泣きそうな顔に、隠しておきたいことなのかもしれないと思う。だから無理に話す必要はないと続けたけれど、相手は緩く首を振って口を開いた。
「ちょっと手痛い失恋した、ってだけだよ」
「振られたのか?」
「簡単に言えば、そういうことだね」
「複雑に言うと?」
「もう少し正確に言うなら、付き合ってると思ってたのは俺だけで、セフレに切られたって感じ?」
「そうか」
目の前の男とセフレという単語には確かに違和感しかないので、本気で好きだった相手からお前はセフレだったと言われて捨てられたのだとしたら、それは相当辛かっただろうとは思う。思うが、そこから彼が自分へ興味を向ける理由はやはりわからなかった。
わからないがそれを突っ込んで聞いていいのか躊躇ってしまえば、それに気づいた様子で相手の方から口にする。
「そっからどうしてお前を好きだって話になるのか、わかんないよな」
「そうだな」
「俺はその人に本気だったつもりだけど、相手からすると俺も同じというか、相手は俺が、お前の代わりを相手にさせてると思ってたらしい」
「俺も知ってる奴なのか?」
「いや知らない。会社の上司、……だった人」
会社の上司という単語に、頭の中で何かが引っかかった。
「あっ!……って、えっ、いやでも」
彼が飲み会に顔を出さなくなったのはここ3年位の話で、大学卒業後暫くはまだ頻繁に顔を見せていたし、社会に出れば当然のように会社でのことも話題に上がる。
その頃、上司がお前に似てて色々とやりやすい、というような事を言われたことがあった気がする。どの辺が似てるのか聞いたら、体格とか声とか雰囲気的なものと言われて、性格ではなく体格や声や雰囲気が似ててやりやすいの意味がわからないと思った記憶がある。
それらを口には出さなかったのに、彼はその想像を言い当てるように肯定した。
「多分それであってる」
「お前の相手って、男……なのか?」
「この流れで女の恋人と思って聞いてたお前にビックリだよ」
「そうか。いやなんか、俺が振られたのは俺が男だからだと思ってたんだ。男も恋愛対象になるんだな」
「それもあってる。あの頃は、男は恋愛対象外だったよ。というか、男の方が好きな性癖を、まだ自覚してなかった」
「お前、男のほうが好きなのか?」
それは衝撃の事実だった。
「そうっぽいね。ちなみに、最初にそれを意識させたのはお前」
それは自分の告白を指しているのだろうか。聞けばあっさり、そうだと肯定が返った。
「でも、それがなくても、いつかは気づいたと思うよ。女の子と付き合ったこともあるけど、なんか違うって思ってたから。それに、決定的にしたのはお前じゃなくてその上司だし」
「その上司だが、俺に似てたから好きだったのか?」
「俺にそのつもりはなかったけど、指摘されて否定はしきれなかったかな。実際、お前に似てたから接しやすかったわけだし、それがなければそういう関係にもならなかったし。暫く飲み会に顔出さなかったのは、お前に会うの避けてたからだし」
「俺を、避けてた……?」
「そう。会うの、なんか怖かった。なんで怖かったか、今なら理由もはっきりわかるけど、その頃は無意識に避けてた感じ」
「その理由は聞いてもいいのか?」
「そんなの……だって、お前に会ってお前が好きだって気づいたら色々とまずいじゃん。それ自覚してなかったけど、相手はそういうとこも気づいてたっぽいね。だから確かに、俺は振られて落ち込む資格すらないのかもしれない」
「その上司との関係は終わったんだよな?」
「終わってるよ」
「それなら、俺に恋人になって欲しいと言わない理由は?」
「は?」
唐突に話を戻しすぎたようで、呆気にとられた顔をする。
「その上司に似てるから俺を好きだと言ってるわけじゃないんだろう?」
「違うよっ。何言ってんだよ。ちゃんと話聞いてたのかお前」
「ちゃんと聞いてたからわからないんじゃないか。お前と俺が恋人になることの障害が見つからない」
こちらに相手への気持ちが残っていることは見ぬかれているし、相手も自分を好きだと認めている。互いに恋人と呼ぶような相手も居ない。なのに恋人になりたいとは言わない理由が、やはり自分にはわからなかった。
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