「そんな顔されると困るな」
疲れ切った顔でこちらを見ながら、言葉通り困ったように苦笑されて、そんな顔を見せられて困るのはこっちも一緒だと思う。多分きっと同じような困り顔を見せながら、それでもまずは謝ろうと思った。
「ごめん」
「謝ってほしいわけじゃないって」
「けど、無理させた、し」
「そこは加減できないほど夢中になった、って思っとくからいい。それより、今の気持ちが知りたい」
「今の、気持ちって……?」
「だって気持ちよかったサイコーって顔じゃないから。イッて冷静になった今、どんなこと思ってんのかなって。思ったほどには、楽しめなかった? やっぱ今後は、突っ込むのはなしで、手で抜きあうほうがいい感じ?」
ああ、そうか、と思う。
一緒に気持ちよくなりたいこちらの気持ちに、ただ寄り添ってくれているだけだとわかっていたのに。穴だけ差し出してこちらが気持ちよくなるだけだって、彼にとっては充分に満足する好きな子とのセックスだとわかっていたのに。
こちらがこの行為を楽しんで、気持ちよくイケるかどうかこそが彼にとっては大事なのだ。好奇心でいいのも、恋愛感情でなくていいのも、その好奇心をもっと満たすためにもう一度したいと言われる方が、彼にとっては嬉しい事だからなんだろう。
「お前が嫌じゃないなら、またしたい」
なら良かったと安堵されて、ほらな、と思う。
「ただ、次したら、お前を可愛いって言うの、我慢出来ないと思う」
「へ?」
間抜けな音を漏らしながら呆気にとられた顔をされて、それすら可愛いと思ってしまうから、どうやらまだ行為中の気持ちをかなり引きずっているらしい。
「可愛い」
その顔が、とまでは言わないまま、顔を寄せて軽く唇を塞いでやった。
「可愛いんだよ、お前が」
告げて何度かキスを繰り返せば、キスの合間に、えっ、とか、あの、とか短な戸惑いが漏れる。うっすらと目元が赤く染まっていくのも見えてしまって、やっぱり胸の中がもやもやとしてしまう。
可愛いと言われて、怒らないどころか多分きっと嬉しいか照れくさいのだろう相手に、なんでだと八つ当たりじみた気持ちまで湧きそうになって、慌てて顔を離した。でももう、遅かったらしい。
こちらの顔を見た相手が、頬を上気させたまま訝しげに眉を寄せて、それから不安そうに瞳を揺らす。
「可愛いって、いい意味ではないんだな」
喜んじゃいけなかった? と聞かれて、喜ばせてゴメンと謝った。さすがに落胆を隠せない様子に胸が痛い。
「優越感と見下し、だよ。俺にはっきり恋愛感情って呼べるものがないのわかってて、好奇心でいいって言いながら、必死になって俺に抱かれてるお前が、健気で、憐れで、どうしようもなく可愛いんだ。なんで俺なんかにそこまでって思うのに、お前の献身的な好きを見せつけられるたび、たまらなく嬉しい。あのお前が、俺をここまで求めてるって事実に、多分興奮してる」
そしてそんな自分にかなり嫌気がさしてる、と伝えれば、相手は困ったように笑って、そういうとこも好きなんだけどね、と言った。
「可愛いって思った部分だけ抜き出して俺に伝えて、何を可愛いって思われてるかわからないまま喜ぶ俺を見て、心の中でバカにしたり気を晴らしたりしないんだよな、お前って。それどころか、バカ正直にお前を見下してる優越感で可愛いと思ってる、なんて言ってくるんだもん」
そういう所すごく好きだよ、と続ける声は穏やかで優しい響きをしていた。
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