親睦会13

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 話を聞いてと言ったのは向こうなのに、部屋に戻って向かい合うように座卓に着いても、相手はすぐには話し出さない。何をどう話せば良いのか迷っているようだった。
 困ったように、あーだのうーだの唸っているのを、ただただ黙って見つめ続ける。見つめながら、別に無理して話さなくたっていいのにと思う。
 だって話を聞いても聞かなくても、この旅行を最後に、自分たちの関係が終わることには変わりがない。きっとお互い意識的に距離を置くけれど、それは結局、同期が越してくる前に戻るのと同じだ。
 何でこんなことをしたのか理由を聞かされて、たとえそれに納得したとしても、今までのことがチャラになるはずがない。体も心も変わってしまった。抱かれる快楽を知ってしまった。想いは生まれてしまった。この人に抱かれる前の自分に戻れるわけじゃない。
 出来れば恨まないでと優しくされたって、気持ちはささくれ立つばかりで、欠片も嬉しくなんてなかった。今後彼が与えてくれる償いも、癒やしも、どうせ彼が期待するような効果なんて生まない。
 手のひら返して優しくするくらいなら、恨まれる覚悟で酷い目に合わせてくれた方が、よっぽど気持ちの踏ん切りが付くのに。それにそんな風に終わっても、多分きっと、本気で相手を恨むことはしないと思う。
 酔い潰した男をレイプするような犯罪者とわかっていて、二度目を受け入れダラダラと関係を持ち続けるようなバカな真似をした自分が悪い。わかっていて、そんな相手に好意を抱いてしまった自分が悪い。
「あの」
 相手が話し出すのを待ちきれなくて、とうとう声を掛けた。相手は悩むように俯けていた頭を慌てて持ち上げる。その目をはっきりと捉えてから、口を開いた。
「俺相手には、もう、勃ちませんか?」
「えっ?」
「話、聞かなくていいです。俺に酷い真似をしたと思ってて、何かしら償いたいと思ってくれてるなら、出来るだけ酷く抱いてくださいよ」
「は? 酷く抱いてって、お前、何、言い出して」
「今更手のひら返して優しくされたって、辛いばっかりなんですよ。優しくされるより、酷くされたい。酷くされて、あなたを好きって気持ちを砕かれたい。これは俺が償いとしてあなたに望むことなので、酷い目に合わされたと恨んだりはしませんから」
 呆気にとられた顔で聞いていた相手の眉間に力がこもっていく。
「俺が恨まなければ、俺に優しくする理由もないでしょ。償い方が俺次第だってなら、酷くしてくれれば、もう、それでいいですから」
 相手は顔を両手で覆うと、目の前の座卓に肘を置き、俯いて大きくため息を吐いた。
「それとも、やっぱりもう、俺には勃ちそうにないですか?」
 なんなら手で弄ったりフェラしてみたり、この際相手を勃たせる努力をしてみてもいいのだけれど、どうせそんな提案をしても嫌がられるだけだろう。そう思うと、口にだすのはさすがに躊躇われた。でも嫌がられたってどうせ最後なのだしと思う気持ちもある。
「ゴメン」
「謝罪とかいらないんで、触らせて下さい。触っても舐めても勃たなかったら、その時は、諦めます」
 謝られて、とっさに口から溢れたのは、どうせ最後だしという気持ちの方だった。けれどすぐに、違うという単語が少し強めに吐き出されてくる。
「その話じゃなくて、あー……その、お前、俺を好きって自覚、あったんだな」
「はぁ、まぁ……」
 何を言い出しているんだと思ったら、気の抜けた声しか出なかった。
「お前、なんだって俺なんか……」
「知りませんよ。むしろそれ、知りたいのは俺の方ですから」
 セックス気持ちいい以外の良いところなんて何もないのにと続けてから、いやそれだけじゃなくてもう一つあったなと思い出す。
「あ、奢ってくれるご飯が美味しいのも良いとこの一つかも?」
「美味いもん食うくらいしか人生楽しいこと残ってねーからな。でもそんなんで好きになるとかないだろ。つーとやっぱセックスだよなぁ」
 はぁああと吐き出される大きなため息には、彼の後悔が色濃く滲んでいた。
 自分の中ではある程度、何もかも自業自得と諦めに似た納得をしているのに、この関係を始めた側の相手が、こんなにも後悔しているだなんて本当に酷いと思う。
「じゃあなんで寮に居るんですか」
「は? 寮?」
 顔を上げた相手は、何を言い出しているんだと言いたげだ。その気持ちはわかるが、それでも気付かないふりで会話を続けてしまう。
「美味しいもの食べるくらいしか楽しみないのに、あの寮に居続ける意味がわからない」
「いやそれは、さんざん世話になったし今更出てくのも面倒で、っつーかなんでお前はそこに引っかかってんだよ」
 そんなの、あのままこの人の後悔を見せられたら、また泣いてしまいそうだったからだ。
「だって気になってたんですよ。しょっちゅう俺に奢ってて、こんな旅館にも慣れた様子のあなたが、金銭的理由で寮に居るわけ無いから、何か他にあそこに居続ける理由があるんだと思って」
「あー、まぁ、そうだな。俺、バツイチで離婚してんだけど、当時は色々あって若干追い詰められててさ、逃げるみたいに寮に入ったんだ。時期的に社宅の方はいっぱいだったし、生活能力皆無というか生きる気力もイマイチだったし、飯の味なんてわかんなくなってたし、お前は知ってて利用してないのか知らないのかわからないけど、金さえ払えば洗濯だとか簡単な部屋の掃除とかもやって貰えるからさ」
「知りませんでした。知ってても、多分使ってませんけど」
「だろうな。俺だって今は平日のクリーニング受け渡しくらいしか頼んでない。でも当時はすごいありがたかったんだよ。仕事以外なんも出来なくなってたから」
 結婚するより離婚するほうが大変という話は聞いたことがあるけれど、いったいどんな理由で、何が原因で、そこまで追い詰められるような離婚をしたんだろう。
 けれど何があったんですかなんて、聞いて良いのかわからない。いやまぁなんとなく、聞いて欲しそうな気配を感じてはいるけれど。
「あっ……」
 聞いて欲しそうと思ったことで、気づいてしまった。
「もしかして、俺が巻き込まれた怨恨ってのが、その離婚、とか?」
「うん、当たり」
「じゃあ、言い渋ってたのも、当時の色々を思い出してたからですか」
「そうだな。実はバツイチでって言うのだけでもこんな時間かかって、ホント、情けない話だけど」
「俺に話して、良いんですか。てかホント、俺は聞かなくても、良いんですけど」
「俺が話したいんだよ。酷く抱いてってのも、出来れば避けたいし」
「出来れば、って、勃つんだ?」
「勃つけど、お前を酷く抱けるかは全く別問題」
 そりゃそうだ。この人はこちらを気持ちよくすることを目的としたセックスを、ずっと続けてきたのだから。

続きました→

 
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