ベッドの上に押し倒し、戸惑いも抵抗も飲み込むようにして、出来得る限りの優しさで無垢な体に触れる。可愛いとか、愛しいとか、いい子だとかを繰り返し伝えながら、バスローブを肌蹴て素肌の上にたくさんのキスを落とす。
愛撫する手を振り払われることはなかったし、さっさと済ませろと急かされることもない。はっきりとそう告げたわけではないけれど、これが性欲を解消するためのセックスではないことも、こちらが彼を擬似的な恋人という扱いをして触れていることも、わかっているんだろう。
しかし頭での理解と心や体の反応は違う。
「嫌がられながら抱く覚悟もしてるって言っただろ。無理して色々押さえ込まなくていいから。ちょっと嫌だって零したくらいで、そんな申し訳ないって顔しないの」
しかも漏れたその声は、嫌悪より強い戸惑いからだともわかっている。反射的に飛び出るようなものに対して、いちいちシマッタなどと思う必要はないし、反射的にすら否定する言葉がこぼれないようにと、必死に口を閉ざす必要はもっとない。
「すみま、せん」
「謝らなくていいって。こっちはお前が初めてだってことも、俺を好きじゃないってことも、了承済みでこうしてる。ついでに言っとくと、とっさに手や足が出て殴られたり蹴られたりも想定してるけど、そんななってもまだ続けてってお前が思うなら、お前縛ってでも最後までしてあげるから安心して。じゃないと、なんのためにストップワードまで決めて始めたかわからないだろ」
嫌がる相手を拘束してレイプなんて事にはまったく興奮しないけれど、そうされてまでも他者に抱かれる経験が欲しいと切望する彼に、きっと自分は興奮することが出来るだろう。
「なんで、そこまで……ああ、そうか」
兄かと続いただろう言葉は飲み込まれてしまって音にはならなかった。音にならなかったものは、そのまま気づかなかったことにしていいだろうか。
「そうだ。さっき、そのままのお前が魅力的だって言ったろ」
彼の兄のことは持ち出さず、けれど言葉にならなかった部分の否定はさせて貰う。元恋人の弟だから抱くのだなんて、さすがに思われたくない。それにどちらかといえば逆だろうと思う。そこを意識したら、抱けなくなってしまいそうだ。
「えっ?」
「お前がちょっとヤダとか零したくらいで、いちいち萎えたりしないし、たとえ殴られたり蹴られたりしたって、それでお前を抱けなくなったりしないくらい、お前の事が可愛く思えて仕方がないよ」
言いながら、昂ぶりをわかりやすく相手の肌に押し付けてやる。こちらはまだバスローブをしっかり着込んだままだし、気付いていなかったんだろう。びっくりしたようで一瞬身を固めたあと、それからフイッと顔を背けてしまう。
「ズルい……」
囁くような呟きに、そうだなとは返さずただ苦笑を噛み潰した。
互いに一番の相手じゃなくても、他にはっきり好きな男が居るとわかっている相手とでも、セックスが出来て更には恋人にだってなれるような大人なんて、狡くて卑怯で酷いに決まっている。でもそうでなければ、二桁近く年の違う子供の無茶を受け止めた後、そのまま何事もなかったかのように放してなんてやれないだろう。
狡くて卑怯な大人だから、彼の望みを果たすために、都合よく使われてやることが出来るのだ。
それに気づくべきだとは思わないし、彼にはただひたすら、今のこの時間を甘やかされて過ごしてくれればいい。彼がどんな態度をとっても、何をしても、言っても、されても。行為を終えるまで優しく愛せる自信があるし、終えた後には、何もなかったかのように振る舞える自信だってあった。
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