にキスされていただなんて事実に、もやもやとする気持ちの解明も持って行き場もないまま、そこにこだわり続けるわけにもいかずに話の先を促すしかなかった。
「まぁそんなわけで、場所が違うけどやろうと思ってたことは全部した。お前が好きだって気持ちも確信した。セックスに関しては、お前に俺への気持ちは残ってないって思ってたけど、もしかしてそうでもないのかなって思ったら、ちょっと欲が出ただけ」
無理ならいいよとあっさり今までの言葉を翻して、彼は朝食の残りを口にする。釣られて自分も朝食の続きへ戻ったが、頭のなかは彼の言葉をぐるぐると反芻していた。
「なぁ」
結局全てを食べきってから、どうしても納得がいかずに声をかける。
「何?」
「セックスしようじゃなく、恋人になろう、という選択肢はなかったのか?」
「ないね」
「どうして」
「今更過ぎる自覚はあるって言ったろ。お前の恋人になりたいなんて言える立場にない」
「いきなりセックスしようと言われるより、恋人になってくれと言われたほうが、まだ受け入れやすいんだが?」
「そうだね。でも言わない」
「なぜ?」
問いかけを繰り返せば、困った様子で言いよどむ。
「本当は、何があった?」
確信があったわけではない。けれどそう告げた時の驚いた様子と、なんだか泣きそうに歪んだ顔に、すぐさまそれは確信に変わった。
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