春休み初日、まるで母がパートに出かけるのを待っていたとでもいうタイミングで訪れた恋人に、ベッドの中で甘やかされている。正確には、甘やかされそうになっている。
「ホントにすんの?」
別にこんなの必要ないんだけどという気持ちは強いが、すると返す相手に引く気はなさそうだった。
「俺がしたい」
それなら惨めには思わないんだろと言いたげで、事実この後、彼に触れられて惨めに思うことはないだろう。たとえ彼がしたいのはこちらを甘やかすことであって、依然触れたいと思われているわけじゃないにしても。
「で、どんな風にされたい?」
ただ、真面目な顔でどう触られたいかなんて聞かれるのは、正直微妙すぎるというか恥ずかしいというか、つまり答えたくない。
「お前が触りたいように触って。ってこの前も言ったけど」
実はあの日、彼の疑問や不安を潰した後にもちょっとそんな雰囲気になって、これはその時にも言った。あの日は結局夕飯の時間になってしまって、実際に触れられる前に中断したし、その後も今こうして押しかけられるまで、あれはあの日の雰囲気に流されてそんな気になっただけのものって思っていたのだけど。
「お前が触られたい通りに、触ってやりたいって、俺も言ったはずだけど」
「お前が触りたい通りに触られたいってんじゃ、なんでダメなの?」
積極的に触れたいと思ってるわけじゃなくても、脳内でこちらの体を好き勝手してヌイてるって言ってたのはもちろん忘れてなんかいないし、彼の脳内でどんな風に扱われているのか知りたいとも思う。それと、こちらがどう触れられたら嬉しいのかを、こちらがあれこれ指示するのではなく、彼自身の手で探って欲しいとも思う。ただこれはやっぱり、望みすぎかなという気もしている。
「お前、俺でヌイてんだろ? だったらそれ、俺本人で再現してみてよ」
「お前がキモチィって喘ぐ顔想像して抜いてんだから、お前がされたいように触って気持ちよくなって貰うのがいい。脳内じゃ好き勝手してても、現実の自分にお前をそこまで感じさせるテクなんかないのわかりきってるもん。再現なんて出来るわけ無いだろ」
だから妄想通りに触るのは無理だよって話らしい。こちらが好きにしていいって言ってさえ、あれこれ弄り回して、キモチィって喘がせてやろうみたいには思わないらしい。というかやっぱそこまでするのは面倒ってことなのかも知れない。
そう考えてしまうと、どこか寂しいような気分は拭いようがない。
彼はこちらがして欲しい事を着実にこなしたいようだ、というのはもう十分にわかってることなはずなのに、それでもなかなか慣れないなと思う。もしくは、こちらのして欲しい事が、彼に上手く伝わっていない。
彼がこちらを満足させたいと思ってくれているのだけはこんなにも伝わっているのに、現状ではなかなか満たされそうになくて、でもこうしてくれたら満足しそうという訴えは彼に全く通じない。恋愛感情じゃなくたっていい。彼のドロドロな執着心のままでいいから、もう少し、彼に求められていると感じたいだけなんだけど。
こちらが笑えるようになんでもしてやりたいって思ってるなら、テクなんて要らないから取り敢えず好き勝手してみて欲しいなと思うんだけど、彼がその要求を納得して実行してくれる気になる方法も言葉も全くわからなかった。
「お前こそ、俺で抜いてるなら、頭のなかで俺に何されて気持ちよくなってんのか言えよ。それともお前の脳内の俺も、凄いテクニシャンだったりすんの? どうせ無理とか思ってんの?」
もやもやと考えにふけっていたせいか、黙ってしまったこちらに焦れたようで、彼の声は少し機嫌が悪そうだ。
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