まるで呪いのような1

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※ 視点が変わっています

 高校一年の終わり頃、同じマンションの隣室に住む一学年下の幼なじみは、近所の公立高校への進学を決めた。昨年、自分が滑り止めとして受験した学校だ。
 その学校を選んだ理由は、家から一番近いからといういたって単純なものだったけれど、そこ一本で行くと聞いた秋頃から、こちらの気分はずっと底辺をさまよっている。
 いや、突き詰めていけば、自分が高校に入学してから先、この幼なじみに関する自分の感情は基本ずっと低調で、時々激しく乱高下という感じだった。
 ちょっと遠方の私立校へ入学を決めた程度で、自分たちの関係が変わるなんて欠片も思っていなかった、中学時代の自分を殴ってやりたい。相手の家庭の経済状況はちゃんと考慮したのに、彼自身が自分の通う私立校に見向きもしないなんて未来を、あの頃の自分は全く想像できなかった。
 だって、絶対に追いかけてくれると、信じ切っていた。物心ついた頃からずっと見せつけられてきた、彼の自分への執着を疑うことは難しい。
 ただ、その執着が何であるかをずっと確認せずにいたのは、間違いなく自分の落ち度だった。
 相手の気持を確認することもせず、二人の将来なんてものを勝手にあれこれ考えていたそれを、人は独りよがりと呼ぶのだ。
 そもそもなんで自分は、彼の執着を恋愛感情だなんて思ってしまったんだろう。という疑問に対して出せた答えは、その方が自分にとって都合が良かったから、という以外にない。
 彼の執着は子供の癇癪みたいなものだったのに、無自覚なまま彼を恋愛的に好きだった自分は、都合よく彼の気持ちを勘違いしたらしい。相手の想いに反応して、こちらも引っ張られるように想いが湧いて育ったのだと、そういう事にしたかった。というかずっとそういう認識だった。
 そんな盛大な勘違いは、高校へ合格した頃からなんとなく彼に避けられるようになって、これは毎年4月に彼が発症させる学年の違いへのイラツキとはなんか違うと思って焦って、好きな子に避けられてるという恋愛相談じみたことを彼に向けて発した時に気付かされた。
 そんなことを口に出したのは、こちらの想いを晒せば、彼から告白してもらえるはずだったからだ。彼が告白する気になるまで待てずに催促することを、申し訳なく思う気持ちはあったけれど、遠い私立校を選んだことに怒っているなら二人の距離感を縮めることで対処できるんじゃないかと思ってしまった。つまり一緒に過ごせる時間が減る代りに、親友から一歩進んで、恋人関係にならないかという誘いのようなものだった。
 なのに相手はこちらの告白に盛大に驚いて、たった三ヶ月生まれるのが遅かったってだけで学校でのタメ口が許されなくて、先輩後輩という縦関係に収まるのが悔しくてたまらないだけだと言って、そこに恋愛感情があるとは認めなかった。
 そのくせ、こちらが相手のことを諦めて他に恋人を作るのは嫌なようで、脅したらやけくそ気味にキスしてくれたけど。だから結局、本人の自覚が追いついてないだけで、きっと恋愛的な意味も含んだ執着なんだと、思ったんだけど。今もその可能性に、かなり縋っているんだけど。
 でも、正直本当に想定外過ぎて、毎日不安で仕方がない。だって彼は結局まだ、自分を恋愛的に好きだとは思っていない。
 いや、実のところ、夏前には告白されて、一応恋人という付き合いには発展している。ただ、こちらにだってこちらの人生があるのだからそうそう待ってられない、という宣言をしてあったことと、自分がさっさとはっきりさせろと追い込んだせいで、取り敢えず恋人って関係に収まっただけだとわかっていた。
 彼の方から好きだと言ってくれるし、キスもしてくれるけれど。好きだと言えば、顔を寄せれば、俺もと答えて目を閉じてくれるけれど。互いの想いの熱量差はどう考えても酷く大きかった。
 恋人になったんだからデートがしたいとか、もっと甘い雰囲気が欲しいとか、キス以上のこともしたいとか、言えば最終的にはこちらの希望に合わせて応じてくれるようになるんだろうけれど、それは結局のところ脅迫でしかない。恋愛だの恋人だのに興味が持てなくて、恋愛感情での好きなんてわからないと言っている相手の、だからって他の恋人を作られるのは嫌だという執着心を、こちらの欲求を満たすために利用するのはあまりに可愛そうだった。
 でも、こちらが求めなければ、彼から何かを求めてくれることはないのだ。彼の想いがないことに、不安になって心を揺らして落ち込めば、親友としてこちらの不調に気付いてくれて、一番効果的な慰めとして、キスだったり好きだの言葉だったりをくれているだけだと気づかずにはいられない。
 あの日、彼に自分の想いを晒して以降、一方的な片想いを一年近く続けている。しかも、ずっと両想いだと信じて疑ったこともなかった相手に対して。
 彼が同じ高校へ入学するなら、そんな片想いを受け入れて、この不毛な恋人関係をもう少し続けていたと思う。彼が恋愛感情を自覚するか、執着心だけで好きでもない相手と恋人でいる不毛さに気づくか、こちらへの執着心をいい加減捨てるかするのを、待ってやったと思う。
 でも、彼が選んだのは近所の公立高校だ。彼の執着心の面倒さはわかっていたから、受験が終わるのを待っていただけで、受験校を聞いた時から別れ話はするつもりだった。
 深く深く息を吐く。
 執着心だけで好きでもない相手と恋人関係になって、好きだと言ってキスできてしまうような相手と、すんなり別れられるわけがない。でももうこちらだって、いい加減色々限界だ。
 こんなバカみたいな片想い、さっさと終わりにしたかった。

続きました→

 
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