理解できない22

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 何も知られず、正直な気持ちを隠し通す気ならば、このまま強気で平気なふりを貫くしか無いだろう。そうして平然を装いながら、とにかく彼との会話をなるべく早く終わらせることを考える。
「なら用事はもう終わったよね。気が済んだならさっさと帰ったら?」
 これから久々に四人揃っての朝食という場面ではあるし、さすがにこれで席を立つとも思わないが、さっさと帰れと言わずにいられなかった。彼をはっきりと避けた結果がこれだとしても、やはり早く居なくなって欲しい意思表示くらいはしておきたい。
「終わってないしまだ帰れない」
「俺の顔、見たじゃん」
「そんな顔見せられて、帰れるわけないだろって言ってんの」
「そんな顔って……」
 どんな顔と聞く勇気は出なかった。睨んでばかりという自覚はあるが、もしもそれを泣きそうな顔と指摘されでもしたら、これ以上涙を堪えられる自信がない。そんな危険に自ら踏み込む真似はしない方がいい。
「朝メシ食ったらお前の部屋でゆっくり話、するから」
 覚悟しとけとは続かなかったけれど、そんな幻聴を聞いた気がした。怒っているらしいのはわかっているが、この調子で何かを問われるのだとしたら憂鬱で仕方がない。自室で二人きりだなんて、ますます逃げ場がない。
 逃げ出す真似はしたくはないが、逃げ場がない場所でこれ以上追い詰められるのだって、出来れば避けたいと思う。けれどこの様子だと、自室で話し合うのを避けられそうにない。
 幻聴通りに、覚悟を決める必要がありそうだった。
「全く。そんな怖い顔して。これ以上追い詰めるようなこと、しないでよ?」
 相手を咎める柔らかな声は、テーブルの上に朝食を並べていたおばさんのものだ。怖い顔と指摘された相手は、ハッとした様子で少し表情を緩めた後、気まずそうにわかってるよと返している。
「そうだぞ。自分の意思で家を出たんだから、その結果がこの態度だってなら、それはちゃんと受け入れてやれ。八つ当たりはみっともないぞ」
 彼の隣の席に座ってテレビを見ていたはずのおじさんも、会話に参加してくる。どうやら二人とも、こちらの会話が一区切り着くのを待っていてくれたらいい。
「それもわかってるって。あー……その、悪かった。困ってることあるなら、前みたいに相談に乗りたいってだけだから、そんな身構えないでくれよ」
 謝罪から先はこちらへ向けての言葉だ。うん、と短く頷くことはしたけれど、前みたいに心強いと安堵することは出来そうにない。だって今抱えている悩みの殆どは彼に関することで、それを彼本人に相談なんて出来ないと思ったからこそ、今がある。出来る相談なら、とっくにしてた。
「はい、じゃあいただきましょう」
 その言葉にいただきますと返して箸を手にしたものの、気分は既に朝食どころじゃない。もともとない食欲がますます減って、口に入れたものを飲み込むのが難しい。けれど食べ終えたら部屋に戻って彼と話をしなければならないのがわかっていたから、ごちそうさまとも言えずに、ちまちまと口に運び続ける。ただそれも、いい加減限界だった。
「終わりでいい?」
 完全に手を止めてしまえば、少ししてそう声を掛けられた。黙って頷けば、じゃあ行こうかと相手が立ち上がる。相手はもちろん、とっくに全て食べ終えている。
 いつも以上に残してしまったことをおばさんに詫びてから、こちらも覚悟を決めて席を立った。

続きました→

 
 
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