抱かれる覚悟は出来ていたのに

 恋人とふたりきりの部屋の中、ふっと会話が途切れた瞬間に、あ、これは、と思ってすぐさまそっと目を閉じた。思った通り相手の顔が近づく気配がして、唇を柔らかな熱が覆っていく。
 そのままゆっくりと毛足の長いラグの上に押し倒されて、やっぱり自分が抱かれる側になるんだなと思う。
 彼からの告白を受けた時から、きっとそうなるだろうと思っていた。
 体格こそ相手のほうがやや細身で小柄ではあるが、どう考えたって抱いて欲しいと言い出すような性格ではない。わかっていて恋人となることを選んだのは自分なので、抱かれる覚悟も準備もできている。
 付き合いを開始してから先、こうなる日が来るだろうことを予測して、男同士のセックスのやり方を調べてアナルを拡張してきた。なぜなら、自分は相手が童貞だということも知っているし、どちらかと言えばガサツで大雑把で猪突猛進型タイプだということがわかっているからだ。そんな相手に、まっさらな体を差し出すのは、さすがに無謀すぎるだろう。
 チュッチュとキスを繰り返しながら、どんどんと服を脱がしに掛かって来る相手に協力すれば、あっという間に腰から上の肌を全て晒すはめになった。唇の上に降りていたキスは、晒された肌の上に落ちるようになり、しかもそれはどんどんと下降していく。
 初めての行為に、はやる気持ちはわからなくはない。同じく童貞でセックス経験皆無の自分が、そんな相手を幾分冷静に見ていられるのは、抱かれる側になる緊張が酷いからに他ならない。
 それでも、下腹部へ向かって肌の上にキスを落とす唇が、ジーンズのフロントをくつろげて取り出したペニスへ到達すれば、期待と興奮で一気に熱があがって何も考えられなくなる。初めて感じる人の口の中は、生暖かくぬるっとしていて、技巧なんて何もないハズなのに気持ちよくてたまらなかった。
 アナル拡張訓練をしていたなんて事はもちろん教えていないので、これはきっと、突っ込まれて辛い思いをする前に気持よくさせてやろうという、彼なりのサービスなんだろう。だったら遠慮無くイッてしまえと、意識をそこに集中する。しかし、そろそろイきそうだと口から漏らした瞬間、それは彼の口からペッと吐き出されてしまった。
「なに、イかせてくれないの?」
「は? 当たり前だ」
「なんで?」
「なんで、って、そんなの、出しちまったら使いもんにならなくなるだろ。それともお前、イッても萎えない絶倫系?」
「使い物って?」
「ここまで来てカマトトぶんなよ。セックス、しようって言ってんの」
「うん、それはわかってる。いいよ。覚悟出来てる」
「だったら先に一人だけイこうってのがオカシイのわかるだろ」
 えー……と零れそうになる不満をどうにか飲み込んで、仕方無くわかったよと返した。
 初心者同士で一緒にイけるようなセックスが出来る可能性は微塵もないだろうが、童貞だからこそそんな夢を見てしまうのだろうか。自分がそんな夢を見れないのは、男同士のセックスを調べすぎたのと、拡張訓練をしたとはいえアナルで感じてイケるほどの開発は出来ていないからだ。
 相手はこちらの了承に機嫌良さそうに笑ってみせると、潔い勢いですべての服を脱ぎ捨てる。こちらはもちろん、まだジーンズを履いた状態だ。脱がされるのを待たずに自分で脱いでしまえと、ジーンズに手をかけるその横では、膝立ちしている彼が開いた自分の股間に自分の手を差し込んで何やらしている。
 何やらと言うか、まさかそれって……
「おい、お前、何してんの?」
「何って、準備はしてあるけど、もっかいちょっとほぐしとこうと思って」
「は?」
「そんな驚かなくたって良いだろ。お前、男同士で準備もなく、すんなりセックス出来る気でいたわけ?」
「いやいやいや。それはわかってる。じゃなくて、え、なに、お前が突っ込まれる側なの?」
 言ったら呆れた顔で、そりゃそうだろと当たり前のように返されて驚いたなんてもんじゃない。
「待て待て落ち着け」
「落ち着くのはお前だ」
「えっと、本気でお前が抱かれる側なの?」
「だからそうだっつってんだろ。お前好きになったの俺で、お前は俺に頼み込まれて恋人になったようなもんなんだから、そのお前に女役まで押し付ける真似したら男が廃る」
「なんだその理屈。それでお前までアナル拡張訓練したってのかよ」
「お前までって……え、まさか、お前、俺に抱かれるつもりだった?」
 そのつもりで準備も覚悟もしてきてると言ったら、相手は心底驚いた様子で目を瞠った。
「あー……と、一応聞くけど、今もお前は俺に抱かれたくて仕方ない感じ?」
「いやそんなことは全くない」
「じゃ今日のとこは俺が抱かれるから。その先については、終わった後で考えよう」
 とにかくまずは一回やってみようぜと誘われて、どうしてこうなったと思いながらも頷いた。

 
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