理解できない44

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「お前のせいで言えない、ってよりは……」
 慎重に言葉を選んでいるらしく、吐き出されてくる言葉はゆっくりで、どこか重々しい。
「今のお前を抱くことに、まだ、迷いがある」
「迷いって、どんな?」
「実際のとこ、どうなんだよ」
「どうって、何が?」
 質問に質問で返されてしまったが、何を聞かれているかがわからず、結局またこちらも質問を返してしまった。
「俺が抱かせてって言った場合、お前の負担、大幅に増えんじゃないの?」
「体の準備の話?」
「そう」
「抱きたいから準備してきてって言われたら、喜んで準備してくるけど」
 暫く弄っていない体だけど、急げば一週間でどうにかなるだろうか。それとももう少し余裕を貰ったほうがいいだろうか。
 仕事が終わる時間や、帰宅後に使える時間とを思い浮かべながら、どれくらいで可能かを即座に考え始めてしまったけれど、でもどうやらそういう話ではないらしい。
「いや、そうじゃなくて。というかそれは知ってるけど」
「え、じゃあ、何?」
 さっきから微妙に噛み合っていない様子のやり取りに、少しずつ苛つきが増していく。発した声も不機嫌さが滲んでしまった。
「抱きたいよって言ったら、お前があれこれ準備してくるのは知ってる。けど、その準備って、日頃から自分でお尻弄って広げたり、前日から食事減らしたり、ってのが含まれてるだろう?」
「そりゃだって、必要だし。あ、でも、今会ってる頻度で抱いてくれるなら、自分で弄って広げておかなくても平気かも」
「うん。だからさ、お前が平然とやろうとするそれらをな、俺がお前に突っ込みたいってだけで、して欲しいと思えないんだって」
 少し情けない顔になった相手が、疲れを滲ませた声でそんなことを言う。だって必要じゃん、という主張はダメだったらしい。というか、必要なのは相手だってわかっていて当然だった。
 突っ込みたいってだけでして欲しくない、と言われてようやく、何を問題としているかわかったような気がした。
「わかって貰えるか、わかんないけど」
「わかりたくないなぁ、って感じなら、する」
 彼の言いたいことはなんとなく理解出来たけれど、でもそれを嫌がられたら、いつまでもセックスできる関係になれないじゃん、と思ってしまうのだって仕方がないとも思う。だって、抱きたいと思ってくれているなら……
 そこまで考えて、ああそうか、と思う。抱きたいと思ってくれているなら、という前提が必要だけれど、自分だって彼に抱かれたいと思っているのだ。
 抱いて欲しいと迫って抱いて貰うことにはたいして魅力を感じないから、別に抱かれたいわけじゃないと思い込んでいた。セックスなんてしなきゃしないで楽だと思っているのに、抱きたい気持ちがなくなっていたらと思うと胸が苦しくなったのも、本当には抱かれたい気持ちがあったからだ。抱きたいと思ってくれている彼に、抱かれたい、という気持ちが。
「えっとさ、準備したのに抱いて貰えなかったら、面倒なことさせやがってとか、こっちの労力無駄にしやがって、とか思うかも知れないけど。でも、抱きたいって思ってくれてて、ちゃんと抱いてくれるなら、準備が面倒だとか大変だとかなんてちっとも思わない。だからもしそれを、俺の負担が増える、って思うなら、無駄にせず抱いてくれればいいと思うよ」
「そうだな……」
 そう言ったきり、彼は何事か考え始めてしまった。
 そうだな、というのは肯定なはずで、たぶんきっとこちらの気持ちはわかってくれたのだろうと思うけれど、それでも、彼が次にどんな言葉を告げるのか、ドキドキしながら待ってしまう。じゃあ抱かせて、って言ってくれたりしないだろうか。

続きました→

 
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