ベッドに俯せて腰だけ上げさせるような格好をさせ、アナルの浅い位置だけをクチクチと指先でくじる。シーツをキツく握りしめる拳からも、時折殺しきれずに漏れるうめき声からも、本心ではこの行為を拒んでいるのは明白だった。
好きな子を恋人から奪うため、初対面の全く好きでもない男相手に体を差し出すその心意気は買うし、この状況を作り出したのは紛れもなく自分自身なのだけれど、率直に言って全く興奮しない。もっとはっきり言えば心も体も萎えきっていて、アナルを弄っているのもほぼ惰性からだった。
だってまさか了承するなんて思わなかったし、ふざけるなと怒って帰るか、身の危険を感じて帰るか、とにかくさっさと帰って欲しいのが正直な気持ちだった。もちろん相手がどこまで必死か試す気もあるにはあったが、だからって本当にこの男を抱きたいだとか、誰でもいいから溜まった性欲を発散したいとかを本気で思ったわけじゃない。
だから嫌悪を隠しもしない相手が、わかりましたと告げた時には、思わず自分の耳を疑った。正気で言ってるのかと聞き返したが、それにもはっきりと正気だと肯定が返って、驚いたなんてものじゃない。
だから慌てて、抱かれろなんて言ったのはただの冗談だとか、ちょっと意地悪がしたかっただけだとか言って前言撤回しようとしたのに、それがなぜか相手のやる気に火を付けたようだった。
いいえ抱かれますと言い切って立ち上がりこちらを見下ろしながら、その代わり絶対別れて下さいよと念を押す姿は随分と威圧的で、そのくせ悲壮な覚悟がチラつく必死さがあって、相手は幾つも年下の大学生だというのになんだか何も言い返せなくなってしまった。
内心ではしまったなと盛大に後悔していたが、結局シャワーを貸せと言う相手をバスルームに案内してやったし、まるで覚悟を見せつけるように素っ裸で出てきた相手を寝室に連れ込みベッドに転がし、こうしてアナルをいたずらに弄っている。
苦笑なんてこぼれまくってるし、なんならため息だって吐きまくってる。だってこの子は優しく触れさせてもくれない。兄の幸せのためにその体を差し出しているだけで、こちらの性欲処理につきあうだけのつもりで、そんなのいいからさっさと突っ込んでくれと言い、愛撫しようと肌を撫でる手を嫌そうに払い除けたのだ。
他に好きな相手がいる子を抱くのが好きだという、大変困った性癖持ちな自覚はあるが、それは報われない想いを抱える子を一時的にでも優しく甘やかしその想いごと受け入れてやるのが好きなのであって、他に好きな相手がいる子を無理矢理どうこうしたい欲求はない。いくら相手が了承していたって、こんな状態の相手に突っ込むのはレイプとそう変わらないと思う。
まぁ突っ込む気なんてないから、こうして浅い場所だけ弄り回しているんだけど。
相手に抱かれた経験がなかったのは幸いだった。初めてなら尚更ゆっくり少しずつ慣らして拡げないと、挿れる側だって気持ちよくないどころか痛かったりもするんだよと、前戯なんて要らないという相手を言いくるめて、アナルをじっくり弄られることを受け入れさせた。
さっさと突っ込まれて終わりたいだろう相手はもちろん不満げで、時折まだかと急かすような言葉を吐くが、それをはぐらかしながら浅い場所ばかりを弄り回すのにもそろそろ限界が近い。
最後の手段として、初めての体をいきなり抱くのはやっぱり無理だよと言って中断するという手がないわけではないのだが、本気で抱こうともしていないのに、抱けない理由を相手のせいにするようで躊躇ってしまう。兄のためにとここまでの覚悟を見せている相手を、無駄に傷つけたくはなかった。
どうしようかと迷いながらもやむにやまれず指を動かし続ける中、ピンポンと玄関チャイムがようやく響いてホッとする。やっと来たか。
一度鳴ったらそれは立て続けに鳴り響き、来訪者の苛立ちと焦りがよく分かる。
さすがのおかしさに、目の前に体を投げ出している相手も頭を振り向かせ、訝しげにこちらを見つめてきた。
「どうやらお迎えが来たようだよ」
「……えっ?」
「弟を差し出して俺と別れるのは嫌だとさ」
お前がシャワー浴びてる間に連絡取ったと言ったら、相手の目の中で、はっきりと怒りの感情が揺れるのがわかった。
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