別れた男の弟が気になって仕方がない8

1話戻る→   目次へ→

 じゃあ取り敢えずキスしてみようかと言ったら、相手に僅かな緊張が走るのがわかる。その緊張を解すように大きく息を吐きだしてから、諦めた様子で口を開いた。
「そういやあの人からも電話貰ったって言ってましたね」
 つまりなんで抱いて貰えなかったかも聞いたってことですよねと続いた言葉には、正直に聞いたよと返す。
 紹介した男は自分へ向かう好意が育ってない相手は抱かない主義だ。更に言うなら、以前は好きだと言われて誘われればそれなりに応じてもいたようだが、色々と思うところがあったようで最近は、ちゃんと互いに想い合えている相手でなければ抱かなくなった。しかし行為は基本恋人になった後とは言っていても、たびたび恋人募集中になるあたり、逆に言えばそれなりに好きと思えれば取り敢えず恋人になってしまうという事でもあるのだけれど。
 人を紹介して欲しいと最初に頼まれたあの時、もし好きになれたらそのまま付き合う気があると言ったから、初めての行為はそれなりにでも想い合えた相手と、となれるようにと思ってその人を紹介した。
 なのに、そこまでせっかちでもないはずの男が、あっさりダメだったと言って戻してきたのは、眼の前に居るこの子の方があまりにもせっかちだったせいだ。気持ちが育っても居ないのに、好きになったと嘘をついて行為をねだったせいだ。
 その嘘はキスしただけですぐにわかったと言っていた。更に言うなら、想う相手が居るようだとも言っていた。
 そう言われなければ、彼自身も兄の恋人となった男が好きなのでは、なんてことには気づかなかったかもしれない。
 きっと叶わない想いを抱いていて、代わりに他の誰かに抱かれたがっている。だとしたら、自分にはその相手は務まらない。それならそれで、もっと適任がいるはずだろう? と、暗にお前が抱いてやれと電話口で言われていた。
 一度限りの慰めを渡すような真似はもう随分と前に止めていたし、そこそこ付き合いの長いその男はそれを知っているはずなのに。いや、知っているからこそ、お前が抱いてやれとは直接言わずに居てくれたのだろう。
 その言葉がどれだけ自分の背を押したのかは定かでないが、結局、怒気を孕んだ無表情のまま、抱いて貰えなかったから他の人を紹介しろなどと言う本人を前にしたら、慰めてやりたいと思ってしまった。継続する関係など望めそうにないけれど、たとえ一度限りとわかっていても、抱いてやりたいと思ってしまった。
「でも俺、嫌だとも気持ちが悪いとも、一言だって言ってないんですよ。むしろそのまま続けて下さいってお願いしたのに」
「でもそういうのはだいたいわかるものなの。嫌がられてる事に興奮する性癖持ちならともかく、紹介したのはそれとは間逆な男だからな? 自分のことを好き好き大好き〜って思ってくれてる相手とじゃなきゃセックスしたくないって思ってるような男に、好きになったから抱いてって嘘はあまり良くなかったね」
 言えば、別に嘘ってわけじゃないですと、ムッとしたように反論される。いい人だと思ってたし、ちゃんと好きだとも思っていた、ということらしい。
「いい人だから好き、って……」
 一瞬言葉に詰まってしまったのは、あまりに子供じみた言い訳に思えてしまったからだ。
「つまりその好きは、この人とセックスしたいって好きとは、違う好きだったってことだろ」
「この人とセックスしたいと思ったから、自分から抱いてって言ったんですけど?」
「セックスしたいほど好きな人とするキスで、嫌だな、気持ち悪いなって、思うものかな?」
 言えばさすがに黙ってしまう。言い訳を探すように口元がもごもごと動くものの、言葉はなかなか出てこない。
「あのね、俺は別に俺のことを好きじゃなくても、可愛いなって思った子は抱けるけど、でも嫌だな、気持ち悪いな、って思われながら抱くのはあまり本意じゃないんだよね。俺にも、嫌がられる事に興奮する性癖はないからさ」
「俺は可愛くなんてないでしょう」
 真っ先に反応するのはそこなのか。
 やっと吐き出されてきた声は不機嫌で、若干の戸惑いが滲んでいた。やっぱ可愛いなんて言われたくなかったよなと思って、苦笑をどうにか噛み潰す。しかし一度言ってしまったからには、嫌がられようともうそれを撤回する気などない。
「可愛いよ。じゃなきゃお前を抱こうとしないよ。でもまぁ、確かに今回お前を抱くのはちょっと事情が特殊だし、何が何でも抱かれたいのがお前の一番の希望らしいから、嫌がられながら抱く覚悟もそれなりにしてる」
 きっと、そんな覚悟をしている相手に抱かれるのだとは、ちらりとも思っていなかっただろう。驚いたように目を瞠るから、今度は隠すことなく苦笑をこぼした。
「もしお前がこのまま他にNGないって言うなら、たとえ嫌がられてるってわかっても、お前がストップワードを口にするまでは、口の中を舐めて探るような深いキスも、体中の隅々まで手も口も舌も使った愛撫もする。初めてなんだから、アナルだって前回以上にじっくり本気で慣らして拡げる。でもさっきデンタルダムは使われたくないって言ったから、アナル舐めたりはしない。つまりそういう事だよ。お前がはっきり嫌なことは最初からしない。だから本当に他にNG行為がないか、しっかり考えてみて?」
 試しにキスしてみるのも構わないよと言えば、少し迷った後で、キスして下さいとお願いされた。

続きました→

 
萌えたらポチッと応援よろしくお願いします。

1話完結作品/コネタ・短編 続き物/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

  • Pocket
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す




Menu

HOME

TOP