こちらの怯えを察知したらしく、わざわざ顔を横向けて数度深い呼吸を繰り返した後、再度向き合った彼はなんとも複雑な表情を見せている。
「俺に何かされることへの嫌悪感はなくても、男同士で付き合うことへの偏見や嫌悪感はあるって言ってたはずだけど」
「今もありますよ。偏見というか、普通ではない、という認識が。それと、自分自身への嫌悪感」
「自分へ向かう嫌悪?」
「女性も愛せるあなたに、恋人になってって言わせてる嫌悪感ですよ。罪悪感でもいいです」
彼を本気で怒らせたのだとしても、こっちだってそう簡単に譲れない気持ちがある。
「どちらかが女性だったなら必要のない感情を抱えてしまう。っていうのは、言い換えれば、男同士で付き合うことへの偏見と嫌悪感です」
自分が彼に恋していなければ、それを教授が彼に話していなければ、あの日、恋人になってみるかなんて言葉が冗談でも彼の口から漏れることはなかったと知っている。彼への想いを隠すことなく誘われるまま出かけた結果が、あの日の彼の告白なんだとわかっている。
自分が彼を想うせいで、という罪悪感と自身への嫌悪は既にもう、ある程度抱えてしまっているのだ。人の目は気にならなくても、自分の想いのせいで男同士で恋人という関係を彼が選ぶという事象に、罪悪感と嫌悪感を膨らませて行くことだって容易に想像がつく。きっとすぐに耐えられなくなる。逃げてしまう。
だったら最初から恋人になんてならないほうがいいと考えてしまうのは、結果二人共が負わなくていい傷を負うんじゃないかと恐れてしまうのは、自分の恋愛経験の低さのせいだという可能性はある。短な期間だとしても、たとえ傷付き合っても、恋人になって良かったって思うことが、もしかしたら自分が思うよりたくさんあるのかもしれない。
そこまで考えたら、ふと、ここにいる間だけ恋人になって、という先程の彼の言葉を思い出してしまった。
今、こうやって一度だけってわかっていながら彼と触れ合おうとしているのは、後悔や苦痛よりも得られる幸せが多いだろうという判断をしたせいだ。確かに、区切られた時間の中での恋人なら、その間だけ目一杯楽しむということが考えられそうだった。ここにいる間だけなら、すぐに耐えられなくなって逃げてしまったら彼を傷つけるんじゃないか、なんて心配も必要がない。
その後すぐに世間体の話になって彼を怒らせてしまったけれど、その話はまだ有効だろうか?
思考に落ちていた意識を彼に向ければ、彼は依然複雑な表情のまま、同じように何かを考えているようだった。
「あのさ、」
声をかけるべきか迷った一瞬で、こちらの視線に気づいた相手が先に口を開く。
「はい」
「例えばの話、俺が男しか愛せないゲイだったら、もしかして付き合ってた?」
「ああ、はい。そう、ですね。もしあなたがゲイだったなら、試しに付き合ってみるかって話に、喜んで飛びついてた可能性はあります」
「それ、……」
唖然とした様子で、去年の学食での話かと確かめられて頷けば、がっくりと項垂れた相手がずるずるとその場にしゃがみこんでしまった。
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■
HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁