追いかけて追いかけて1

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 あれは大学に通いだしてほんの一週間足らずの朝だった。大学のある駅で改札を抜けようとして、財布がないことに気づいた。
 電車に乗る時にも中に入った定期を利用しているのだから、家に忘れてきたというわけじゃない。いくら鞄の中を漁っても出てこない財布に、どうしていいかわからず半泣きになっていたら、どうしたのと声を掛けてくれた人が居た。
 ひょろりと背の高いその男は、無精髭を生やし無造作に伸びた髪を後ろで束ね、着ているシャツもなんだかヨレヨレで、ぱっと見酷く胡散臭かった。けれど掛けてくれた声は優しげだったから、藁にもすがる思いで事情を打ち明けた。
 結局、その人に連れられ駅員に事情を話し、更にはその人にお金を借りて、連絡先を交換した。どうやら地元の駅で改札を通った直後に落としたらしい財布は、地元駅に届けられていたし、運良く中身も全て無事だった。
 翌日、借りたお金を返しながら財布が戻ったことを伝えれば、相手はまるで自分の事のように喜んでくれて、本当に良かったなと言って笑った。昨日の今日で相手の見た目にそう変化なんてない。でももう、胡散臭さなんて欠片も感じなかったし、それどころかその時にはきっともう恋に落ちていたのだろう。今にして思えば、だけど。
 それでもまだその時は、それで終わりになるはずだった。学部も学科も違うし、当然学年だって違うから、お金を返してお礼を言って別れたらそれ以上接点の持ちようがない。
 それでも時折思い出しては、通う電車の中に彼の姿を探した。
 そんな彼と再会を果たしたのは、なんとなく入ったサークルの新入生歓迎会の時だった。サークルOBとして顔を出した先輩方の中に彼の姿を見つけて、酷く驚いたのを覚えている。だって当たり前に彼も大学生だと思っていたのだ。雰囲気的にきっと四年生なんだろうなと、勝手にそう思っていた。
 正確には彼は院生で、しかもかなりハードな部類の研究室に所属しているらしく、とてもサークルに顔を出す余裕はないからと、大学院に進むと同時にサークルも抜けたのだと教えられた。
 運命的だなと笑われてドキドキしたくせに、同性相手に恋だなんて考えたこともなかったから、ただただ嬉しいだけだと思っていた。当時から自覚があったって、何が変わったってこともないかもしれないけれど。もしかしたら、気づいていなかったからこそ、無邪気に彼を慕う事が出来たのかもしれないけれど。
 研究が忙しいの言葉通り、滅多に会えなかったけれど、それでも他のOBに比べればサークルに顔を出してくれる頻度は多かったし、会うたびに彼に惹かれていった。それはもう、自分の人生を大きく変えてしまうほど。
 博士課程には進まないと言った彼は、翌年の春には就職して大学を去ってしまったし、忙しいのか他のOBが顔を出してくれるような合宿時や文化祭にも来なかった。OB同士の繋がりは当然あって、元気にしてるよとは他のOBから教えてもらったものの、学年の差をあんなに残念に思ったことはない。せめて彼がサークルの一員として活動していた時期に、自分も一緒に居られたら良かったのに。一方的に慕って憧れているだけの自覚はあったし、個人的に連絡を取って遊びに誘えるような親しさはなかった。
 二年から三年に上がる際、そこに居ない彼を追いかけるみたいにして、彼の通っていた学部学科へ転部した。三年の後期からは研究室に所属することになるが、当然、彼の所属していた研究室を狙ったし、辛うじて滑り込んだ。

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