昔好きだった男が酔い潰れた話3

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 目覚めると隣りにいたはずの男の姿は既になかった。さして広くもない1K間取りのこの家の中で、完全に気配を消すのは難しい。シンと静まり返った部屋の空気に、どうやら帰ったらしいと結論づけた。
 まさか連れ帰ったことそのものが夢だなんてことはないはずだ。夢うつつに何やら返事をした記憶は朧げにあるから、多分、それが帰るという相手へ返した言葉だったのだろう。
 本当に、あれは一体何だったのか。彼に一体何があったのか。
 気にはなるが、改めて呼び出して問いただすかというと、そんな真似はきっとしない。
 昨夜は自分自身もそれなりに酔っていたから、感覚全てが鈍っていたと思う。それで良かったと思うのは、目覚めてスッキリとした思考の中、昨夜のいろいろを思い返して今更ドキドキしているからだ。
 どうせまた最低でも半年は会う機会なんてないのだから、自分から彼に近づいて、せっかく鎮火した想いにわざわざ燃料を投下してやる必要はない。むしろ次に会う時までに、ざわついてしまった気持ちを鎮める事が重要だ。
 昨日のことはシャワーでも浴びてさっぱりして忘れてしまおう。
 なのに、シャワーを浴びて部屋に戻ったら、先程まで居なかったはずの、というか帰宅したはずの男が、何故かベッドに腰掛けていた。
「あ、……ええぇっっ!?」
「なにそんな驚いてんだ」
「いやだって、お前、帰ったんじゃ……?」
「コンビニ行ってただけだって」
 苦笑とともに指さされた先を視線でたどれば、座卓の上に見慣れたコンビニの袋が置かれている。中身はどうやらおにぎりとカップ味噌汁らしく、これは多分、朝食を買ってきたということなんだろう。
「声かけたし、お前はちゃんと返事もしたけど、……どうやら覚えてないっぽいな」
「なんか返事したのは、なんとなく、覚えてる」
「まぁいいや。俺もシャワー借りていいよな? タオル貸して。後お前、今日の予定は?」
「タオルは脱衣所の脇の棚に重ねてあるの使っていい。後、今日は特に予定ない。あえて言うなら部屋の掃除と洗濯と買い出し」
「おっけ。わかった。朝飯は俺がシャワー出たら一緒に食おう」
 先に食うなよと釘を差して、相手は今しがた自分が使用していたバスルームへと消えていく。ガサゴソと動き回る気配の後、カタンと風呂場の戸が閉まりシャワーの流れる水音が聞こえてから、ようやく金縛りが解けたようにその場にへたりこんだ。
「ええええぇぇ…………」
 思わず漏らす吐息のような声は、自分でもわかるほど戸惑いに満ちている。
 反射的に対応してしまったが、よく会話が成立したなと思うくらいには動揺していた。
 そうこうしているうちに、あっさりシャワーを終えて戻ってきた相手は、部屋の中で座り込んでいる自分に怪訝な顔をしてみせたが、こちらはそれ以上にオカシナ顔を見せただろう。なぜなら相手は、下着一枚という出で立ちだったからだ。
「ちょ、おまっ、服っ」
「あーうん。下着はあるんだけどさ、なんか着るもの貸して?」
 ようするにコンビニには朝飯を買いに行ったというより、替えの下着を買いに行っていたということなのかもしれない。
「な、なんで……?」
「洗濯すんなら俺の服も一緒に洗っちゃおうと思って? 天気いいし夕方には乾くだろ」
 夕方まで居続ける気かとか、洗濯までさせる気かとも思いつつ、それでも嫌だとは口に出来なかった。昨日着てた服を着てさっさと帰ってしまえと思う気持ちはゼロではないが、やはり彼をこのまま帰したくない気持ちの方が強いらしいのだから、なんだかんだ一度は男であることをこえて告白するほどに惚れこんだ想いは根が深い。
「なんかズボン落ちそう」
 ラフな上下セットの部屋着を渡せば、小柄な彼にはやはり大きすぎるようだった。袖と裾とはまくればいいが、ウエストの差はどうしようもない。
「仕方ないだろ。不安なら自分のベルトでも巻いとけよ」
「あとお前の匂いがする」
「やめろ」
「まぁいいや。取り敢えず朝飯食おう。味噌汁用にお湯沸かしていい?」
「俺がやるからお前座っとけ」
 その格好で部屋の中をウロウロされる方がなんだか色々と心臓に悪い気配が濃厚だ。なのに、じゃあ洗濯機回してくると言って、結局じっとおとなしく座っててはくれないらしい。

続きました→

 
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