静かな部屋の中に、自分が鼻をすすり上げる音だけが、時折響いている。別に優しく慰めて欲しいわけじゃないけど、だからって何も言われず宥められることもなく、放置されるとも思ってなかった。
こんな自分を見て、彼は何を思っているんだろう?
お前のせいでこんなに辛いと、泣いて責めたいわけじゃないけれど、実質そうなっているのは確かだ。呆れているか、怒っているか、ただただ持て余しているかわからないけど、せめて、もういい加減潮時なんだと、理解してくれてたら良いなとは思った。
ホント、こんな関係、続けるべきじゃない。
「そろそろ落ち着いたかよ」
どうやらこちらの涙が止まるのを待っていたらしい。その声はやはりどこか苛つきを抑えているような気配がした。
「ん、ゴメン。いいよ。大丈夫。だから、言いたいことあるならどうぞ」
「お前が嫌がることしか言えそうにないんだけど」
気まずそうに言い募られて、思わずフッと笑うみたいな息が漏れた。今更だ。気遣われた優しい言葉なんていらない。
「何言ったっていいよ別に」
少しばかり顔を横に向けて、相手の顔を確認した。腿に肘を置いて組んだ手に口元を押し付けるようにして、前かがみに前方を睨みつけているようだった相手が、それに気づいて同じように少しだけ顔をこちらに向ける。酷い仏頂面だった。
「最後にお互い言いたいコトぜんぶ言って、それで終わりにしよ」
もう一度、フッと笑って柔らかに語りかける。対象的に、相手はグッと眉間に力を入れたから、ますます機嫌が悪そうだ。
「あー……じゃあ言うけど、お前が泣いて嫌がろうと、恋人関係解消する気ねぇし、言いたいこと言い合うのは賛成だけど、それで終わりにはなんねぇし、しない」
さすがに目を瞠ってしまった。相手は仏頂面のまま、絶対だと付け加えた。
「お前の執着心、ホント、おかしい」
声が震える。相手は嫌そうに笑って見せたが、これはたぶん自嘲というやつだ。
「知ってる。俺は、多分間違いなく、お前に対する感情がかなりおかしい」
「でも俺と恋人になったのは俺のためで、俺がお前を好きだなんて言い出さなきゃ、お前は俺と恋人になってなかったろ? 上手く行ってないのに、元に戻ろうってのが、なんでダメなんだよ」
「だって俺と恋人やめたって、狂ったお前の人生、修正なんかできっこないし。だったらこのまま、俺に責任取らせとけよ」
「なんでだよ。もう修正できないとは限らないだろ」
限るよと言い切る声は酷く冷たくて、どこか絶望に満ちている。
「お前の人生の修正は出来ないんだよ。というより、元々お前にはまっとうな道なんて用意されてない」
ゾクリと背を走ったのは多分恐怖だ。どういう意味だと問う声は、やっぱり震えてしまった。
「元に戻るんじゃなくて、お前が俺を好きだと言わなかった場合で考えたほうが、多分わかりやすい。もし俺があのままお前の親友を続けてたとしても、お前が他に恋人作るのは許さないし、邪魔するし阻止するし、最悪寝取ったりもありえる。もちろん、今ここでお前と恋人関係やめたって同じ。更に言うなら、お前が俺との友情切っても同じ」
「何それ」
「相当ヤバイよね。お前が俺から逃げようとしたら、かなり過激なタイプのストーカーになると思うんだけど、逃げ切れる自信ある?」
無理だと思ったけど、無理だと認めるのもなんだか怖い。黙ってしまったら、相手は大きく息を吐きだした。
「とまぁ、お前との関係を突き詰めてくと、相当やばい発想しか出てこねーんだよ。だから俺にとっては、お前が俺を好きだって思ってくれたってのは間違いなくかなりありがたい状況で、この関係絶対手放したくないわけ」
そこで一度言葉を切った相手が、じっとこちらを見つめてくる。先程までの怖い冷たさはない。でもなんだか全く知らない人物を見ているような気もした。
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